第13話 近代美術館①

文字数 1,235文字

 ニューヨーク近代美術館、通称「MoMA」はマンハッタンのミッドタウン五三丁目に位置し、独創的な現代アートが数多く展示されている。それは彫刻、絵画にとどまらず写真、フィルム、家電用品などにもおよび、アンディ・ウォーホールやロイ・リキテンスタインなどの近代的で斬新な作品もあれば、ピカソ、ゴッホ、ダリといった有名作家の絵画も多く展示されている、現代アートの象徴とも言える美術館であった。
 ミカはそのフロアの一角にいた。見渡すところ、どうやらそこは入館口のある一階ではなくどこか上のフロアのようであった。
 先程の野生動物同様、突然何が現れるかわからない。ミカはすぐに身を隠せそうな箇所を探した。そこからチラチラと様子を伺いながら素早く次の箇所へと移動を繰り返す。
 ミカはフロアマップの冊子を見つけると、その中の一つを抜き取り、目を通す。すると、数えるほどしか来たことがない美術館の全景が頭の中にすうっと入ってきて、フロアの造りが手に取るようにわかる。階下に下るためにはフロアを横断しなければならない不自由さも、なぜか設定として受け入れることもできた。
 身をかがめ、作品の展示されているフロアに移動する。すると、壁にかかった大きな絵画が現れた。ピカソの「アヴィニヨンの娘たち」、タイトルまでは覚えてなかったが、あまり絵画に興味のないミカでもその画風はすぐにピカソのものだとわかる。ザックが夢の中で模倣したものとはいえ、その独創的な作品に一瞬目を奪われた。
 すると、視界の端に黒い人影が動いたのに気づき、慌てて腰の高さほどの展示作品のディスプレイの陰に身をかがめて隠れる。
「誰だ! 誰かいるのか!」
 ミカは声の方をディスプレイの陰からそっと覗いた。そこには黒い軍服にブーツ、黒い目出し帽をかぶり、カラシニコフの通称でテロリストから愛されるAK-47という小銃を構えた男が立っていた。
「そこにいるのはわかっているぞ! 今すぐ出てこい!」
 ミカはすぐに顔を引っ込めたが、男に居場所が悟られてしまう。
 夢の中で銃のように精密な物は操れない。銃は大小様々なパーツで組み上がっていて、それがいかに連動して弾丸を打ち出す撃針に至るか、日頃、銃の分解結合をして、その扱いに長けているはずのミカですらそれを正確になぞることは容易ではなかった。また、それができたとしても、撃針により撃ち出される弾丸がどのように反応して薬莢の中の火薬を爆発させるか、それを引き金を引く一瞬で想像できる人間がいるはずもない。いくら想像力に長けているゲームクリエイターとはいえ、銃器のプロであるミカにできないことがザックにできるはずもなかった。
 撃てるわけがない、そう思いながらミカは男を確認するためにもう一度、顔を出して確認する。すると、男は確実にミカの方へ銃口を向けていた。ミカは危険を感じて咄嗟に顔を引っ込める。
 連続する渇いた破裂音と共に、つい今までミカが顔を出していた箇所に弾丸が被弾する。
「そんな馬鹿な!」
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