03 森での魔物退治
文字数 5,502文字
今日はみんなで森に来ている。
どうやら、朝早くに村の冒険者ギルドで魔物退治 の依頼 を受けたようだ。
対象 の魔物は、トロールという頭が悪 いけど怪力 の半巨人 だ。
3日前ほどに森で狩人が見かけたらしい。
目撃情報 では1匹だが、あれは人間などぺしゃんこにできるだけの怪力を持っているから、人間にしてみれば要注意 よね。
まあ頭が馬鹿 だから、どうにでもなるんだけれど。
「今日はソアラとコハルのユッコに期待 しようか」
赤髪 のリーダーのエドワードが背中 の大剣の位置を調整 しながら、私にそういった。
コハルが、
「うん。……ね、ユッコ。私たちはトロールを退治 に来たの。ほかにも何か変わったこととかあったら教えてね」
と私の頭をなでながら言った。
今日はヒロユキもコハルも革 の胸当 てをしている。やはり森の中だから危険 がいっぱいあるからね。
他のメンバーも戦うための装備 を身につけている。
ふいっとレンジャーのソアラの方を見上げると、ソアラもにっこり笑って、
「よろしくね」
と手を振った。
どうやらソアラがみんなより前を歩いて、敵や異常 が無いか確認 し、進む方向 を決めていくようだ。
私は、周りに注意を払いながらソアラの横を歩くことにする。
じゃ、まず手始 めに。
内心でそうつぶやきながら、私は森の気配 を探 ろうと神経 を研 ぎ澄 ませた。
感覚 がどんどんと広がって行くようなイメージで、森の様子 を感じていく。
密集 する木々。そして、木の上のリスやネズミ。草の影 の虫に地中のモグラ。……さまざまな動物の気配がする。
この技術 を「気配感知 」っていうんだけど、私の気配感知は半径 50キロメートルの範囲 を軽くカバーできる。
やろうと思えばいくらでも範囲を広げられるけど、それをやると頭がつかれちゃうのよね。
とまあ、私の気配感知によれば、この森はここから30キロメートルはなれた隣村 まで続いているようで、目当 てのトロールはここから3キロメートル先にいるみたい。
他にも醜 い緑 の小鬼 であるゴブリンの集落 が二つ。
狼 の群 れが四つ。
そのほか、シカやイノシシまで数えるとかなりの生き物がいる。
それに……、トロールは一匹じゃなくて二匹いるみたい。大丈夫かしらね?
まあ、危険なのはトロールとゴブリン、狼くらいか。
何とかなるでしょ。
ソアラはとりあえず森をまっすぐに奥 に向かって歩いている。
茂 みを揺らして音を立てないように、同時に何かの痕跡 がないかどうかを調べながら歩いている様子は、かなり熟練 した狩人のようだ。
こうしてみると、思いの外、レベルの高いパーティーなのかもしれない。
とはいえ痕跡 を見つかるまで進むのもめんどくさいので、そっとソアラに気づかれないようにトロールの方向へ誘導 することにする。
わざとなんでも無いところで匂 いを嗅 ぐようなふりをして、つづいて空中の匂いを確かめるふりをする。
そんな私をソアラが見ていることを確認して、ふいっとトロールのいる方向へ歩き出すと、だまってソアラが私についてきた。
歩き始めて一時間ほどしたところで、ソアラは立ち止まり、そこで休憩 をすることにした。
ヒロユキとコハルは、なれない森のなかを歩き続けたので、かなりつかれている様子。
そっとコハルのそばに行き、気取 られないように二人に回復魔法 をかける。
コハルは汗 をふきながら、水筒 を取り出して水をひとくち口に含 んだ。
さすがにほかのメンバーはまだまだ大丈夫 そうだ。
エドワードがソアラに、
「どうだ? なにか痕跡 はあったか?」
とたずねると、ソアラが、
「木の幹 に何かがぶつかったような跡 がいくつかあるわ。……それにユッコが何かをかぎ分けているみたい」
と答えると、リリーが感心 したように、
「さすがはキツネね。こういうときは頼 りになるわ」
と言っている。
私は聞こえないふりをしてコハルのそばでお座 りをする。
……うん? トロールが動き始めたわね。距離 は、ここから500メートル。
私はふいっと立ち上がって、トロールのいる方向をじっと見て体をこわばらせた。
それを見たソアラが気になったようで、私の見ている方向へと視線 をのばす。
「……いた。トロールよ」
そのソアラの声を聞いて、みんなは即座 に休憩 を切り上げて戦う準備 をする。
見つけたトロールは、身長 が4メートルほどで見た目はおでぶさんだ。
体は汚 れた緑色をしていて、髪の毛は一本もない。知性 のかけらもない目をして、腰蓑 だけをつけ、手にした棍棒 で無造作 に物をなぐったりしている。
うう。私の敏感 な鼻には奴 のくさい体臭 がつらい。
ここから見えるのは一匹だが、もう一匹はさらに300メートルほど離 れた岩陰 で腰掛 けているようだ。
エドワードが大剣を抜 き、指示 を出す。
「ソアラ。お前は矢でトロールの目ねらえ。俺とフランク、ゴンドーで飛びだして奴の攻撃 をさばくから、その間にリリーの魔法でやっつける」
エドワードの握 り拳 の上にみんなが手を乗 せて円陣 を組んだ。
「いくぞ」
「「「「おう!」」」」
小さい声で気合 いを入れ、みんなが森の中へ散 らばっていく。
ヒロユキとコハルはお留守番 。もちろん私もだ。
ヒロユキは強がってにらみつけるように、コハルは両手を合わせて祈 るように、トロールの方をじいっと見ている。
急にトロールが目を押さえて暴 れ出した。
目が見えなくなって無茶苦茶 にこんぼうを振 り回している。
あたれば一撃 で人間など吹 っ飛んでいくだろう。
それを大剣を手にしたエドワードと大きな盾 をかまえたフランクが上手 に受け流しては、すきを見つけてトロールに切り込んでいく。
トロールが「うごおぉぉぉ」と叫 びながら、こんぼうを上から地面にたたきつけた。その衝撃 で地面に震動 がひびく。
そのとき、トロールの頭に雷 が落ちた。リリーの魔法だ。
トロールは頭の電撃 で身体がしびれて動けなくなり、そのままひっくり返った。そこへゴンドーが大斧を振り上げるのが見えた。
急に静 かになる戦場 に、どうやらゴンドーの一撃でトロールの息の根を止めたことがわかる。
「やったぁ! 行こう、コハル!」
ヒロユキがそう言って茂みの中に入り込んだ。コハルも「うん」と言ってすぐに続く。
私も二人の後からついていった。
トロールと戦ったところに到着 すると、暴 れていたトロールのせいで周りの木々が折 れていた。
肝心 のトロールだけれど、仰向 けに倒れたところを急所 に大剣の一撃を受けて事切 れていた。
「すげぇ!」
と叫 びながら、ヒロユキが茂みから飛び出していく。
エドワードたちはトロールの様子を調べていた。目の前のコハルがおそるおそるトロールに近寄 っていく。その足下にはトロールが使っていた大きいこんぼうが落っこちていた。
ソアラが、
「これで依頼達成 ね」
と言うと、トロールの耳を切り取っていたフランクがヒロユキとコハルに、
「すごいだろ? もう死んでるから大丈夫 だぞ?」
と笑いかけた。
ヒロユキが感心 したように、
「さすがはエディたちだなぁ」
と腕 を組んで言うと、リリーが、
「討伐証明 の耳も取ったし、そろそろ火葬 にするわよ?」
と言うと、みんながトロールより離 れた。
こういう魔物はきちんと火に焼 いたり神聖魔法 をかけて浄化 しないと、ゾンビになってよみがえるからだ。
みんなが離れたのを確認したリリーが火の魔法を唱えようとしたとき、私の気配感知にもう一匹のトロールが近づいているのが感じられた。
ソアラは……、まだ気がついていないみたい。仕方ない。私はソアラのそばに行って前足でソアラの気を引く。
「どうしたのユッコ?」
ソアラがそういって私を見下ろす。私はソアラと目を合わせてから森の奥の方を向いた。ソアラが私の視線を追って森の奥の方を見た。
「いけない! もう一匹のトロールがくるわ!」
その声に、エドワードたちがあわてて戦闘態勢 に入る。
今度のトロールはすでに私たちを敵 と認識 しているから、さっきのように楽 には倒せないだろう。
エドワードが、
「ヒロユキ! コハル! お前たちは後 ろに下がれ!」
と叫ぶと、ヒロユキとコハルがあわてて死体の向こう側に回り込もうと走り出した。
がさがさと茂みが揺れる音がして、振り下ろすこんぼうと共にトロールが飛び出てきた。
そのとき、走っていたコハルが、
「きゃっ!」
と言って落ちているこんぼうにつまづいて転 んだ。
勢 いがついてコハルが一回転すると、トロールと目が合った。
トロールがコハルの方に向いて歩いてくる。
「いやぁぁぁ!」
コハルの叫び声があがる。あぶない!
トロールのこんぼうがコハルめがけて振り下ろされる。私は急いで走り込んでいく。
――間にあって!
そのままコハルに体当 たりをして吹っ飛ばすと、トロールのこんぼうが私のおなかにヒットした。
「ユッコ!」
私の名前を呼ぶコハルの叫び声が聞こえるが、軽 い私の身体 が回転 しながら吹っ飛ばされ、森の茂みの中に突っ込んでいく。
のわー! 目がまわ……らないけどぉ。
バサバサバサっ。
草むらに無事に着地 して、ほっと息を吐 いた。……よかったわ。コハルは無事のようね。
いかに馬鹿力 のトロールの一撃とはいえ、古代竜 の本気の一撃をも耐 える私には全然 きかない。
せいぜい自慢 の美しい毛並 みが汚 れるくらいだ。
それもいやだけど。
茂みの向こうからは、エドワードたちの、
「ヒロユキ! コハル! 早く下がれ! 行くぞ! フランク!」
「弓技狙 い撃 ち」「……うぼおぉぉ」
「今だ。剛剣 !」 ズバシャアァァ!
「渾身 の一撃 ! おらぁ!」
と戦う音が続いて聞こえる。
やがてズウゥゥンと地響 きを立ててトロールが倒 れた音がした。どうやら無事にやっつけたようね。
すぐに誰 かが走ってくる音がして茂みを突 き抜 けてコハルが飛び込んで来た。
「ユッコぉ!」
私を見るや飛びつくようにぎゅっと抱 きしめてくるコハルに、私はただそのままの姿勢 で抱かれるままにした。
がさがさと音がして、他の人たちもやってくる。
リリーが私を見て、自分の胸 に手を当てて安堵 の息 をはく。
「よかった。てっきり死んじゃったかと……」
大丈夫よ。あれくらいじゃアザにもならないわ。そう思いつつ、目の前にある泣 きじゃくっているコハルの首筋 をペロンッとなめた。
「きゃっ」
と言って、コハルが少し力をゆるめた。
ソアラがそばに寄ってきて、私のおなかを確かめる。
「ん~。怪我 は何にもないみたいね。モロにくらったと思ったけど……」
と首をかしげるソアラに、フランクがあごに手をやりながら、
「引 っかかったってだけだったのかな? ラッキーだったな」
と言うと、コハルがうなづいていた。
それはそうと。ソアラさん? ニマニマしながら、私の背中をなでるのはやめてちょうだいよ。
こうして私たちは二匹のトロールを無事に退治 して、その日は早々 に村に帰った。
どうやら、朝早くに村の冒険者ギルドで
3日前ほどに森で狩人が見かけたらしい。
まあ頭が
「今日はソアラとコハルのユッコに
コハルが、
「うん。……ね、ユッコ。私たちはトロールを
と私の頭をなでながら言った。
今日はヒロユキもコハルも
他のメンバーも戦うための
ふいっとレンジャーのソアラの方を見上げると、ソアラもにっこり笑って、
「よろしくね」
と手を振った。
どうやらソアラがみんなより前を歩いて、敵や
私は、周りに注意を払いながらソアラの横を歩くことにする。
じゃ、まず
内心でそうつぶやきながら、私は森の
この
やろうと思えばいくらでも範囲を広げられるけど、それをやると頭がつかれちゃうのよね。
とまあ、私の気配感知によれば、この森はここから30キロメートルはなれた
他にも
そのほか、シカやイノシシまで数えるとかなりの生き物がいる。
それに……、トロールは一匹じゃなくて二匹いるみたい。大丈夫かしらね?
まあ、危険なのはトロールとゴブリン、狼くらいか。
何とかなるでしょ。
ソアラはとりあえず森をまっすぐに
こうしてみると、思いの外、レベルの高いパーティーなのかもしれない。
とはいえ
わざとなんでも無いところで
そんな私をソアラが見ていることを確認して、ふいっとトロールのいる方向へ歩き出すと、だまってソアラが私についてきた。
歩き始めて一時間ほどしたところで、ソアラは立ち止まり、そこで
ヒロユキとコハルは、なれない森のなかを歩き続けたので、かなりつかれている様子。
そっとコハルのそばに行き、
コハルは
さすがにほかのメンバーはまだまだ
エドワードがソアラに、
「どうだ? なにか
とたずねると、ソアラが、
「木の
と答えると、リリーが
「さすがはキツネね。こういうときは
と言っている。
私は聞こえないふりをしてコハルのそばでお
……うん? トロールが動き始めたわね。
私はふいっと立ち上がって、トロールのいる方向をじっと見て体をこわばらせた。
それを見たソアラが気になったようで、私の見ている方向へと
「……いた。トロールよ」
そのソアラの声を聞いて、みんなは
見つけたトロールは、
体は
うう。私の
ここから見えるのは一匹だが、もう一匹はさらに300メートルほど
エドワードが大剣を
「ソアラ。お前は矢でトロールの目ねらえ。俺とフランク、ゴンドーで飛びだして奴の
エドワードの
「いくぞ」
「「「「おう!」」」」
小さい声で
ヒロユキとコハルはお
ヒロユキは強がってにらみつけるように、コハルは両手を合わせて
急にトロールが目を押さえて
目が見えなくなって
あたれば
それを大剣を手にしたエドワードと大きな
トロールが「うごおぉぉぉ」と
そのとき、トロールの頭に
トロールは頭の
急に
「やったぁ! 行こう、コハル!」
ヒロユキがそう言って茂みの中に入り込んだ。コハルも「うん」と言ってすぐに続く。
私も二人の後からついていった。
トロールと戦ったところに
「すげぇ!」
と
エドワードたちはトロールの様子を調べていた。目の前のコハルがおそるおそるトロールに
ソアラが、
「これで
と言うと、トロールの耳を切り取っていたフランクがヒロユキとコハルに、
「すごいだろ? もう死んでるから
と笑いかけた。
ヒロユキが
「さすがはエディたちだなぁ」
と
「
と言うと、みんながトロールより
こういう魔物はきちんと火に
みんなが離れたのを確認したリリーが火の魔法を唱えようとしたとき、私の気配感知にもう一匹のトロールが近づいているのが感じられた。
ソアラは……、まだ気がついていないみたい。仕方ない。私はソアラのそばに行って前足でソアラの気を引く。
「どうしたのユッコ?」
ソアラがそういって私を見下ろす。私はソアラと目を合わせてから森の奥の方を向いた。ソアラが私の視線を追って森の奥の方を見た。
「いけない! もう一匹のトロールがくるわ!」
その声に、エドワードたちがあわてて
今度のトロールはすでに私たちを
エドワードが、
「ヒロユキ! コハル! お前たちは
と叫ぶと、ヒロユキとコハルがあわてて死体の向こう側に回り込もうと走り出した。
がさがさと茂みが揺れる音がして、振り下ろすこんぼうと共にトロールが飛び出てきた。
そのとき、走っていたコハルが、
「きゃっ!」
と言って落ちているこんぼうにつまづいて
トロールがコハルの方に向いて歩いてくる。
「いやぁぁぁ!」
コハルの叫び声があがる。あぶない!
トロールのこんぼうがコハルめがけて振り下ろされる。私は急いで走り込んでいく。
――間にあって!
そのままコハルに
「ユッコ!」
私の名前を呼ぶコハルの叫び声が聞こえるが、
のわー! 目がまわ……らないけどぉ。
バサバサバサっ。
草むらに無事に
いかに
せいぜい
それもいやだけど。
茂みの向こうからは、エドワードたちの、
「ヒロユキ! コハル! 早く下がれ! 行くぞ! フランク!」
「
「今だ。
「
と戦う音が続いて聞こえる。
やがてズウゥゥンと
すぐに
「ユッコぉ!」
私を見るや飛びつくようにぎゅっと
がさがさと音がして、他の人たちもやってくる。
リリーが私を見て、自分の
「よかった。てっきり死んじゃったかと……」
大丈夫よ。あれくらいじゃアザにもならないわ。そう思いつつ、目の前にある
「きゃっ」
と言って、コハルが少し力をゆるめた。
ソアラがそばに寄ってきて、私のおなかを確かめる。
「ん~。
と首をかしげるソアラに、フランクがあごに手をやりながら、
「
と言うと、コハルがうなづいていた。
それはそうと。ソアラさん? ニマニマしながら、私の背中をなでるのはやめてちょうだいよ。
こうして私たちは二匹のトロールを無事に