第10話
文字数 2,018文字
それから幸子は何度も男を買った。
何回かリピートする男もいれば、二度と声をかけない男もいた。
買うたびに、幸子は男たちにされたことを思い出した。楽しい作業ではなかった。
それでも幸子はやめなかった。
自分が受けた屈辱や苦痛をなでることを。
そして、思いだしたこと、自らがされていたことを目の前の若い男に施した。
男は決まって細い声をあげた。
初めての責めに興奮するのか、細い体を反らし、すぐに精を放つものも少なくなかった。
ちいさく笑っているものもいた。
あの頃の幸子と同じだった。
男も数年後には、幸子を恨むのだろうか。
そして、今こうしている自分のことを嘆くのだろうか。
幸子は初めて、自分がしていたこと、されていたことの意味を知った。
男を買い漁るにようになってから、幸子は鏡に映る自分がぐっと老け込んだと感じていた。
三十代になった途端、井戸の水が枯れるように幸子にツキがなくなった。
実は幸子が失っていたのはツキではない。そう思っていたのは幸子だけである。
三十になった幸子は、もう美しい女とは言えなくなっていた。
唯一の拠り所であった「美しさ」が幸子から離れていってしまったのだ。
幸子の顔は年をとればとるほど醜くなる類のものだった。
キリリと切れ上がっていた目尻はだらしなく垂れ下がり、同じように口角も不機嫌を表すかのように下がっていった。
ケアを怠った目元は緩み、皺ぶき、黒ずんでいた。幸子は年より五つは老けてみえた。
加齢で美しさや余裕が増していく女もいれば、幸子のように十代の半ばに美しさのピークを迎える女もいる。
享楽のなかで自身は見失っていたが、幸子の容姿は坂を転げ落ちるように衰えていたのである。
三十一になった幸子は銀座を出て、錦糸町の店に移る。
幸子はそこでももう結果を出すことはできなかった。
十年の間に八回ほど店を移り、錦糸町を離れた。
そして、幸子は亀戸のスナックで働くようになった。雇われママだ。
四十一の幸子の前にあらわれたのは、同じ団地に住んでいた同級生の太一だった。まともに中学に通わなかった幸子にとって、懐かしさなどというものは当然ない。共有する思い出も皆無だ。
それでも太一は幸子に夢中になった。毎日店に通ってきては、幸子のそばを離れなかった。
幸子はおかしな男もいるものだと、太一を嘲笑った。
ある夜、店に誰もいないとき、酔った幸子は太一に聞いた。
「どうして私なんかがいいの? こんな目元も頬も垂れ下がったほうれい線お化けのどこがいいの? しつけの悪いブルドッグみたいな顔した女の、どこがいいの?」
このころの幸子はさすがに自身の容姿の衰えを認識していた。
「そんなことない、そんなことない」
幸子と同様に酔っ払い、赤い顔をした太一が下を向いたまま、必死に頭を振った。
「変なの~」
そのとき、太一が幸子を押し倒した。
「きゃっ」
何度も酒をこぼしたせいでところどころ変色しているソファの背が、幸子の目にはいる。
幸子は太一を見てはいないかった。
「好きだ」
「好きって、子供じゃあるまいし」
やる前の男の好きに意味などない。
「おまえは・・・」
幸子の胸に太一が顔をうずめる。
幸子は太一がしやすいように小さくのけぞりながら、太一の髪をぐりぐりとかき乱した。太一が顔をあげる。幸子と目が合う。
「天使みたいだ。今でも」
「え?」
「東京の天使だ」
そう言って、太一は幸子の胸を乱暴に噛む。
「あっ」
鍵をかけないと。
太一に胸を提供し、しなりながら幸子は心配する。
大丈夫だ。遅いし、もう今日は誰も来ないはずだ。
ならばと幸子は太一が続きをしやすいように、肌をすべらすように服を脱いでいく。早く太一を受け入れたかった。
太一が言ったことが頭を駆け巡る。
天使。
幸子のソコは自分でも驚くほど急速に潤っていく。
そんな幸子に気付き、太一はすぐに突っ込んできた。
小さく硬いソファの上で交わった後、幸子は太一に問いかけた。
「ねえ、太一。中学のとき、私で抜いた?」
「え?」
「だから、私のこと考えてオナニーした?」
「・・・」
「何よ。しなかったの? そんなんで好きって言えるの?」
「・・・した」
「え? 声が小さい」
「したよっ! した。何度もした」
「へえ、何度もしたんだ~」
「うるせっ!」
「きゃっ!」
太一が幸子を乱暴に抱き寄せる。
この男が初めての男だったら、私の人生は変わっていただろうか。
短小の須藤ではなく、無駄に大きなモノをぶらさげた(それが太一の唯一の長所だった)太一だったら。
早くも力を取り戻した太一が自身のモノを幸子の入り口にあてがう。
「もう一度、いいか?」
幸子は黙って頷き、これまでもずっとそうしてきたように器用に男を導き入れた。
何回かリピートする男もいれば、二度と声をかけない男もいた。
買うたびに、幸子は男たちにされたことを思い出した。楽しい作業ではなかった。
それでも幸子はやめなかった。
自分が受けた屈辱や苦痛をなでることを。
そして、思いだしたこと、自らがされていたことを目の前の若い男に施した。
男は決まって細い声をあげた。
初めての責めに興奮するのか、細い体を反らし、すぐに精を放つものも少なくなかった。
ちいさく笑っているものもいた。
あの頃の幸子と同じだった。
男も数年後には、幸子を恨むのだろうか。
そして、今こうしている自分のことを嘆くのだろうか。
幸子は初めて、自分がしていたこと、されていたことの意味を知った。
男を買い漁るにようになってから、幸子は鏡に映る自分がぐっと老け込んだと感じていた。
三十代になった途端、井戸の水が枯れるように幸子にツキがなくなった。
実は幸子が失っていたのはツキではない。そう思っていたのは幸子だけである。
三十になった幸子は、もう美しい女とは言えなくなっていた。
唯一の拠り所であった「美しさ」が幸子から離れていってしまったのだ。
幸子の顔は年をとればとるほど醜くなる類のものだった。
キリリと切れ上がっていた目尻はだらしなく垂れ下がり、同じように口角も不機嫌を表すかのように下がっていった。
ケアを怠った目元は緩み、皺ぶき、黒ずんでいた。幸子は年より五つは老けてみえた。
加齢で美しさや余裕が増していく女もいれば、幸子のように十代の半ばに美しさのピークを迎える女もいる。
享楽のなかで自身は見失っていたが、幸子の容姿は坂を転げ落ちるように衰えていたのである。
三十一になった幸子は銀座を出て、錦糸町の店に移る。
幸子はそこでももう結果を出すことはできなかった。
十年の間に八回ほど店を移り、錦糸町を離れた。
そして、幸子は亀戸のスナックで働くようになった。雇われママだ。
四十一の幸子の前にあらわれたのは、同じ団地に住んでいた同級生の太一だった。まともに中学に通わなかった幸子にとって、懐かしさなどというものは当然ない。共有する思い出も皆無だ。
それでも太一は幸子に夢中になった。毎日店に通ってきては、幸子のそばを離れなかった。
幸子はおかしな男もいるものだと、太一を嘲笑った。
ある夜、店に誰もいないとき、酔った幸子は太一に聞いた。
「どうして私なんかがいいの? こんな目元も頬も垂れ下がったほうれい線お化けのどこがいいの? しつけの悪いブルドッグみたいな顔した女の、どこがいいの?」
このころの幸子はさすがに自身の容姿の衰えを認識していた。
「そんなことない、そんなことない」
幸子と同様に酔っ払い、赤い顔をした太一が下を向いたまま、必死に頭を振った。
「変なの~」
そのとき、太一が幸子を押し倒した。
「きゃっ」
何度も酒をこぼしたせいでところどころ変色しているソファの背が、幸子の目にはいる。
幸子は太一を見てはいないかった。
「好きだ」
「好きって、子供じゃあるまいし」
やる前の男の好きに意味などない。
「おまえは・・・」
幸子の胸に太一が顔をうずめる。
幸子は太一がしやすいように小さくのけぞりながら、太一の髪をぐりぐりとかき乱した。太一が顔をあげる。幸子と目が合う。
「天使みたいだ。今でも」
「え?」
「東京の天使だ」
そう言って、太一は幸子の胸を乱暴に噛む。
「あっ」
鍵をかけないと。
太一に胸を提供し、しなりながら幸子は心配する。
大丈夫だ。遅いし、もう今日は誰も来ないはずだ。
ならばと幸子は太一が続きをしやすいように、肌をすべらすように服を脱いでいく。早く太一を受け入れたかった。
太一が言ったことが頭を駆け巡る。
天使。
幸子のソコは自分でも驚くほど急速に潤っていく。
そんな幸子に気付き、太一はすぐに突っ込んできた。
小さく硬いソファの上で交わった後、幸子は太一に問いかけた。
「ねえ、太一。中学のとき、私で抜いた?」
「え?」
「だから、私のこと考えてオナニーした?」
「・・・」
「何よ。しなかったの? そんなんで好きって言えるの?」
「・・・した」
「え? 声が小さい」
「したよっ! した。何度もした」
「へえ、何度もしたんだ~」
「うるせっ!」
「きゃっ!」
太一が幸子を乱暴に抱き寄せる。
この男が初めての男だったら、私の人生は変わっていただろうか。
短小の須藤ではなく、無駄に大きなモノをぶらさげた(それが太一の唯一の長所だった)太一だったら。
早くも力を取り戻した太一が自身のモノを幸子の入り口にあてがう。
「もう一度、いいか?」
幸子は黙って頷き、これまでもずっとそうしてきたように器用に男を導き入れた。