第1話

文字数 1,188文字

 飛竜は竜騎士の大切な相棒。頭が良く、自由自在に空を飛び、強力な魔法が使え、なにより強靭な身体を誇り、そして長寿の生き物であるため多くの戦いに重宝されました。
 しかし、そんな飛竜にも最近困ったことがあります。
 飛竜と竜騎士がタッグを組んでいたのは今や遠い昔のこと。文明は進み、剣や魔法による争いはなくなり、当然竜騎士を目指す人間も消え失せ、飛竜は高層ビルの上を肩身が狭そうに行ったり来たり。
「フラフラしてばかりもつまらん。働き口を探そう」
 ということで、飛竜たちは再就職先を探すことに。
 キャリアのある飛竜は、国や都市のシンボルとして丁重に扱われました。飛竜のいる山や湖はパワースポットとして毎年多くの観光客が訪れます。
 けれども、こうした安定的な立場になれるのはほんのひと握り。他の飛竜たちは職探しに奔走します。
 宅配業界を志す飛竜もいました。そのハイスピード、タフさ、パワーはまさに会社にとっても魅力的。けれども、
「どうもー、ドラゴン・イーツです」
 バイトなりたての飛竜がマンションのベランダまで飛んできました。
「ありがと……ってか、頼んだピザ崩れてんじゃん。もうちょっと丁寧に運んで来いよ」
 おっと、手厳しいクレームです。
「うっせーんだよアホ! もうアッタマきた!」
 イライラした飛竜はお客さんをその場で丸かじり。このように、クレーム客を食う飛竜が続発したので、飛竜は宅配業界から出禁になりました。
「素晴らしい。なんと美しいフォルムだ」
 と、映画監督に見出され、スクリーンデビューした飛竜もいました。優雅に空中を舞う様子は、やはり圧巻の一言です。飛竜を主役にした映画は人気を集め、シリーズ化もされるようになったのですが、
「首は3つに増やせるかね」
「当然炎は吐けるよね?」
「変形! クライマックスで変形しましょう。3段階! できますよね?」
という製作者側のムチャぶりに嫌気が差し、引退する飛竜も決して少なくありませんでした。
「やっぱり誰かを運ぶ仕事のほうが向いているな」
 あるときから飛竜たちは谷に住み、遊覧飛行のサービスを始めることにしました。
 家族連れや団体客を中心にこのサービスは大人気。そして、意外なことに
「なんだか仕事に疲れちゃって……」
「今の彼氏といても楽しくないのよね」
 仕事や恋にマンネリを感じている女性たちが
ひとりで飛竜の谷を訪れるように。
「なら、オレが新しい世界を見せてやるよ。さぁ、しっかりつかまって」
 飛竜は女性たちを連れて高く舞い上がりました。無数にきらめく夜景よりも、高級車でのドライブよりも、飛竜に乗って間近で見つめる夜空の星の美しいことといったら。どんなホストでも決してマネができません。
 甘い文句と空中散歩に魅了されて、飛竜と駆け落ちする女性があとをたたなくなりました。
 飛竜は、いつの世も自由自在に空を飛び、気ままに生きる存在なのです。
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