2 ✿ 危険物

文字数 2,896文字




 良治は傷ついた身体にむち打ち、全力でマリーを守った。
 けれどもついに力尽き、道場の床に倒れてしまう。

良治さん!!

 マリーが甲高い悲鳴を上げる。
 すると、ドタドタと数名の足音が道場へやってきた。

女性の叫び声だ!
道場の方です!
何事ですか!?

 鞍馬(くらま) (まさる)帯刀(たてわき) (さく)、ジョンの三人だ。
 ジョンは、日本にいる間、帯刀家に宿泊する予定だ。「警視庁へ行く前に彼の荷物を帯刀家に置いたら良いだろう」と、空港からここまで送ってもらったところだった。

「マリーさん! 一体なにがあった? 怪我は?」

 帯刀 作が、真っ青な顔のマリーに駆け寄る。

「私はなんとも…。それより、良治さんを…」

 マリーは倒れている良治へ駆け寄った。

「この方は私の知り合いです。良治さん、良治さん!!

 いくら呼びかけても良治は返事をしない。気絶しているのだ。
 作は自分のスマホで救急車を呼んだ。
 
「展示会で痴漢を止めてくれた少年じゃないか!」
 勝は目をしろくろさせた。

「どうして…【例の彼女】が、ここにいるんです?」

 勝とジョンの視線が、同時にソックリアへ向いた。
 ソックリアは舌打ちを忍ばせ、よろりと立ち上がる。

動くな!!

 鞍馬 勝は、ソックリアへ銃口を向けた。
 ジョンは携帯の捕縛ロープを出すと、魔法で宙に浮かばせ、らせん状にほどく。

「来ないで…。私には仕事があるの…よ」

 ソックリアは、ふところからスマホを出すと、素早く画面をタップした。途端、ジョンのロープが彼女を拘束した。縛られた彼女の手からスマホが落ちる。ロープで縛られたソックリアはニタニタしていた。

「おまえ、なにをした!?」

 勝は、ソックリアのスマホを拾う。
「ん?」
 拍子抜けした様子で目をしばたいた。

エラー?

なんですって!?

 ソックリアは目を剥き「そんなはずはない!」と声を荒げる。

「どう見てもエラーって出てるぞ?」

 勝はソックリアに画面を見せる。

「仕事と言ったな? もしや、この端末から…」

 ソックリアは、スマホでなにかの【仕事】をしようとした。
 勝には、その【仕事】に思い当たるものがあった。
 自分と仲間が動いている件で。

「でもどうしてエラーになったんだろう?」

 トルル、と勝のスマホが鳴る。着信だ。

「もしもし、まさるん?」

 同じ課の、中武(なかたけ)(まなぶ)から連絡だ。

ダウンタウンプールで見つかった不審な機械やけど、処理班が取り外したよ」

恐竜パレード展示会においても、処理は完了しました」
 黒木(くろき) 智子(ともこ)から、連絡が入る。

夏フェス会場においても、処理完了」
 宿木(やどりぎ) (えん)からも、報告が来た。

「まさるん、ジョンを迎えに行ったんやろ? 彼は無事、日本に到着したのか?」
 電話越しに、円が訊ねる。

「今、本部に案内するところだったんだ。彼の荷物を置かせてもらおうと帯刀家に寄ったら、思わぬ客がいてな。なんとソックリアを発見した」

はぃぃ!? なんでや!?

 学は驚嘆した。

「俺も、なぜ彼女がここにいるのかは分からんが、爆発は未遂に終わった。彼女は自分のスマホから「起爆」したつもりだったが、学たちが早くに爆発物を処理してくれた。で、【エラー】ってわけか」

 勝は、ソックリアと目を合わせる。

「おまえが都内各所に仕掛けた爆弾はどれも処理されたぞ」

「ぜ、全部…?」

「ああ。全部だ。残念でした

 勝は「べ」と舌を出す。

「なぜそんなに早く先回りができたの!? それに、どうして私が仕掛けたと…?」

 ソックリアは歯を噛みしめ、視線を伏せた。
 彼らが先回り出来たのは、マリーの似顔絵のおかげに他ならない。

 勝たちは、ソックリアのことを、各イベントスタッフに注意喚起した。
 すると各所から「ソックリアらしき人間がいた」と連絡が相次いだ。
 そしてその人物は「カメラをさけた場所に、変なものを仕掛けたようだ」という。

 ただの痴漢ではなく、テロ犯の危険性もあがった為、警視庁は少々大げさな対策本部を立て、爆発物処理班を各所へ向かわせた。今、対策本部の指揮権は勝ではなく、さらに上の者にある。

「監視カメラを壊せば、おまえがどこを出入りしたかも分からなかったのに」

 勝は、ソックリアが監視カメラにそのまま映ったことを不思議に思っていた。

「どうして美術館のように、カメラをダメにしなかったんだ?」

「あとかたカメラを壊したら〝なにかされた〟って勘付かれるじゃない。カメラのハッキングにしても、足跡がつきそうで、いやで。それに……私は死んでいる犯罪者としても顔が知られていない

「それで調子をこいたのか」
 勝は嘆息した。

あと一つで終わりだと思ったのに…」
 ソックリアは、を見つめる。
 ターゲットの作は、マリーと良治を介抱していた。

あんたさえ、殺せば……私は!!

 ソックリアは唇を強くかむ。赤い血が滲んだ。

詳しい事情を聴かせてもらう

来るな!
 ソックリアはペッと、勝の足もとにつばを吐いた。
 彼女の頬を汗が伝う。

「こんなに暑いのに長袖を着ているのか? 変なヤツ」
 勝は、まゆをひそめた。

「どうしてか分かる? なんなら私の腕をめくってみなさいよ」

「いきなりなんだ?」
 勝は眉をひそめた。

首のところ・・・」

 ジョンがシャツの襟元を指差す。
 彼女の首筋に赤い斑点が見えたのだ。

「なにか、アレルギーですか? それとも・・・」

「違うわ。――わたし、梅毒なの」

 ソックリアは、鼻をならした。

「亡くなったオーレリア・ジョンソンも、梅毒にかかっていたな・・・」
 勝がつぶやき、ジョンが「ええ」とうなずいた。

あなたは一体、誰なのですか

 ジョンは、彼女から目を離さずに訊ねる。

「亡くなったオーレリアさんの、三つ子の姉妹?

「ちがうわ」
 彼女は、かぶりを横にふり、


オーレリアは、私よ


 彼女はそう言うと、悲しげに笑んだ。
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登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

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