wink killer もし、ウィンクで人を殺せたら――。

文字数 1,912文字

優月 朔風 様作

【あらすじ引用】
もしウィンクだけで人を殺せる力を手にしたら、貴方はその力、何に使いますか。

 誰かを守るため?
 自分を守るため?
 それとも――憎い相手を、殺すため?

  ☆★☆

 別れたはずの元恋人に殺されかけ、死の間際にあったある一人の少女。
 そんな彼女が手に入れたのは、右目を瞑ることで人を殺めてしまう事ができる、wink killerと呼ばれる死神の力だった。

 「この力は、大切な人を守るために使う」

 少女はそう誓い、大切な者を守るために生きると決めた。


 ――はずだった。

【物語は】
予言ような夢から始まる。物語はその後、学校での日常風景へ。
主人公には数人の仲の良い友人がおり、弄られるようなポジションに見える。しかし、主人公は彼女たちを大切に思っている様だ。恐らく、この穏やかな日常が変わっていまうのではないだろうか。

【変わりゆく主人公の日常】
いつも通り、友人に対して振舞う主人公。しかし、既に変化は訪れていたようである。回想と共に明らかになる、その日の出来事。彼女が狙われたのは、たまたまだったのかも知れない。しかし彼女の性格や言動は、恋人が求めたものに合致してしまう。

大好きだった元恋人に裏切られるだけでなく、自分勝手な彼の思想の元に、命まで奪われそうになる、主人公。絶体絶命の危機。だが、彼女が死ぬことはなかった。代わりに転がっていたのは、元恋人。
何が起きたかもわからず、雨の中を無我夢中で逃げ帰る主人公。何度も繰り返し、起きたことを考えてしまう。彼の言葉と共に。それでもなんとかこの日は眠りにつく。

そんな彼女を、翌朝待ち受けていたものとは?

主人公は、死神だという男から、詳しく自分の能力について聞くこととなる。自分がしてしまったことを、受け入れることができない彼女であったが、徐々に理解し罪悪感に苛まれていく。それでも、いつも通りの自分でいたい。友人の心配をかけないと望む。しかし気持ちの、限界が訪れてトイレに駆け込むのであった。

【自分と向き合い、受け入れる主人公】
この物語の主人公は、とても弱い人間だと感じる。弱いからこそ、人に迷惑をかけないように、自分を抑え込み感情を隠す。きっとそうしなくてはならない何かがあったのだろう。

ある日突然人を殺せる力を手にしたら、確かに誰だって怖いと思うはずだ。ましてや、恋人を殺してしまったというのならば。
いい子でいたい気持ちもあったのだと思う。だが現実は黒い感情で、恋人を殺してしまった。しかも誰にも言うこともできない。自分を責め続け、いつもと違う友人の優しさに、救われたりもした。だが拒否したところで、この力が無くなることはない。

そんな彼女から、本心を引き出そうとする死神。やり方は手荒だが、ようやく主人公が生きることを受け入れたように感じた。

【物語の全体像】
一章は、まだ主人公が”ウィンクだけで人を殺せる力”を手に入れ、罪悪感と戦う様子が描かれていると感じた。この物語の方向性や全体像が分かってくるのは、二章に入ってからだと思われる。
一章では友人たちとのやり取りがあり、主人公だけが自分を出せていないのかと感じられた。しかし物語が進むにつれ、それぞれが心に何かを抱えているのではないかと思い始める。

悲しい事件を乗り越え、ようやく自分の力を受け入れる主人公。これから彼女に、どんな日々が待ち受けているのだろうか。

【物語のみどころ】
この物語には、ところどころにメッセージが盛り込まれている。それは、対人だったり、生きることそのものであったり。
はじめは人と上手くやろう、心配や迷惑をかけないよにと思っていた主人公。死の危険が訪れることによって、死神の力を奪ってしまう。
その力で生き延びたものの、簡単に受け入れることが出来なかった。

罪の意識で潰れそうになるも、事実は変えられない。自分は生きていていいのだろうかと思いながらも、生きたいと思ってしまっている。良心の呵責が自分自身を追い詰めているのではないだろうか。

やっと生きることを受け入れることは出来たけれど、力までは受け入れられなかった。そんな彼女に、ある出会いが訪れる。この出会いがターニングポイントだったのではないだろうか。この事件で初めて主人公は、自分の意志で力を使うのだ。しかし、新たな恐怖が彼女を襲う。

この物語はヒューマンドラマであり、人の心理そのものがモチーフなのではないだろうか。その為、焦る気持ちや恐怖心、不安などが丁寧に描かれていると感じた。

あなたもお手に取られてみませんか?
主人公が自分の力を受け入れた時、彼女の日常はどう変わってくのだろうか。
ぜひ、その目で確かめてみてくださいね。お奨めです。
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