妹《シスター》ウルフの恋。

文字数 1,769文字


 
 空から大勢の降下兵が降りてくる。銃を乱射しながら降りてくる。
 わたしと彼が遊びに来ていた遊園地。恋人同士や小さい子供連れの家族で賑わう遊園地。
 銀河連邦軍兵士は民間人を無差別に虐殺し始めた。兵士は楽しみながら殺している。

「これよりクローン培養した右足の接合手術を始める」

 彼が撃たれた。わたしに一人で逃げろと言う。彼から噴き出す血、血、血……。止まらない。
 彼は笑顔で愛していると言い残し…………死んだ。
 その場で彼と一緒に死のうと思った。でも脳裏に両親の優しい笑顔が浮かぶ。わたしを心配しているだろう。通信は繋がらない。必死で家に逃げ戻る。

「続けて左腕の接合手術。その後左足を切断し、強化細胞の左足と入れ替える」

 両親は避難する事もなくわたしを家で待っていてくれた。空爆が始まる。
 家に爆弾が直撃して倒壊した。両親は私を庇って瓦礫の下敷きになり……。
 
「経過を観察し、後日右腕の交換手術と重度の熱傷の皮膚と共に全身の皮膚交換を行う」
「体の本体には手を加えないのですか?」
「他部署による、改良した生体ナノマシンでの強化措置を行うそうだ」

 彼と両親を殺した銀河連邦、憎い、憎い、憎い……。
 必ず復讐する。殺す、殺す、殺す……。

「憎悪の感情が高まっています」
「制御してくれ。ただし感情の全てを消さないように注意して」
「改良型のコントローラーなら今度は大丈夫ですよね」
「ああ、兄の時は感情を制御しきれなかったからな」
「彼にあれほどの強い憎悪の感情があるとは思いませんでした」
「普段は妹の為に感情を押し殺していたのだろう」
「裏切者のせいですよね」
「彼の星を消滅に追いやった首謀者だからな」
「自分はちゃっかり亡命して今は政府の要人ですもんね」
「彼はどこでその情報を知ってしまったのか……」

 彼がわたしの大好きな花をくれた。とても綺麗。いい香り。
 花言葉は……。

「この子の恋人の遺伝子は採取済みなんですよね」
「恋人の遺品に付着していた血液からな」
「クローン再生してあげたいな。心の安定を保てると思いますし」
「この子が望むならそうしてもいい。ただ、記憶は再生できないからそれでもいいなら」
「この子はこの星の腐敗政治を打ち壊す為の切り札ですし」
「わかっている。我々の理念を理解して、自ら志願してこの強化改造手術を受けてくれた」
「我々長年虐げられてきた者達の救世主になりうる存在です。できる限りの事はしてあげたい」

 今日は兄さんと彼とわたしとで郊外の森にピクニックに来た。
 兄さんはもうすぐ遠い惑星に留学してしまう。しばらく会えなくなるのは寂しい。
 森の奥で銀河狼を見た。岩の上に立つその姿は力強くてとても美しい。
 銀色で大きなその狼は、沢山の銀河狼の群れを率いている。

「強化用生体ナノマシン注入開始」
「拒絶反応は?」
「ありません。これほどの適応率の高い被験者はこの子の兄以来です」

 銀河狼を見たあと、兄さんとわたしとで古代拳法の組手をやった。
 兄さんは強い。でもわたしだって負けない。
 彼が自分も拳法を始めたほうがいいだろうかと言った。
 無理にやらなくてもいいの。あなたは今のままでいいの。今のままのあなたが大好き。

「この子の兄はどうなっている?」
「現在調整槽の中です。肩から胸にかけての傷はほぼ完治しました」
「警察内の同士のおかげで回収できて良かったな」

 今日は彼の誕生日。プレゼントは……。

「今日の模擬戦は素晴らしかったですね」
「完成した強化改造体の彼女と、再調整で強化された彼女の兄が揃えば」
「ウルフコマンドの大軍を率いて革命の始まりですね」
「彼女が望んだ恋人のクローンは?」

 彼が生き返った。ううん、わかっている。この彼はクローン。
 でも彼の遺伝子はここに生きている。わたしの前で生きている。
 わたしと彼が一緒にすごした二人の記憶はこの彼にはない。

 でも、また最初から作りましょう。二人で作る多くの愛の記憶を……。




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