春一番

文字数 1,086文字

 残りの三ヶ月間。あっという間に過ぎていった。春一番みたいって言えば分かるかな。

 退院して、自宅へ。今まで以上に仲の良くなった両親は私のしたいことを何でも応援してくれた。
 私はとりあえず学校に行きたかった。親友の楓や同じ高校三年生の透人に図書館とか私の部屋で勉強を教えて貰ってなんとか卒業出来ることに。
 最後に卒業できたことは本当に嬉しかった。

 ちなみにね、楓は看護の専門学校に通うことになって、透人は医療系の大学に入ってお医者を目指すみたい。私の病気に感化されたのかななんて思ったけど、二人は必死にそれを否定していた。その必死さが逆に嬉しかったんだけどね。



 余命半年って宣告されて今日で丁度半年。私は車椅子に乗って透人と一緒に桜を見に来てた。花見は家族みんなで一回したから今年はもう二回目。
 もう桜が散る頃で桜の花びらが絨毯みたいに足元に広がってた。

    両脇には桜の木があって、真上を見上げると、桜の枝があって、きっと満開の時に来たら"桜のトンネル"みたいになっていたんだろうな。 

    私の乗る車椅子の車輪が桜の花びらで彩られて、綺麗になっていくのが少しおかしかったっけ。

「美波。この三ヶ月間。どうだった?」
 私の後ろから彼の優しい声が吐息とともに届いた。
「うーん。つまんなかったよ」
「え!?」
 透人の慌てたような表情が目に浮かぶ。
「うそうそ。楽しかったよとても」
 私は笑いをこらえきれずくすくすと笑ってしまう。
「よかった。そう言えば美波の誕生日って今日なんだよね?」
「そうだよ。誰から聞いたの?」
「楓ちゃんから。今日出かけること話したら突然教えてくれてさ。何もプレゼント用意出来なかったよ」
「でも。去年はプレゼントくれたじゃん」
「え?」
「去年の今頃、透人と話し始めたんだよ。だからね、それが私にとってはプレゼントなの」
「そうだね」
 透人の声が少し曇った。泣いてるのかな。
「透人が自分のこと話してくれた日あったでしょ。あの時とても嬉しかった。私のこと好きって言ってくれたし両想いだったし、それに信用されてるって思えたから」
「そっか……それならよかった……でもごめんね」
「泣かないで。それにこっちこそごめんね、透人の誕生日が私が余命半年って宣告された日だなんて知らなくて。多分……今年も誕生日プレゼントはあげれないかな……」
 透人が後ろですすり泣く声が聞こえてくる。涙は私の肩に落ちてしみを作ってる。
「ねえねえ。透人。こっち来て」
 透人は車椅子を押していた手を離して私の前に。あの時と同じ泣き顔だ。
私はしゃがみ込んだ透人の両肩に手を置くと、首をめいっぱい伸ばした。
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登場人物紹介

香西美波(かさいみなみ)

白血病の女子高生。

Talkmanのアイコン画像は羊。

小南透人(こなみゆきと)

病気の高校生

Talkmanのアイコン画像はロボット。

秋谷楓(あきたにかえで)

主人公(香西美波)の親友。

Talkmanのアイコン画像は黒猫。

阿達先生

主人公の担当医。

長澤

主人公が入院している病院のナース。

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