望郷

文字数 785文字

市民プール。の奥にある壊れたシャワールー
ムの壁に浮かび上がるのは地元の海だった。
元気。うん、コロナが落ち着いたら――。電
波で錆びついた両親の声が日毎にか細く。な
っていくような気がして、揺れる水面に顔か
ら飛び込んで、目を真っ赤に腫らして。腕に
刺さる針の痛みは誰かの愛情か。嘘、赤の他
人の血。娘は最近クロールができるようにな
って、海。ぼくはスキップでもしながら、階
                   段
                   を
              駆けあがって
会いたい人。に会いたいときに会えていた日
常に甘えていたのかもしれない。神さま。幸
せはシーソーまたは天秤のようです。宇宙は
楕円形の卵で。小さな命。父と母と朝一に必
ず「おはよう」と送り合うのが当たり前だと、
終わらない錯覚を夢見ながら、フラフラの副
反応、夜。空気が抜けて「イグアナが飼いた
いわ」「ぼくはね、昔、手乗り文鳥を飼ってい
たんだよ」「猫もかわいいわ」「白と黒の文鳥
なんだ。…鳴き声が美しかったんだよ」震え
る手のひらに乗った空は――鳴く。――鳴け。
――チュチュチュチュンチュン…、そっと手
                   紙
                   を
            送ったことがある
。誕生日。鬱。は、お前達のせいだと、めち
ゃくちゃで、気が狂っていた、罪。人でなし、
嫌味なダダイスト、シュールな親不孝者、そ
の癖、こいつは人生の幸福を信じて疑わず…、
更に両親の幸福も信じて――ああ、眠たいや、
 眠たい。
(――刺す。――刺せ)
 おはよう。と咳、また今日を振り返って。
会いたい気持ちは卵焼き、トースト、コーヒ
ー、花。の写真、鳥の鳴き声、漢方薬、注射。
また温泉にでも行きたいと、遠くからふと思
うこの感覚は、朝。仕事に行く前にまだ生き
ているうちに、どうか置いていかないでくれ。
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