#09【コラボ】番組収録に参加してみた! (5)

文字数 12,442文字

【前回までのあらすじ】
番組の配信スタジオに現れたハイプロ社長の大谷ケンジ。
三ツ星サギリは社長に対して結果を見せなければ悲痛な覚悟を見せていた。
桐子は灰姫レラとして、サギリの力になることが出来るのか?
いよいよ、番組が始まります。

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「今週も始まりました『五月女さん家の』事前情報番組『五月女さん家のお隣さん』。四週連続でお送りするこの番組もついに三週目ですよ、P子さん」

 話しを振るヒラキさんに、万能アシスタントロイドのP子さんが黒いオカッパを揺らしてうんうんと頷く。

「本当にあっという間デス。充電(いねむり)している間に終わっちゃいそうデス\( ^o^ )/」
「キミ、楽屋でもぐっすりだったのにまだ寝るの?」
「アシスタントロイドの仕事はブラックなんデス。ウェザーニュースに、番組収録、イベントのお手伝い……隙間で寝ないと身体がもちまセン」
「アンドロイド設定どこいった?」
「それってバーチャルアンドロイド差別デス! 人権高等弁務官と労基に訴えマス! 覚悟の準備をしておいて下サイ!」

 ぷんすか怒って額に『怒りマーク』を表示するP子さんに、ヒラキさんは笑いを見せつつも視線をこちらに向ける。

「さて今週も番組を盛り上げるために、素敵なゲストVチューバーさんたちに集まってもらった!」

 背景が切り替わり、ゲスト8人が一斉に登場。それぞれの下には名前が表示されている。

「よろしくおねがいします」「こんにちは」「どもーーー!」「よろしくッス!」「ちぃっす~」「はぁーい」「よろよろー」

 一斉に声を出す他の人達に灰姫レラは圧倒され、完全に出遅れてしまう。

「っ……すっ…………」

 どうにか出したカッスカスに掠れた声は、マイクの接触不良でももう少しマシだろうという酷いものだった。

(初っ端からやらかしちゃった! で、でも誰にも聞こえてないないならむしろ大丈――)
「レラちゃんどうしたの? まさか、キミも充電中?」

 耳ざといヒラキさんのツッコミが容赦なく灰姫レラを襲う。

「は、はい、先生っ! ダイジョブです!」
「先生って、ここは学校じゃないぞ。ボーッとしてるとバーチャル廊下に立ってもらうよ!」

 ヒラキさんの誇張した堅苦しい声に、ゲストの間からドッと笑いが起こる。

「す、すみません……」

 恥ずかしさに身体を震わせた灰姫レラが視線を逸らすとその先で、ナイトテールの夜川さんがグッと親指を立てている。良い意味なのかと隣のサギリさんを見ると、唇を噛むようにして口元に力を込めていた。

「これから8人のゲストにいくつかゲームをやって、ポイントを稼いでもらうよ!」

 配信画面の下部には、各人の名前と『0p』が表示される。

「ポイントは命よりも重い……! ということで最終的にポイントの多かった1人は、なんと地上波のドラマ本編に特別ゲストとして登場する権利が得られるというから太っ腹だ! 皆さん、頑張って下さいよ!」

 ヒラキさんの説明に参加者たちが歓声を上げる。もちろん事前の説明で知っていたので、灰姫レラの棒読み声だけが酷く平板に響いてしまう。

「ドラマといえば、演技ができないと話にならないぞ! ということで、第1ゲームは皆さんに『人狼』をして頂こうか!」

 ヒラキさんの声にSEが続き【人狼】という文字と基本ルールが。映し出される。

「P子さん、人狼のルール説明をお願いね! もう知ってる人もそうでない人もサクッと読み飛ばしちゃって!」

 ヒラキさんが画面の向こうの視聴者を指差す横で、P子さんが説明を始める。

「人狼は村人の中に潜んでいる敵=人狼を見つけ出すゲームデス。多数決の投票により1人を追放していき、敵である人狼を全員追放できれば村人の勝ち。人狼側は投票の後に村人を1人ずつ殺していき、全員殺せれば勝ちデス」
 画面に新しい説明が表示される。
「今回は4つの役職でプレイしまス」

■人狼(2人)
 毎晩1人を殺害する

■村人(4人)
 特殊能力はない

■占い師(1人)
 毎晩1人を指定して人狼か村人かを判別できる
 村人の頼みの綱
 人狼に狙われやすい

■裏切り者(1人)
 人狼側が勝つとポイントがゲットできる
 村人扱いなので占い師も見破れない
 ゲームを引っ掻き回す役

 P子さんが説明している間に、ゲーム参加者の8人に小型タブレットが配られる。人狼用のゲームアプリが入っていて、これを使って今回はゲームを進行していく。リハーサルで説明を受けて、お試しプレイもしているので、全員がルールもアプリの使い方も分かっている。

「さて参加者の方の準備は終わり! まずはそれぞれの役割をランダムに決定だ!」

 ヒラキさんの進行に合わせてアプリが作動し、参加者に役職が割り当てられる。

(あっ! 私が人狼だ!)

 思わずタブレットを胸元に寄せて隠そうとしてしまう。それだと怪しすぎるとすぐに気づいて、何食わぬ顔でタブレットの画面を制服で拭いて誤魔化した。

(もう一人の人狼は……サギリさんだ!)

 タブレットを見ているふりをしながら横目でサギリさんを見ると、彼女もこちらを一瞥していた。

(よかった! 全然知らない人じゃなくて。それに、サギリさんの力になれるかもしれないし……)

 力(りき)む指先でサギリさんへ、個別メッセージで〈頑張りましょう!〉とだけ送る。その返事が来る前に、P子さんがゲーム開始のベルを鳴らした。

「さて、最初の夜が明けまシタ。村の広場には丸裸にされ全身にびっしりと落書きされたヒラキさんの無様な死体が転がっていマス」
「ちょっ! そのディテールいる?」
「死体は黙ってて下サイ」

 ヒラキさんの即座のツッコミに、P子さんも間髪入れずに反応する。肩をすくめたヒラキさんがお口にチャックのジェスチャーをすると、画面上でも動かなくなり、さらに遺影のようにモノクロにされてしまっていた。

「投票まで5分間デス。8人で話し合って人狼を見つけ出して下サイ」

 P子さんがベルを鳴らすと、画面にタイマーが表示される。ちなみに参加者が見ているモニタと実際の番組画面は違っていて、視聴者だけには誰が人狼なのか分かっている。
 スタジオに響いたベルの音が消える。
 つばを飲む音が聞こえるほどに緊張感が高まっていた。

「さて、占い師は誰かしら?」

 沈黙を物ともせずに動いたのは、姫神クシナさんだ。余裕のある声に場の空気が少しだけ軽くなる。

「はい、ボクだよ」

 タマヨさんが肘から先だけを動かす最小限の動作でスッと手を挙げる。

「ちょっと意外ね。それで誰を占ったの?」

 問いかけにタマヨさんは人差し指を立てると、勿体つけるように端の参加者から1人ずつ空間をなぞっていく。その指先が秒針のように灰姫レラの方にも近づいてくる。

(いきなりバレちゃう?!)

 爆発寸前の爆弾を抱えているような居心地だけれど、態度に出すわけにはいかない。お面でも被ったつもりで、自分の心音に耐えているとをタマヨさんの指先は灰姫レラと、隣りに座っている同じ人狼のサギリさんも素通りしていく。
 漏れそうになった安堵の吐息を無理やり鼻息に変えていると、タマヨさんの指先はある人物に向けられて止まった。

「クシナを占った」

 意外な矛先に全員の視線が、クシナさんに集まる。その隙きに灰姫レラはこっそり胸をなでおろしていた。とりあえず安心だと、隣のサギリさんをちらりと見ると、彼女はまだ表情をこわばらせている。

「ふーん、私を。どうして?」
「だってクシナが人狼だったら一番怖いもの。こうやって場を仕切るから」

 クシナさんのはねつけるような視線とタマヨさんの鋭い視線がぶつかる。同じハイプロ所属だけれど馴れ合うような空気は一切なく、お互いを強敵として潰し合う気が満々なのが伝わってくる。

「それで結果は?」
「シロ。ただの村人だった」

 肩をすくめるタマヨさんに、クシナさんが眉をひそめる。

「随分と残念そうね」
「クシナはボクが殺したかったんだもん」

 片目だけを見開きタマヨさんは楽しそうに答える。情感のこもった声色は真に迫っていて、本物のシリアルキラーが同席しているような薄気味悪さだ。

(すごい……鳥肌が……)

 芝居なんて知らない灰姫レラにも分かった。
 これが演技にのまれるという感覚だ。
 二人はこの短い会話だけで、参加者とスタッフ、そして番組視聴者全てを彼女たちのフィールドに引きずり込んだのだ。

「ちょっと待って」

 サギリさんの明瞭な声が、完成しようとした二人の世界に穴をあける。

「二人が人狼なんじゃない?」

 銃口を突きるけるような衝撃の発言だった。全員が驚いただけではない。一気に任侠映画の出入りもかくやという一触即発バチバチ状態に突入してしまう。

「いきなりなに言ってるの」

 戯言だと一笑するクシナさんに、サギリさんはさらに噛み付いていく。

「人狼の二人が話しを合わせて、安全圏に逃げようとしてるふうに見えるけど」
「真実を見通せる占い師はタマヨでしょ? 他に誰も手を挙げなかったじゃない」

 クシナさんの問いかけにタマヨさんが無言でうなずく。

「二人が言い出せない雰囲気を作ったよね。この8人の中で先輩の二人があんな会話してたら、後輩でそれも他事務所の子たちは萎縮するもの」

 一歩も引かないサギリさんに、他事務所のVチューバーさんたちは頼りになる用心棒を見るような目を向けている。

(サギリさんはすごいな。あの二人に一歩も引かないで……)

 社長のケンジさんが見ている前で、何か結果を残さなくてはと頑張っているに違いない。

(って、見てるだけじゃダメ! 私も頑張らなくちゃ!)

 意を決した灰姫レラは、おずおずと控えめに手を挙げる。

「あ、あの……私が本当の占い師なんですっ」

 人が大勢いる場所は苦手だ。いつもの自分だったらこのまま何事も無く場の流れに任せ、目立たないように気配を消していただろう。
 でも今だけは違う。少しでもサギリさんの手助けがしたかった。
 それに『ここ』まで連れてきてくれた河本くんに、少しは成長した姿を見せられるチャンスだと思った。

「へー、灰姫レラちゃんも占い師なんだ」

 クシナさんが面白くなってきたとでも言いたげに微笑む。

「それで、あなたは誰を占ったの?」
「ナイトテールちゃんです! 彼女は人狼じゃありません!」

 とっさに飛び出した嘘だけれど、我ながら上手く言えた気がした。

「そーだね。うん、あたしは人狼じゃないよー」

 軽く頷いたナイトテールは、人差し指で自分の顎をトントンと軽く叩く。

「ですよねっ!」

 話に乗ってくれたことに喜ぶ灰姫レラに、ナイトテールはニカッと笑いかける。

「でも、レラちゃんは人狼だよね」
「へっ……?」

 助けてくれないの、という言葉が喉元まで出かかってしまう。村人として当然と言えば当然の行動だけれど、ナイトテールなら灰姫レラに上手く話しを合わせてくれると思い込んでいた。

「わ、私は人狼じゃないですから!」

 ショックに灰姫レラの反論は一拍遅れてしまっていた。

「まずさー、裏切り者か人狼じゃないと占い師を騙るメリットは無いよね」

 当然わかっていると、4人以外の参加メンバーが頷く。村人が嘘をついても良いことは無い。

「でさー、レラちゃんが占い師か裏切り者だったとしたら。ゲーム開始してすぐに「自分は占い師」だって声を上げてたんじゃないかな。それこそクッシーが皆に呼びかける前に」
「面白い推論ね。ナイトテールはどうしてそう思うの?」

 名前が挙がったクシナさんが興味深そうに話の続きを促す。

「あたしさ、ゲームが始まる前から皆の観察に集中してたんだー。もちろん役職が決まる瞬間の反応もちゃーんとチェックしてた」

 ナイトテールは解答用紙にチェックを付けるように、人差し指を動かす。

「あの時、レラちゃんが一瞬困ったような顔をしたんだよね~。あっ、コレは何か役職が割り振られたってすぐに分かっちゃった」

 反射的にタブレットを隠すような仕草をしたのを、ナイトテールに見られてしまっていたのだ。

「だ、だからそれは占い師に決まったからで……緊張してしまったんです」

 とにかく弁解しなければと焦る灰姫レラだけれど、ナイトテールは誤魔化されないぞと話を続ける。

「でねー、ここからが重要。灰姫レラちゃんは登場の挨拶で、ヒラキさんにツッコミされてたよね。ボーッとしないようにってさ」

 ナイトテールの言葉に、ヒラキさん(遺影でミュート)が大げさに頷く。

「レラちゃんの性格からして、「次は頑張ろうって!」めっちゃ真剣に身構えてたと思う。だから、もし占い師か裏切り者だったとしたら、ゲームが開始してすぐにアクションを起こしてたはずなんだよね」
「そ、そんなことは。えっと、あの、いざとなったら緊張しちゃって、声が出なかっただけなんです」
「それにさー。サギリちゃんがクッシーに反論する前から、レラちゃんはサギリちゃんの方をチラチラ見てたよね。占ったわけでもないのにさー。人狼同士だから気にしてたんじゃない?」
「ち、違います! 私、人狼じゃないです!」

 6人分の疑いの眼差しに耐えかね、灰姫レラは苦しい訴えの声を上げる。しかし、冷たいままの視線は、その声が誰の心にも届いていないと告げていた。

「仲がいいだけなら、ナイトテールちゃんだって! 控室でもクシナさんといっぱい話してたじゃないですか! そっちの方が怪しいです!」

 このままじゃ負けると攻勢に転じようとする灰姫レラ。
 しかし、ナイトテールは待ってましたとばかりに勝利を確信した笑みを見せる。

「んー、でもさ。私が裏切り者だって可能性は、レラちゃん自身が否定しちゃってるよね? レラちゃんのさっきの言葉とちょっち矛盾しない?」
「はぅっ……そ、それは……」
「というわけであたしの推論終わりー。すくなくとも裏切り者で多分人狼のレラちゃんを吊っちゃおっか」

 ナイトテールの呼びかけに、クシナさんとタマヨさんが笑いを堪えながら「はーい」と同意の声を上げていた。他の参加メンバーも声には出さないけれど、心は決まっているようだ。

「やめてください~~~、私を信じてぇくださいぃ~~~」

 助かるためなら土下座でもする勢いで灰姫レラは無実を訴えるが、自分でも万事休すだと分かっている。援護を求めるように隣のサギリさんを見るが、彼女ももう無理だと言うように首を振っていた。
 話し合いの終了を告げるベルが鳴る。

「それでは夕方になりまシタ。皆さん、投票で追放者を決定して下サイ」

 P子さんの進行で参加者はアプリを使って投票を行った。

「結果が出まシタ。追放は灰姫レラさんデス」
「うぅ、さようならぁ……」

 灰姫レラの表示がモノクロ・カラーに変えられ、配信上もマイクを切られてしまう。
 人狼で追放された人間は以降の話し合いには参加できない。

(サギリさん、完全に足を引っ張ってすみませんでした。どうか少しでも私の代わりに長く生き残ってください……)

 心のなかで手を合わせて祈るけれど、現実には神も仏もない。
 灰姫レラの残した疑惑を、サギリさんは必死に払拭しようとしたけれど、一度出来上がった流れはそう簡単に変えることはできなかった。
 結局、次の投票でサギリさんが追放され――。

「犠牲者は出ませんでシタ。えー、人狼全員が追放されたので村人の勝利デス。というわけで、灰姫レラさんと三ツ星サギリさん以外がポイントゲット!」

 P子さんの宣言で6人に1ポイントずつが入り、死んでいたヒラキさんも復活する。

「Congratulation・・・・! Congratulation・・・・! おめでとう・・・・! 人狼RTAおめでとう・・・・!」

 拍手で祝福するヒラキさんは続いて、サギリさんと灰姫レラの方を見る。

「ごめんなさい! まさかこんなことになるなんて……」

 自分が原因だと痛いほど自覚している灰姫レラは、サギリさんだけでなく段取りを付けている番組スタッフに対しても、申し訳無さで頭を下げる。
 身体は冷えているのに、心臓はバクバクと早鐘を打つ。偉いプロデューサーさんに怒鳴られてスタジオの外に蹴り出されるイメージしか湧いてこない。

「あー、もしかして灰姫レラちゃんは人狼が苦手だった?」

 ヒラキさんが声色を優しくする。へこみすぎて机にめり込みそうになっていた灰姫レラは、他の参加者の顔色を伺うようにモソモソと顔を上げる。

「はい、初めてだったんです……。一緒にゲームする友達とかいなくて……。あっ! でも動画はいっぱい見てきたんです! ワザップも見ました! だから、もう少し上手くできるかなって思ってたんですけど……」

 話しながら悔しさがこみ上げてくるけれど、ここで泣いちゃダメなことぐらい分かっている。

「圧倒的やらかし……だが、逆にそれが面白い!」

 目を大きく開けるヒラキさんの言葉に、灰姫レラはこの人は何を言ってるんだと首を傾げる。

「ゲームの参加者からは見えなかったけど、コメントは大盛りあがり。特に、レラちゃんが吊られた所は大草原すぎて画面がみえないぐらい」

 チェック用モニタにコメントが戻ると〈戦犯灰姫レラ〉や〈この速さはTASレベル〉〈ほぼ自白でしょw〉〈さすクシナ嬢〉など、視聴者の冷めなていない熱が伝わってきた。

「あ、えっと……それなら、ありがとうございます?」

 頭の中のプチパニック状態がそのまま変な言葉になって飛び出した。大失敗したはずなのに、なぜかヒラキさんに褒められているし、見てくれる人たちも楽しそうだ。

(喜んでいいの? でも、私のせいで人狼っぽくならなかったし……)

 でも一つだけ確かなことがある。

(私じゃないんです)

 横の席から歯ぎしりの様な音が聞こえた気がした。

(サギリさんが目立って活躍しないと……)

 唇を引き結ぶサギリさんの視線を追う。彼女が気にしていたのはトラッキング用のカメラや司会のヒラキさんではなく、スタジオの壁に背中を預けるケンジ社長だった。

(サギリさんがトップをとってドラマへの出演が決まれば、あの社長さんのしかめっ面も綻んで、サギリさんに優しくしてくれる……はず)

 『優しい世界』なんて子供っぽい考え方かもしれない。でも、物語はハッピーエンドが一番だ。

「それでは次のゲームに行くぞ! 第二種目は、お絵かきクイズーー!」

 灰姫レラの願いや思惑とは裏腹に番組は進んでいった。
 お絵かきクイズでは、ナイトテールが『画伯』としての力を遺憾なく発揮し、番組を大いに盛り上げた。
 溶けたチーズにしか見えない電気鼠や悪夢を具現化したようなアンパンヒーローなど、誕生した『迷作』の数々にヒラキさんやスタッフは大爆笑。さらにはキャプチャ画像がツイッターでバズって、トレンド入りまで果たすほどだ。
 ゲームとしてのポイントには一切ならなかったけれど、ナイトテールという強烈なキャラクターを大勢に知らしめ、スポットライトを奪っていた。
 ちなみに肝心のポイントはイラストレーター並に絵が上手いタマヨさんが一番で、次に灰姫レラが続き、クイズの正答率でクシナさんも多くのポイントを獲得している。サギリさんは苦戦してポイントが伸び悩んでしまった。


「続いては大喜利コーナー! 参加者の無記名の回答を視聴者にアンケートで選んでもらい、1位の人に1ポイントが入る。それではさっそく一問目、P子さんお題を頂戴!」
「いよいよ来週から始まる『五月女さん家の』。その6話目に隣人としてあるVチューバーが引っ越してきマス。さてそれは誰でしょうカ?」
 P子さんの読み上げたお題が文章として画面に表示され、1分間のシンキングタイムが始まる。

(大喜利なら大丈夫。私のつまらない回答が1位を取ったりしないはず。だから、サギリさんが1位を取った時にいい感じで盛り上げられれば……)

 パッと浮かんだ回答をタブレットに書いて、後はどうやってサギリさんを盛り上げるかを灰姫レラは考え続けていた。

「さて視聴者投票の結果が出ました。1位は…………これ!」

 『ねこ』という、シンプルな答えが何故か1位を取っていた。

「灰姫レラちゃんおめでとう! 1ポイント獲得だ」
「ええええええ! 何でですか?」

 思わず上げた心からの疑問に、ヒラキさんやスタッフから笑い声が聞こえてくる。

「まさに隙間産業! 他の回答がちょっと捻りすぎてると、こういうシンプルな答えが引き立つ。お笑いライブで俺らもよくやっちゃうやつだ」

 ヒラキさんが芸人としての感想を述べつつ、苦笑を漏らす。

「その調子で頑張れば大喜利王も夢じゃない。他の皆も頑張れ! さあ、2問目――」

 ――その後も大喜利が続き7問目。

 ついに願っていたチャンスが訪れる。
「1位は三ツ星サギリちゃん! この1ポイントで差を縮められるか!」
「ふー、ポイントゲットだ」

 ようやく笑みを見せたサギリさん。
 嬉しくなった灰姫レラは盛り上げようと声を上げた。

「サギリさん面白すぎます! 『みかんの活造り』って、オレンジジュースってことですよね!」
「う、うんそうだね。解説ありがとう……」

 露骨に困った表情を浮かべるサギリさんに、ヒラキさんが大爆笑してしまう。

「最強のボケスレイヤーだな、キミ! マジで心が強すぎるって!」

 配信コメントの方も異常に増えて表示が追いつかず、コメントが端で消えていく始末だ。視聴者が笑っているのか荒れているのか分からないが、とにかく盛り上がっていることだけは分かる。

(皆さん、サギリさんをもっと見て下さい! すっごく頑張ってるんです! だからもっと……)

 どんなに心の中で懇願しても、それが直接配信に映ることはなかった。
 企画の進行とともに、番組の残り時間は減り続けていく。
 続いては音楽クイズのコーナーだ。
 歌の上手いサギリさんならきっと得意なはず――。
 そう思っていたのに、ここでポイントを伸ばしたのは姫神クシナさんだった。サギリさんも積極的に答えようとしていたけれど、早押しの部分でクシナさんに少しだけ及ばない。しかし、その少しが決定的な一歩となって、ポイントの差として現れてしまっていた。

(クシナさん、なんで……同じハイプロ所属のVチューバーなら、サギリさんが苦しんでるの分かってるはずなのに……)

 どうして他の人を押し退けるようなことが出来るのか分からない。
 耳鳴りがする。
 『優しい世界』が崩れていく音のような気がした。

(私だけでも……サギリさんの力に……)

 『敵』はクシナさんやタマヨさんだけではない。
 他の事務所の子たちも目立とう、チャンスを得ようと必死だった。
 鉄板の持ちネタで盛り上げたり、司会のヒラキさんに振られた話で笑いを取ったりと積極的に番組を盛り上げる。少しスベったぐらいでは彼女たちは立ち止まらない。スポットライトの中央目指して突撃を繰り返していく。
 もちろん、必死なのはサギリさんも同じだった。前へ前へと出ようとしているのに、クシナさんに先を越されたり、他の娘に阻まれたりで泥沼から這い上がれない。

(私にトークスキルがあれば、サギリさんにもっと会話を集められるのに……)

 そもそもコミュニケーション能力不足で、自分から会話にもはいっていけない。

(もっとゲームが上手ければ、サポートできるかもしれないのに……)

 ポイントを賭けた対戦型のパーティゲームでは足を引っ張ることしかできない。

 空回りだ。

 その空回り自体がまた別の『問題』を起こしてしまう。

 灰姫レラが『失敗』すればするほど、ヒラキさんがそれにツッコミを入れて笑いに変えてしまうのだ。

「いやー、灰姫レラちゃんとお仕事するの初めてだけど。キミ、ホントに面白いな」
「そんなこと無いです! 私のことはいいので他の人に」
「いやいや、今日のキミは笑いの神が降りてきてる。なにやっても面白い。バーチャル司会としてはホント助かってる! いや、芸人としては悔しいんだけど!」

 またひと笑い起こして、にこにこのヒラキさんに灰姫レラはそれ以上は自分を否定するわけにもいかなかった。
 全部が全部、裏目だ。
 サギリさんじゃなくて、自分が目立っても意味がないのに。
 頭の奥でカラカラと音を立てる空回りが続いて、時間だけがグルグルと回りながら溶けていった。

 そして――。


「最終ゲームの勝者は、最後の最後で幸運を掴んだナイトテールちゃん!」

 8人が直接対決したレースゲーム。ラストラップのゴール直前で先頭のクシナさんとサギリさんが、二人揃ってお邪魔アイテムでクラッシュしてしまい、3位を走っていたナイトテールが1位でゴールを決めた。

「ラッキ~、棚ぼただけど勝ちは勝ちだよねー。あー、楽しかった」

 ピースサインの指先をくねくね動かして勝利宣言するナイトテールに、クシナさんが「それ映らないわよ」と優しく教えてあげていた。

「さあ、いよいよポイントの集計結果がでます!」
(えっ、もう終わり?!)

 番組終了まで後5分というカンペで、灰姫レラは全てのゲームが終わってしまったのだとようやく気づいた。
 正直、番組の後半ぐらいから自分が何をしていたのかよく覚えていない。とにかくサギリさんのために何かしようとして、暴走していたことだけは確かだ。誰が何ポイントを取っていたのかも、分からないほどに……。

「素晴らしい熱戦が繰り広げられたが、ドラマ出演権を獲得できる勝者はただ1人!」

 BGMが消え、緊張感が高まる。

(サギリさんは……)

 発表前なのに、隣の席からはひしひしと重苦しい空気が伝わってくる。

「それでは最終結果をP子さんから!」
「ハイ、累計で48ポイント獲得――」

 P子さんが溜めている間に、ドラムロールが鳴り響く。

「優勝は姫神クシナさんデス!」

 軽快なファンファーレが鳴り響き、配信画面ではクシナさんだけがバストアップで映し出される。紙吹雪の特殊効果が舞い、その胸元には優勝カップのイラストが強引に追加された。

「ありがとうございます!」

 小さくガッツポーズをしたクシナさんは、カメラに向かって今日一番の笑みを見せる。

「ここにいるみんなの想いを背負って、ドラマ出演も頑張ります!」

 〈おめでとぉおおお!〉や〈888888〉〈クシナさん最高!〉、〈最後までいい勝負だった!〉などなど、コメントが温かい祝福の言葉で満ちていた。クシナさんの嬉しさに震える身体はトラッキングを通して、配信を見ている人たちにもその感動と感謝が伝わったに違いない。

「チャンスを頂いたからには結果を残すことはもちろん、目一杯楽しんで、精一杯みんなにお返し出来るようにします! 来週から始まるドラマ『五月女さん家の』。最初から最後まで、みんなで一緒に楽しみましょう!」

 意気込みを語り、最後にドラマの宣伝まで見事に盛り込んだクシナさん。その言葉が終わるとちょうどADさんが『後1分』のカンペを出す。

 全てが完璧だ。
 スピーチだけではない、番組中の振る舞いもだ。
 灰姫レラのように変なふうに目立ったりせず要所要所で活躍し、さらに笑いになる見せ場を作っていた。そうやって番組を盛り上げつつ、どのゲームでも3以上に入り着実にポイントも稼いでいた。
 だから、クシナさんの勝利という結果に全員が納得するしかなかった。まるでお釈迦さまの手のひらにいた孫悟空のように。

 これが『プロ』だ。

 大勢を楽しませ、そして魅了する。アオハルココロちゃんが持つ圧倒的カリスマ性にも対抗しうる力(ちから)。

 これを『才能』と呼ぶのだろう。

「そろそろ番組終了のお時間がやってきました」
 愕然としている間に、司会のヒラキさんの言葉で番組のエンディングテーマが流れ出す。

「毎回締めの言葉をゲストに頼んでいるけど、今日はそうだな……」

 スタジオを見渡したヒラキさんの視線が、灰姫レラのところで止まる。

「今日、一番頑張っていた灰姫レラちゃんに締めの言葉をお願いしようかな」

 灰姫レラの所で止まる。

「ええっ! わ、私ですか!」

 打ちひしがれた頭の中は真っ白だった。

「はい、後20秒」
「えと、えっと……そうだ、サギリさん!」
「はっ!? なんで私に?」

 咄嗟に泣きつかれたサギリさんは、声が一段高くなっていた。

「なにかお願いします! 挨拶を!」
「なにかって! あ! え、時間が――」

【この放送は終了しました。本日はありがとうございました】

【よろしければアンケートにお答え下さい】

【本日の番組はいかがでしたか?】

1、とても良かった
2、まあまあ良かった
3、ふつうだった
4、あまり良くなかった
5、良くなかった

####################################
空回りに終わってしまった番組出演。
ハイプロ社長の大谷ケンジの反応は?
桐子は灰姫レラとして何を思うのか?

次回、#09の最終回です。

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