第4話 サンドイッチは味がしなかった

文字数 1,009文字

私は、始発の新幹線で東京に向かっていた。
早朝の名古屋駅までは、妹が車で送ってくれた。
あまり、お腹は空いていない。
しかし、これからの長い一日を考えれば、何か食べておいたほうが良いだろう。
私は、レジ袋からサンドイッチを取り出した。

これは、八事日赤の1階にあるコンビニで買ったものだ。

八事日赤病院・・・母の入院していた病院だ。
母は、今朝まで・・・今日未明まで、この病院でお世話になっていた。
私は、母の病室に泊まり込んでいた。

夜中に巡回の看護師さんが回ってくる。
母は眠っていた。
血中酸素濃度、心拍数、呼吸数・・・モニターに数字が表示されている。
決して芳しい値ではない。
「これ正常な人だったら、どのくらいの値になるんですか?」
「この数字、亡くなったらどうなるんですか?」
しばし、看護師さんとおしゃべりした後、私は母の酸素吸入の位置を少し変えた。
酸素を吸入していれば、血中酸素濃度の値はそこそこ良いものになる。

私は、眠る母の顔を見つめていた。
・・・え?
「お母さん、息しなきゃダメじゃん」
私は声に出して言ったかもしれない。

呼吸数、心拍数の表示が、みるみる少ない値へと変化していた。
当たり前だ。
今、1呼吸し、次の呼吸との間隔で1分間あたりの呼吸数を表示していたのである。
今、1拍脈を打ち、次の鼓動との間隔で1分間あたりの心拍数を表示していたのである。
最期の1呼吸以降、もう息をしないなら値はみるみる下がっていくのだ。
最期の1拍以降、もう心拍がないなら値はみるみる下がっていくのだ。

ナースステーションから看護師さんが駆けつけてくる。
枕元で声をかける。
しかし、呼吸も心拍も戻らない。

「復活しますか?」
看護師さんに聞いてみた。
「・・・肝臓がね」
看護師さんの答えを聞いて「あぁ、母は復活しても肝臓はもう復活しないんだ」と思った。
ドクターもやってきた。
でも、治療とか生き返らせるために来たのではなく、母の死亡を確認に来たのだった。
「待っていましょうか?」
ドクターに声を掛けられ初めはなんのことだかわからなかった。
それは、今、死亡宣告をして良いか、遺族が集まってからの方が良いかという事を聞いていたのだった。

父や弟、妹に病室から電話で連絡して・・・バタバタとことが運んだ。
父から「一旦、東京へ戻れ」と言われ、私は、始発の新幹線で名古屋を後にした。

新幹線の中で私は、レジ袋からサンドイッチを取り出した。
食べたサンドイッチは、まったく味がしなかった。
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