死闘のあと

エピソード文字数 4,526文字

 学生寮が並んでいる一帯に轟き渡った爆発音は銀太と綴の耳にまで届き、二人はすぐさまその音を紅月のコンプレックスによるものだと思い至った。仮に紅月と清美が戦闘になっているとしても、助力はしないと言った銀太だが爆発音を無視できるはずもなく、二人は学生寮の方に向かった。戦闘が行われた部屋のある寮はすぐに発見できた。爆発音を聞きつけ、様子を確認しにきた生徒がその寮に人だかりを作り、騒擾を起こしていたからだ。
 寮の住人は戦闘の早いうちから物騒な物音に気がつくと、荒事に巻き込まれまいと避難しており、別の寮から出てきた生徒たちに誰かはわからないが戦闘を始めたことをふれ回っていた。清美が窓外に投げ出され、爆破される姿を見た生徒たちは興奮と狂乱と恐慌の混じった叫び声を上げたあと、一瞬だけ見えた姿からあれは誰だったのか自分の推測を言い合い、学園が封鎖されているあいだ、次々とこのような血なまぐさい殺し合いが起きるのかと危惧したが、どの表情にもどことなく祭囃子にあてられたような浮気が見られた。
 清美の部屋の窓辺には死闘を切り抜けた安堵から虚脱した紅月が呆けた表情で群衆を見下ろしながら立ち尽くしており、銀太と紅月はその姿を窓の中に見つけると、部屋の位置を確認してから寮に入った。二人が清美の部屋に入ると右腕を止血しようともせずにだらりと垂らして、一時的に何事にも無関心になっている紅月がゆっくりと振り向き、その無惨な姿と台風を詰め込んだあとのような部屋の様子から綴は声を上げはしなかったが、一瞬、意識が遠のきよろめいたために銀太が身体を受け止めてやらなければならなかった。銀太は親友に駆け寄り大丈夫かと聞いたが、紅月が何の感情も宿っていない悪寒の走るような目で見つめてくるばかりで返事もしなかったために、怪我の具合や事情を聞き出すよりも自室で休ませる方が先決だと判断した。
 紅月と綴の部屋に戻るあいだ三人は無言で、綴はショックのあまり足に力が入らずふらついていたが、銀太は紅月に肩を貸していたために姉を支えてやることができなかった。殺し合いのおぞましい雰囲気がまだまとわりついている紅月には人を撥ねつけるところがあり、三人に話しかけるものはおらず、生徒たちは重苦しく黙り込んで道を開けた。紅月の右腕の出血は完全には止まっておらず、三人が歩いたあとには点々と血が続いていた。

 部屋に戻ると死闘のことなどつゆほども知らない秋姫が待っており、紅月の姿を見ると息を呑んだが綴のように怖気には捉えられず、怪我の治療をするためにすぐさまあちらこちらへと駆け回り、無水エタノールや大量の清潔な布を持ってきた。秋姫は紅月を藤椅子に座らせて手当てを始めた。銀太は補助役に回り、秋姫の指示するままにエタノールと水を混ぜ合わせたり、湯を沸かしたりした。綴も何か手伝うと言ったが、あまりにも動揺していたために銀太に説得されベッドに寝かされた。右腕の先に清潔な布を何重にも押さえつけて止血しているあいだ、秋姫は鎖を身体に巻きつけたときや床を転がったときにできた傷に優しく手の平を添えた。秋姫の手に触れられた傷は塞いで、出血が止まった。
私の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は小さな傷しか閉じることができません。欠損した右手は私の能力ではどうしようもないです。お役に立てなくて申し訳ありません。
 秋姫は相手に目線を合わせて慈愛を込めた声色で静かに言ったが、放心が未だに解けない紅月は先の何の感情も宿っていない目で見つめ返しはしたものの返事をしなかった。
右腕の欠損部分を消毒のために熱湯につけます。激痛を感じると思いますが、我慢してください。
 紅月の右腕の出血が止まると秋姫は熱湯を入れた洗面器を用意させた。秋姫が相手の右腕を優しく握り洗面器の中に静かにつけると、それまでされるがままだった紅月は反射的に秋姫の手を払って右腕を跳ね上げたが、激痛によって正気に戻ったようでようやく話ができるようになった。その人がもっとも安定するスペクトルがあり、紅月も戦闘が終わった今では平常時のスペクトルに戻り、『明日の神話』は使えなくなっていた。
 紅月は治療を受けながら清美が訪問してきて、そのあと戦闘になった経緯をすべて話した。
清美先輩はこの学園以外にも封鎖されている場所が複数ある可能性を示唆した。その証拠として、ラジオやテレビに電波が入らなくなっていることを挙げていた。最悪の事態を考えれば、東京一帯が封鎖の対象になっている。空白組は理事会に協力しているが、この封鎖の全体像を教えられてはいないそうだ。今回の件、俺たちが思っているよりもはるかに大事なのかもしれない。
これからどうするかが問題だな。理事会は紅月と常盤先輩に生徒会の一員として協力を断った場合、殺害する指示を出したんだろう? 清美先輩を始末した今、次の刺客が送られてくるかもしれない。それも一人で、とは限らない。次は確実に殺しに来る。紅月は負傷しているが、かと言って僕たちでは空白組に太刀打ちできない。今更、理事会の傘下に下ることも不可能だろう。
誰かに助けを求めるしかない。その適任は常盤先輩だな。あの人が理事会の傘下に下ったとも思えないからな。もっとも、常盤先輩が吾妻先輩に殺されていないことが前提だが。向こうも死刑宣告をされているだろうから、同じ境遇にいるもの同士、手を組まない理由はないだろう。
封鎖が解けない限り、この殺し合いは続くのだろうか? しかも今は空白組の内ゲバで収まっているが、日にちが経つにつれて、あちらこちらで戦闘が始まるかもしれない。
それは間違いないだろうな。あと二三日で封鎖が解けるとも思えない。だとすると、当然食料を筆頭に物資が不足し始める。そうなれば残された物資を巡って争いになる。最初は小競り合いとも言える小さなものかもしれないが、必ずどこかで大規模な戦闘が勃発する。
私ができる範囲での治療は終わりました。内臓の損傷などは本職のお医者さんに任せるしかありません。感染症を防ぐために抗生物質も貰わないといけませんしね。化膿しないように右腕の包帯はこまめに取り換えてください。私はお医者さんを探してきます。医療施設の人たちもこの学園に閉じ込められているはずです。
 秋姫は立ち上がって、部屋を出て行こうとした。その姿を見て、銀太は部屋に残るべきか秋姫についていくか迷い、二人の顔を交互に見た。銀太としては秋姫一人で封鎖された学園の中を歩き回らせたくなかった。その様子に気がついて秋姫は優しく諭すように言った。
銀太くんは紅月さんのそばにいてあげてください。怪我をしたときって、本当に心細くて、誰かにそばにいてほしくなるんですよ。それに空白組の人たちが来たら、誰が紅月さんを守るんですか?
わかりました。けれどもくれぐれもお気をつけて。こんなことがあった直後だから、どうしても不安なんです。
あんまり変な場所まで探しに行かないで下さいよ。特に実験棟には、理事会の奴らとか、空白組の奴らがいますから。俺なら大丈夫っす。医者いらずと呼ばれるほど、風邪とかひいたことないんすよ。
 秋姫は銀太と紅月に見送られて部屋を出て行った。
 正午を大きく回っても、秋姫が帰ってくる気配はなかった。厄介事に巻き込まれているのではないかと不安になって紅月が何度も探しに行こうと言い出したが、そのたびに怪我した身体で無理をしないでと返して銀太が押し留めた。医者がいるとすれば医療施設か医療機関に携わる職員の社員寮だが、秋姫の帰りが遅いことを考えると、学園の内か外かを問わず、別の場所に移動している可能性が高かった。秋姫を探しに行くとしても、あてがない状況では広い学園内を当てずっぽうに探しても見つかるはずもない。
 動揺が収まり、ようやく落ち着きを取り戻して綴がベッドで寝息を立て始めたころ、部屋のドアがノックされた。その音を聞いて、銀太と紅月は俄かに緊張した。ノックが四回されたあとは何の音も聞こえなくなった。秋姫が帰ってきたのだとしたら、名乗らない理由がわからなかった。銀太は立ち上がり、奇襲を警戒しながら静かにドアを開けた。
 そこに立っていたのは立畑照葉という女生徒だった。
 立畑は無作法にも銀太を押しのけて無言で部屋の中に入ってくると、藤椅子に座っている紅月の目の前に立った。銀太は立畑の背後に立ち、シンボルの鋏を具現化して、いつでも首を切断できるように構えた。
さっそくお出ましっすか。ここにいる二人は清美先輩の件とは無関係っす。話をするなら、この二人を追い出してからにしてください。
安心しろ。私は瀧川を殺しに来たわけではない。その逆だ。理事会は瀧川、常盤両名の殺害命令を取り消した。それを伝えに来た。背後にいるのは一年八組所属大室銀太、ベッドに寝ているのはその姉の二年十二組所属大室綴だな? 知っていると思うが自己紹介をしよう。私は特別科クラス所属兼、生徒会副会長立畑照葉だ。学年は三学年にあたる。瀧川と詳しい話をしたい。そちらの二人も部屋にいたままでいい。
 勧められてもいないのに立畑は紅月の向かい合いになる藤椅子に足を組んで座った。
 立畑は桑折の指示通りに制服を着ていて、襟足をいかり肩と平行になるように短く切り揃え、うなじを見せていた。前髪は眉毛と平行になるように念入りに整え、身勝手な性格に調和しており、その性格は顔つきにも表れていた。目は線のように鋭く睨んでいるように見え、口はいつでも不機嫌そうに一文字に結ばれていたが、頬から顎にかけての曲線は少女らしく滑らかだった。
 闖入者に危害を加えるつもりはないらしいと判断すると、銀太はしきりに立畑の方に目を向けて警戒しながらも、台所に立ち紅茶の準備を始めた。綴は張り詰めた神経が弛緩したために来客にも気がつかず深く眠ったままだった。
理事会が前言を撤回したことについては深く感謝します。先ほど、瀧川、常盤両名と言ったすよね? 常盤先輩も生きてるんすか?
常盤への勧告には吾妻を送ったのだが、予想通り常盤が生徒会から離反する発言をしたために二人は戦闘になった。その結果、吾妻が返り討ちという形で死亡した。清美と吾妻が死亡したことを受けて、理事会は殺害命令を取り消さざるを得なかった。瀧川と常盤の殺害のために、生徒会を総動員したとしても、こちら側も全員無傷とはいくまい。これ以上の欠員は避けるべきとの判断だ。二人の生徒会役員としての職務怠慢は黙認される形となる。
先輩方としてはそれでいいんすか? 一応、俺たちはクラスメートだ。仇討ちとか考えないんすか?
わざわざ仇を討ってやるほど、私たちは仲良くもなかっただろう。私たちはたまたま優秀だったから、一ヶ所に集められただけだ。むしろ実力に裏打ちされた自負を持っていた分、互いに牽制している節すらあった。何よりも、仇討ちなど割に合わないからな。
割に合わない、すか。冷めてますね。
私から伝えるべきことはこれですべてだ。せっかく紅茶を入れてくれているところだが、お暇させてもらう。
 立畑は立ち上がると、入ってきたときと同じく誰の許可も取らず不躾に出て行った。
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登場人物紹介

第二部「偉大なる二十世紀」

忍谷夕吉(しのびたにゆうきち)
第二部の主人公。
賭博師を生業としている。コンプレックスを保持していない無能力者。26歳。
千ヶ谷千陰と組んで、封鎖された東京で成り上がることを計画している。
性格は皮肉屋だが、実業的。
職業柄、変わった特技を多く隠し持っている。

千ヶ谷千陰(ちがやちかげ)

第二部のメインヒロイン。
日本でも有数の名家、千ヶ谷家の長女。23歳。
生粋のお嬢様なのだが、普段着がジャージ(光文学園時代のもの)、主食がラーメン二郎など、俗っぽい。
近寄りがたい兄と可愛くて仕方のない妹がいる。
意外にも本職はハッカー。

シンボル:???

コンプレックス:『カラマーゾフの兄弟』

 ???

千ヶ谷絹人(ちがやきぬひと)

千ヶ谷家の現当主。
千一郎、千陰、千五百の父。
現在の政治情勢は千ヶ谷派と宇津木派に分かれている。
忍谷を千陰の恋人ではないかと疑っている。

シンボル:腕時計
コンプレックス:『ガルガンチュアとパンタグリュエル』
 対象を30分以内のある時点にリセットする。
 本人は物理的な状態だけで、記憶や感情など精神的な状態はリセットできないと言っているが……?

千ヶ谷千一郎(ちがやせんいちろう)

千ヶ谷家の長兄。千陰と千五百の兄。26歳。
次期千ヶ谷家当主。
神経質で気難しい。そのために千陰からは苦手意識を持たれている。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

千ヶ谷千五百(ちがやちいほ)

千ヶ谷家の次女。
第二部の時点では行方不明になっている。
千陰は妹を探し出すために忍谷と手を組んでいる。

黒塗ほのか(くろぬりほのか)

日本政府に保護されていた謎の少女。17歳。
「未来を見通す」コンプレックスを保持している。
この能力により、2000年問題を予見していた。
忍谷と千陰のことはなぜか出会う前から知っていた。
はたしてその正体は……?

シンボル:???
コンプレックス:「???」

赤藤詩音(あかふじしおん)

暗殺を生業としている。千陰の大親友。23歳。
光文学園特別科クラスに在籍していたころは、千陰とコンビを組んでいた。
しかし金さえ積めば仕事を引き受ける性格で、政治的には千ヶ谷派、宇津木派のどちらにも属していない。
名前からわかるとおり、第一部に登場した赤藤梨音の実姉。

シンボル:窓
コンプレックス:『月は無慈悲な夜の女王』
 手で触れた場所に窓を作る。
 その窓は通常の窓と同じ性質を持つ。つまり開閉ができ、向こう側が見通せ、ガラスは壊れやすい。

源次郎助(みなもとじろすけ)

上野にある国内最大の国営カジノのオーナー(所有者)。28歳。
本職は権力者向けの金貸し。
商売人として、天才的な能力を持っている。
政治的には宇津木派に寄っている。
権力者のあいだで、「ゲームマスター」と呼ばれるほどあらゆるゲームに精通している。

シンボル:鎖

コンプレックス:『バック・イン・ブラック』

 対象との契約を遵守させる。具体的には対象が契約を違反した場合、損害を与える。その損害の内容は対象の「同意」によって決定する。

五十鈴凪子(いすずなぎこ)


源の右腕。24歳。

堅物で、軍人のような口調をしている。

二色ほどではないが、戦闘能力に長けており、荒事を頼まれることもある。

拳銃を得物とする。


シンボル:風船

コンプレックス:『クロイツェル・ソナタ』

 シンボルの風船は複数出現する。風船に触れた物体は別の風船に転移する。

二色廻(にしきめぐる)

源の側近。源は「秘書のようなもの」と言っている。
無口で無表情。しかし非常に礼儀正しい。意外に気さくらしい。
忍谷はその体つきから、一目で「戦闘タイプ」の人間と見抜いた。

本文ではスキンヘッドになっているのですが、きゃらふとさんの仕様上、再現できなかったので、頃合を見て、キャラデザを作り直します。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

散歩桐雄(さんぽきりお)

上野にある国内最大の国営カジノの経営者。源から業務を委託されている形となる。
現在は経営者として働いているが、ディーラーとしての腕前はまだ落ちていない。
コンプレックスを保持しているかは不明。

森重義生(もりしげよしお)


日本政府に所属する男。立場は源よりも上となる。

日本政府と光文学園の仲介役となるために、源のもとに派遣されてきた。

異常なほどに厚着をしている。

第一部にて秋姫と接触していた男その人。


シンボル:ポーン(黒)

コンプレックス:『ミリオンダラー・ベイビー』

 対象の物体の価値を誤認をさせる。ただし、価値の変動や能力の範囲はミクロなものである。

宇津木将臣(うつぎまさおみ)

大日本帝国第八十六代内閣総理大臣。
千ヶ谷家の最大の政敵。
東京の封鎖政策の主導者。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

猫松喜久二(ねこまつきくじ)

権力者の一人。千陰は性格が悪いと言っている。
元大手薬品会社の重役であり、現在は大手銀行に天下りしている。
コンプレックスを持っていない無能力者。

切田善嗣(せったよしつぐ)

宇津木派の人間に雇われた刺客。
絹人の暗殺を目論見るが、千一郎の機転により防がれた。
その後、忍谷と戦闘になる。

シンボル:スプーン
コンプレックス:『バナナフィッシュにうってつけの日』
 砂糖を自由自在に操る。しかし操れるのは乾いた砂糖だけであり、ジュースに溶解しているものなどは操ることができない。

間宮蘖(まみやひこばえ)

宇津木派に雇われた暗殺者。
宇津木側の人間の依頼ばかり引き受けるため、「宇津木の犬」の汚名を着せられている。
しかし暗殺者としての実力は詩音と拮抗する。
オークションのさいには司会を務めていた。

シンボル:???
コンプレックス:『モダン・タイムス』
 自分の身体を軟化する。これにより関節を無視する形で身体を動かせるようになる。
 柔らかくなった身体の痛覚は通常のときと変わらない。

園城ゆゑ(そのしろゆゑ)


光文学園二年十二組の担任教師。28歳。

学園に封鎖線が敷かれるなか、コンプレックスを用いて自力で脱出した。

実は葛籠未造が誘拐した子供たち〈チルドレン〉の一人だった。


シンボル:人体の一部

コンプレックス:『アナベル・リー』

 能力の範囲内の任意の場所に目や口など自分の身体の部品を複製する。

葛籠未造(つづらみぞう)


戦後日本最悪の犯罪者と呼ばれる男。

表向きは死刑の確定から執行まで史上最短で絞首刑に処されたことになっている。

しかし実際は日本政府の庇護下のもと、東京のどこかで生き延びている。

葛籠の犯した犯罪の一つに稀有なコンプレックスを持つ子供を誘拐し、養育していた、というものがある。なぜこのようなことを行っていたのかは不明。

ほのかの予言によると、葛籠が次の「世界の王」である。

第一部「ペストの時代の愛」

大室銀太(おおむろぎんた)

第一部の主人公。
国立光文学園高等部一年八組所属。15歳。
中性的な顔立ちで少女と間違えられることもあるが、性格は偏執的かつ執念深い。
これまで一般市民として生きてきたために戦闘の経験が一切ない。それゆえ学園の封鎖を乗り切るための戦闘では変則的な戦法に頼らざるを得ない。

シンボル:鋏
第一のコンプレックス:『緑の家』
 シンボルの鋏はその強度に関係なく物体を切断する。そのとき物体の連続性は保たれたままになる。切断面を合わせれば、分断したものは再び接合する。
第二のコンプレックス:『石蹴り遊び』
 『緑の家』によって切断した異なる物質を接合する。接合された物体は元の二つの物質の性質が混ざり合う。時間の経過とともに、物質は元の物質のどちらかの性質へと帰着する。
第三のコンプレックス:『百年の孤独』
 シンボルである鋏に「意思」を与える。鋏はその意思を遂行するように自動駆動するようになる。あくまで鋏は意思を与えられただけであり、生物化していたり、能力者が操作したりしているわけではない。
 鋏の移動のさいは床や壁など、物体を切り裂きながらでなければならない。

瀧川紅月(たきがわべにづき)

第一部のメインヒロイン。
大室姉弟の幼馴染。
七人しか在籍していない特別科クラスに唯一の一年生として所属している。生徒会庶務兼任。16歳。
男勝りで、非常に野蛮な言動が目立つ。その反面、緊急事態でも冷静に対処するだけの胆力と機知を持ち合わせている。

シンボル:ハンドベル
第一のコンプレックス:『太陽の塔』
 能力の範囲内にある最も速度の速い物体を爆破する。このとき、能力の対象には能力者自身も含まれる。
第二のコンプレックス:『明日の神話』
 能力の範囲内にある一定の速度の超えたすべての物体を爆破する。この一定の速度はスペクトルによって設定される。

大室綴(おおむろつづり)

銀太の姉。紅月にとっても姉貴分である。
国立光文学園高等部二年十二組(芸術科クラス)所属。17歳。
自分にも他人にも甘く、銀太と紅月の二人を溺愛している。
一人称が「お姉ちゃん」。
文学に精通しており、編纂者を志している。

シンボル:豆本
コンプレックス:『バベルの図書館』
 シンボルの豆本は無限の頁を持ち、際限なく情報を書き込める。文章の記入・消去は念写により行う。このコンプレックスはあくまで「無限に情報を記録する」能力であり、「頁を入れ替えて情報を整理する」能力はない。

埜切秋姫(のぎりあきひめ)

綴のクラスメートであり、親友。銀太とは初めて会ったときから友達以上、恋人未満の関係。
国立光文学園高等部二年十二組(芸術科クラス)所属。16歳。
気弱な性格であり、自分の意見をなかなか出せない。この性格は自分のコンプレックスが他人のものよりも実用性に欠けることと無関係ではない。
癖毛を気にしており、外出するときは必ず帽子を被る。そのために帽子集めも趣味になっている。

シンボル:???
コンプレックス:『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
 手で触れた小さな傷を塞ぐ。

須磨楓子(すまかえでこ)

紅月のもう一人の親友。
国立光文学園高等部一年六組所属。16歳。
紅月の「唯一」の親友を名乗っているため、銀太とは犬猿の仲。
高飛車で傲慢だが、これは自分の実力への自信の表れである。実際に普通科クラスの中ではトップクラスの成績を誇る。
学園封鎖後はショッピングモールにて幹部の一人になっている。

シンボル:皮手袋
コンプレックス:『茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)』
 シンボルをつけた拳で殴られた人間はその部位を認識できなくなる。攻撃された部位は透明に見え、同時にその機能も失う。

守門恒明(しゅもんつねあき)

七人いる特別科クラスの一人。生徒会書記兼任。学年は二学年に当たる。17歳。
綴に一目惚れして以来、告白を繰り返している。そのために銀太からは目の仇にされている。
お坊ちゃんであり、物腰が柔らかい反面、ナルシストな言動が目立つ。しかし特別科クラスに所属している以上、頭脳や戦闘の実力は折り紙つき。

シンボル:金平糖
コンプレックス:『重力の虹』
 空中に浮いている物体を垂直に落下させる。このときの落下の速度は少なからず銃弾の速度を超える。

常盤七星(ときわななほし)

特別科クラスの一人。生徒会会計兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
紅月と同様、生徒会の義務を放棄しているため、クラスメートからは問題児として見られている。
学園封鎖とともにショッピングモールを制圧し、ここに篭城する。その後ショッピングモールの管理人として、学園内の物資と人材を独占している。

シンボル:注射器
コンプレックス:『美しき水車小屋の娘』
 自分の血液を混ぜた液体を操る。このとき、必要な血液の量は操る液体の体積に比例する。そのため、自分が貧血になるほどの量の液体は操ることができない。

犬童影千代(いぬどうかげちよ)

ショッピングモールの幹部の一人。医療品や生活用品の管理を担っている。
国立光文学園高等部三年二組所属。18歳。
物腰の柔らかい好青年。しかし七星がショッピングモール内で唯一コンプレックスを把握していない人間でもある。そのため七星からは「油断のならない男」として見られている。

シンボル:水銀温度計
コンプレックス:『パルプ・フィクション』
 自分よりも高いところにいる生物の体温を上げ、自分よりも低いところにいる生物の体温を下げる。
 このときの変化率は能力者との上下の距離が離れているほど大きくなる。

赤藤梨音(あかふじりおん)

ショッピングモールの住人の一人。地下倉庫(監房として用いている)の管理を担っている。
国立光文学園高等部二年五組所属。17歳。
幹部ではないが、貴重なコンプレックスを持っているために同等の発言権を持つ。本人曰く、人を閉じ込めるのに適したコンプレックス。
間延びした口調のため、ややとろそうに見える。しかし七星や犬童への意見は鋭く、意外にも人をよく見ている。

シンボル:鍵
コンプレックス:『夏への扉』
 能力の範囲内にある、場所から場所を区切るもの(扉や窓など)に、可能な限り通行の妨害をさせる。
 具体的には、それらが固定されたように開きにくくなり、無理やりこじ開けても即座に閉まるようになる。

桑折良蔵(こおりりょうぞう)

特別科クラスの一人。生徒会会長兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
精悍な顔つきをした巨漢。生徒会長という立場も相まって一般クラスの生徒たちから恐れられているが、クラスメート曰く、その性格は寛容。
互いに反目しがちな特別科クラスの人間には珍しく、クラスメートを家族だと考えている(特別科クラスから離反した紅月と七星も例外ではない)。生徒会長である自分はその家長だという自負がある。

シンボル:磁石
コンプレックス:『ペイント・イット・ブラック』
 シンボルを中心にして、同じ物質を集める。このときに物質が集まる速度は、その途中にあったものを破壊するほど速い。
 シンボルの磁石は同時に二個以上具現化することもできる。

立畑照葉(たてはたてりは)

特別科クラスの一人。生徒会副会長兼任。学年は三学年にあたる。17歳。
端正な顔立ちだが、男口調であり、傍若無人な態度が目立つ。
紅月と七星の死刑宣告の撤回を報告するために、銀太たちを訪ねてくる。
見た目に合わず、作中でも珍しい、武術を極めた武闘派。

技術:「炸空術」(さっくうじゅつ)
 手を打ち鳴らすことによって、空気を破裂させ、真空により対象を切断する。これはコンプレックスではなく、純粋な技術。銀太は剣術の系統に入る武術と見た。
シンボル:モノクル
コンプレックス:『鎖に繋がれた犬のダイナミズム』
 モノクルを嵌めた左目では、すべてのものが静止して見える。つまり能力者は左目で一瞬一瞬が止まった世界を見て、右目で流れている世界を見ていることになる。

清美一暁(きよみかずあき)

特別科クラスの一人。生徒会遊撃兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
細身だが、非常な長身。髪型は常にオールバックにしている。
性格は慇懃で、馬鹿に思えるほど丁寧な口調で話す。
生徒会の職務を全うしようとしない紅月の交渉役を引き受ける。

シンボル:鎖帷子
コンプレックス:『私の名は赤』
 能力者に与えられるダメージ、もしくは能力者が与えるダメージの位置を別の場所に転移させる。

吾妻奈純(あずまなずみ)

特別科クラスの一人。生徒会遊撃兼任。学年は二学年に当たる。16歳。
緊急集会のさい、反抗的な態度を取った男子生徒二名を射殺する。
恒明からは「野蛮な性格」と評される。
生徒会の職務を全うしようとしない七星の交渉役を引き受ける。

シンボル:二丁の散弾銃
コンプレックス:『ライト・マイ・ファイア』

天目小桜(てんめこざくら)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園一年普通科。15歳。
犬童をリーダーとした、七星に対する反勢力の一人でもある。
そのコンプレックスを使い、ショッピングモールの住人を暗殺する。
正体を暴かれたさい、仲間の情報を流して命乞いするが、七星に拒否され殺害される。

シンボル:拳銃
コンプレックス:『若きウェルテルの悩み』
 シンボルは驚いた人間に憑依する。その人間がもう一度驚いたとき、身体を乗っ取り、拳銃自殺させる。
 このとき、周りにいる人間の中で最も早く驚いた人間に改めて憑依する。

也則允彦(なりのりまさひこ)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園三年六組所属。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
プロレス同好会会長。
銀太はその戦闘能力を高く買ったが、紅月は「馬鹿」と一蹴した。

シンボル:プロレスマスク
コンプレックス:『ボーン・トゥ・ラン』
 身体に触れたものを吸着する。
 格闘技の固め技はほとんどの場合、抜け出す技術も見つけられている。しかしこの能力と組み合わせれば、相性の悪いコンプレックスを持っていない限り、抜け出すことは不可能になる。

毒島慈(ぶすじまめぐむ)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園一年八組所属。銀太とはクラスメートである。16歳。
ショッピングモールの反勢力チームの一人。
醜男であり、女性に恨みを持っている。しかし銀太は見た目以上に卑屈な性格に問題があると言っている。

シンボル:???
コンプレックス:『目=気球』
 自分に対して嫌悪した人間の大腸にサナダムシのように寄生する。
 能力者は寄生主から少しずつ栄養を奪い、三日ほどで死に至らしめる。そのあいだ、人質を取っている状態にもなる。

一重柳子(ひとえりゅうこ)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
殲滅戦が始まってからも、自分のコンプレックスを使って周りの人間を欺き、フードコートでくつろいでいた。
身なりを異様に気にし、学園封鎖の中でも衣服の手入れをかかさない。

シンボル:メモ帳
コンプレックス:『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』
 メモ帳を読んだ人間は、そこに書かれた言葉を言うことができなくなる。その言葉を言おうとした場合、言い間違えるようになる。このとき、その人間は自分が別の言葉を言っていることに気がつかない。

八木沼篤(やぎぬまあつし)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
殲滅戦が始まると同時にショッピングモールから脱出を試みるが、赤藤の『夏への扉』の能力を知らなかったために自動ドアに挟まれ、身動きが取れなくなる。
その後、楓子により自動ドアから引きずり出される。楓子に奇襲をかけるも、『茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)』によって返り討ちにされる。
コンプレックスを保持しているが、詳細は不明。

時谷圭吾(ときやけいご)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
赤藤の『夏への扉』により、眼鏡屋に閉じ込められる。そのため、そもそも殲滅戦が始まったことを知らなかった。
銀太の能力で眼鏡屋から救出されるが、同時にその場にいた七星から死刑宣告を受ける。命乞いをするが、七星に拒絶され首を刎ねられる。
コンプレックスを保持しているが、詳細は不明。

殺人犯

第一部のラスボス。
生徒会暗殺。
大室綴、守門恒明、常盤七星、犬童影千代を殺害した。

シンボル:バタフライナイフ
第一のコンプレックス:『フルメタル・ジャケット』
 シンボルでつけた傷を自由に開閉する。この能力は生物にも無生物にも有効。
第二のコンプレックス:『地獄の黙示録』
 シンボルでつけた傷を自由に移動させる。このときの移動速度は人間が全速力で走るよりも速い。

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