水も滴る良い仲間
文字数 3,145文字
少年と見舞いをしてから四日後、アランはシュバルツの家を訪れる。彼は、少年へ仕事を与えに来た訳ではなく、単に様子を見に来ただけであった。とは言え、彼らの仕事が無いと言うことは、助けるべき子供が居ないと考えれば喜ばしいことでもある。しかし、少年はそうは考えなかった様子で、不審そうに訪問者の顔を見つめていた。
「歓迎して貰おうとは思ってなかったけどよ……そこまで露骨に嫌がるなよ」
青年は、そう言うと半分ほど開かれていた玄関のドアを掴んで大きく開ける。対するシュバルツは溜め息を吐き、それからつまらなそうに話し始めた。
「だって、まったりと寛いでいたのに、わざわざ玄関を開けに来たんだよ? アランの為に。それなのに、様子を見に来ただけとか……俺の気持ちも察してよ、おじさん?」
それを聞いたアランは一笑し、少年の頭を掴んで下方に強く押す。
「誰がおじさんだ、誰が。そう言うのは、力で勝てるようになってから言え」
言いながらアランは力を込め、シュバルツは降参した様子で一歩後退する。後退した少年は、アランに押された場所を軽く撫でた。そして、眼前に居る者を見つめると、どこか諦めた様子で言葉を発する。
「はいはい、アランお兄様」
少年の返しにアランは身震いをし、それから二の腕を逆側の手で上下にさする。
「慣れない呼び方すんなよ気持悪い」
そう言って溜め息を吐くと、アランはシュバルツの目を真っ直ぐに見つめる。
「体が鈍らねえように、ちょっと遊ばねえか? どうせ、やることねえんだろ?」
青年は、そう言うと腰を曲げて少年の顔を下から見上げる。対するシュバルツは、何かを考えている様子で顎に手を当て、それから渋々と言った風に言葉を発した。
「だね。アランに負けるようじゃ、俺もまだまだみたいだし?」
そう返すと、シュバルツは家から出て玄関のドアを閉めた。その後、アランとシュバルツは、家の近くで手合わせを始める。
彼らは、互いに真剣に攻撃を繰り出しており、時折避けきれなかった拳が少年の体を掠めていた。しかし、少年の攻撃がアランに当たることは無く、シュバルツは悔しそうに唇を噛む。
そうしている内に彼らの息は上がっていき、シュバルツはアランに一撃も当てることなく地面に倒れこんだ。一方、アランはそんな少年の横に腰を下ろし、笑いながら汗ばんだ黒髪を撫でる。この時、少年の胸は素早く上下しており、着ている服は汗で湿っていた。それはアランも同じことで、彼の額からは止めどなく汗が流れている。
「頑張ったじゃねえか。昔は、まともに食らって座り込んでたのによ」
そう言うと、アランはシュバルツの髪を乱暴に掻き乱した。対する少年は青年の手を払いのけ、途切れ途切れに言葉を発する。
「昔って……何時の、話?」
少年は、そう言うと目を瞑り、前腕で自らの顔を覆った。
「さあて、な。落ち着いたら、孤児院にシャワー借りに行こうぜ? お前も結構汗かいたろ」
言って、アランは両腕を空に向けて大きく伸ばす。一方、シュバルツは大きく息を吸い込むと、掠れた声で話し出した。
「俺の家、そこなんだけど」
少年は、そう言ったところで近くに在る家を横目で見やった。彼の話を聞いたアランと言えば鼻で笑い、それからシュバルツの肩を軽く叩く。
「お前んちじゃ一緒に入れねえだろうが」
その一言を聞いた者は溜め息を吐き、腕を体の横に下ろして言葉を返す。
「一緒に入るとか……子供じゃあるまいし」
そう言って体を起こすと、少年は湿った黒髪を後方へ撫でた。この時、優しい風が彼の頬を撫で、その気持ちよさにシュバルツは思わず目を細める。
「何言ってんだ。裸の付き合いってのも有るんだぜ? それに、お前の体が貧弱になってねえか、見て確かめたいしな」
青年は、そう言うなり立ち上がり、腰に手を当てて背中を伸ばした。
「そろそろ行くぞ? 何時までも寝転がってる訳にもいかねえし」
その後、青年はシュバルツの両手首を掴んで上体を起こさせる。そして、体が汗で冷える前にシャワーを浴びた方が良いと加え、二人は孤児院へ向かって行った。
孤児院に到着したアランは、直ぐに浴室へと向かって行く。彼は、脱衣所に着くなり服を脱ぎ、それを持って浴室に入った。
「ちょ……アラン、なんで服を持って行くの」
彼の後を追ってきた少年は、体に張り付く服を脱ぎながら言葉を発した。一方、青年はシャワーのバルブを捻り、その冷水に服を曝す。
「ついでに洗っちまおうと思ってよ。汗臭い服を着直すのもなんだし」
そう言うと、アランは今まで着ていた服を洗い始める。対するシュバルツは溜め息を吐き、脱いだ服を空の籠に投げ入れた。
「お前も洗っちまえよ。体はさっぱりしても、服が汗にまみれたままじゃ気持ち悪いだろ」
その提案を聞いた者と言えば、暫く考えた後で脱いだ衣服を纏めて浴室へ入った。そして、アランと同様にバルブを捻ると、自らの服を洗い始める。
そうして服を洗った後、二人は服を搾って脱衣所の棚に干した。彼らは、そうした後で体を洗い始め、アランは少年の体を横眼で見やる。シュバルツの体は、青年より白くて細かった。この為、アランは少年の体を見て笑い、白い腕を掴んで持ち上げる。
「やっぱ、まだまだだな」
そう言って手を離すと、アランは自らの髪を洗い始めた。対する少年はアランの体を見つめ、それから自分の体を見下ろした。
「うん、筋肉馬鹿には負けるかな」
それを聞いた青年は、少年の背中を軽く叩いた。
「誰が馬鹿だっつの」
少年は、不意の刺激に咳込み、それからアランの顔をじっと見つめた。しかし、彼は何か言葉を発することは無く、素早く髪や体を洗うと浴室を出る。浴室を出た者は、濡れたままの服を手に取ると上下に勢い良く振った。とは言え、その程度で服が乾く訳もなく、シュバルツは溜め息を吐いて湿ったままの服を身に付ける。
そうこうしている内にアランも浴室を出、彼は濡れた服を持つと脱衣所の奥に向かって行った。そこには、白いドライヤーが幾つか在り、彼はそれを使って服を乾かし始める。一方、シュバルツはそれをどこか恨めしそうに見つめ、それから濡れた上着を掴んで体から離した。
「なんだお前、濡れたままの服を着たのか」
服を乾かしている者は、そう言うと少年の姿を横目で見やる。すると、少年は目を瞑り、少しの間考えてから口を開いた。
「うん。乾くまで時間が掛かりそうだし」
シュバルツは、そう言って脱衣所を去ろうとした。しかし、その前にアランが彼を呼び止め、その声に気付いた少年は立ち止まって振り返る。
「誰も待ってねえんだし、急ぐことねえだろ。つーか、出てくの早えよ」
この時、アランがドライヤーを掛けていた服は殆ど乾いており、彼はそれを身に付けると厚めのボトムズを乾かし始めた。
「でも、長居する理由も無いよね?」
そう問うと、少年はわざとらしく首を傾げた。対する青年は軽く笑い、それから自らの意見を伝えていく。
「まあな。だが、その服で歩き回るつもりか?」
アランの問いを聞いた者と言えば、自らの上着を掴んで見下ろした。
「水も滴る良い男?」
「良くねえよ。子供達が見たら更に良くねえよ」
青年は、そう返すとわざとらしく溜め息を吐いた。
「ほら、乾かしにこっち来い。着たままだって少しは乾くだろ」
アランの話を聞いた少年と言えば、暫くの間をおいてから青年の方へ近付いていく。そして、使われていないドライヤーを手に取ると服を乾かし始め、それが大体乾いたところで髪を乾かし始めた。
少年が髪を乾かしていた頃、アランはボトムズを乾かし終え身に付けていた。その後、シュバルツの髪も直ぐに乾き、二人は連れ立って脱衣場を出る。
「歓迎して貰おうとは思ってなかったけどよ……そこまで露骨に嫌がるなよ」
青年は、そう言うと半分ほど開かれていた玄関のドアを掴んで大きく開ける。対するシュバルツは溜め息を吐き、それからつまらなそうに話し始めた。
「だって、まったりと寛いでいたのに、わざわざ玄関を開けに来たんだよ? アランの為に。それなのに、様子を見に来ただけとか……俺の気持ちも察してよ、おじさん?」
それを聞いたアランは一笑し、少年の頭を掴んで下方に強く押す。
「誰がおじさんだ、誰が。そう言うのは、力で勝てるようになってから言え」
言いながらアランは力を込め、シュバルツは降参した様子で一歩後退する。後退した少年は、アランに押された場所を軽く撫でた。そして、眼前に居る者を見つめると、どこか諦めた様子で言葉を発する。
「はいはい、アランお兄様」
少年の返しにアランは身震いをし、それから二の腕を逆側の手で上下にさする。
「慣れない呼び方すんなよ気持悪い」
そう言って溜め息を吐くと、アランはシュバルツの目を真っ直ぐに見つめる。
「体が鈍らねえように、ちょっと遊ばねえか? どうせ、やることねえんだろ?」
青年は、そう言うと腰を曲げて少年の顔を下から見上げる。対するシュバルツは、何かを考えている様子で顎に手を当て、それから渋々と言った風に言葉を発した。
「だね。アランに負けるようじゃ、俺もまだまだみたいだし?」
そう返すと、シュバルツは家から出て玄関のドアを閉めた。その後、アランとシュバルツは、家の近くで手合わせを始める。
彼らは、互いに真剣に攻撃を繰り出しており、時折避けきれなかった拳が少年の体を掠めていた。しかし、少年の攻撃がアランに当たることは無く、シュバルツは悔しそうに唇を噛む。
そうしている内に彼らの息は上がっていき、シュバルツはアランに一撃も当てることなく地面に倒れこんだ。一方、アランはそんな少年の横に腰を下ろし、笑いながら汗ばんだ黒髪を撫でる。この時、少年の胸は素早く上下しており、着ている服は汗で湿っていた。それはアランも同じことで、彼の額からは止めどなく汗が流れている。
「頑張ったじゃねえか。昔は、まともに食らって座り込んでたのによ」
そう言うと、アランはシュバルツの髪を乱暴に掻き乱した。対する少年は青年の手を払いのけ、途切れ途切れに言葉を発する。
「昔って……何時の、話?」
少年は、そう言うと目を瞑り、前腕で自らの顔を覆った。
「さあて、な。落ち着いたら、孤児院にシャワー借りに行こうぜ? お前も結構汗かいたろ」
言って、アランは両腕を空に向けて大きく伸ばす。一方、シュバルツは大きく息を吸い込むと、掠れた声で話し出した。
「俺の家、そこなんだけど」
少年は、そう言ったところで近くに在る家を横目で見やった。彼の話を聞いたアランと言えば鼻で笑い、それからシュバルツの肩を軽く叩く。
「お前んちじゃ一緒に入れねえだろうが」
その一言を聞いた者は溜め息を吐き、腕を体の横に下ろして言葉を返す。
「一緒に入るとか……子供じゃあるまいし」
そう言って体を起こすと、少年は湿った黒髪を後方へ撫でた。この時、優しい風が彼の頬を撫で、その気持ちよさにシュバルツは思わず目を細める。
「何言ってんだ。裸の付き合いってのも有るんだぜ? それに、お前の体が貧弱になってねえか、見て確かめたいしな」
青年は、そう言うなり立ち上がり、腰に手を当てて背中を伸ばした。
「そろそろ行くぞ? 何時までも寝転がってる訳にもいかねえし」
その後、青年はシュバルツの両手首を掴んで上体を起こさせる。そして、体が汗で冷える前にシャワーを浴びた方が良いと加え、二人は孤児院へ向かって行った。
孤児院に到着したアランは、直ぐに浴室へと向かって行く。彼は、脱衣所に着くなり服を脱ぎ、それを持って浴室に入った。
「ちょ……アラン、なんで服を持って行くの」
彼の後を追ってきた少年は、体に張り付く服を脱ぎながら言葉を発した。一方、青年はシャワーのバルブを捻り、その冷水に服を曝す。
「ついでに洗っちまおうと思ってよ。汗臭い服を着直すのもなんだし」
そう言うと、アランは今まで着ていた服を洗い始める。対するシュバルツは溜め息を吐き、脱いだ服を空の籠に投げ入れた。
「お前も洗っちまえよ。体はさっぱりしても、服が汗にまみれたままじゃ気持ち悪いだろ」
その提案を聞いた者と言えば、暫く考えた後で脱いだ衣服を纏めて浴室へ入った。そして、アランと同様にバルブを捻ると、自らの服を洗い始める。
そうして服を洗った後、二人は服を搾って脱衣所の棚に干した。彼らは、そうした後で体を洗い始め、アランは少年の体を横眼で見やる。シュバルツの体は、青年より白くて細かった。この為、アランは少年の体を見て笑い、白い腕を掴んで持ち上げる。
「やっぱ、まだまだだな」
そう言って手を離すと、アランは自らの髪を洗い始めた。対する少年はアランの体を見つめ、それから自分の体を見下ろした。
「うん、筋肉馬鹿には負けるかな」
それを聞いた青年は、少年の背中を軽く叩いた。
「誰が馬鹿だっつの」
少年は、不意の刺激に咳込み、それからアランの顔をじっと見つめた。しかし、彼は何か言葉を発することは無く、素早く髪や体を洗うと浴室を出る。浴室を出た者は、濡れたままの服を手に取ると上下に勢い良く振った。とは言え、その程度で服が乾く訳もなく、シュバルツは溜め息を吐いて湿ったままの服を身に付ける。
そうこうしている内にアランも浴室を出、彼は濡れた服を持つと脱衣所の奥に向かって行った。そこには、白いドライヤーが幾つか在り、彼はそれを使って服を乾かし始める。一方、シュバルツはそれをどこか恨めしそうに見つめ、それから濡れた上着を掴んで体から離した。
「なんだお前、濡れたままの服を着たのか」
服を乾かしている者は、そう言うと少年の姿を横目で見やる。すると、少年は目を瞑り、少しの間考えてから口を開いた。
「うん。乾くまで時間が掛かりそうだし」
シュバルツは、そう言って脱衣所を去ろうとした。しかし、その前にアランが彼を呼び止め、その声に気付いた少年は立ち止まって振り返る。
「誰も待ってねえんだし、急ぐことねえだろ。つーか、出てくの早えよ」
この時、アランがドライヤーを掛けていた服は殆ど乾いており、彼はそれを身に付けると厚めのボトムズを乾かし始めた。
「でも、長居する理由も無いよね?」
そう問うと、少年はわざとらしく首を傾げた。対する青年は軽く笑い、それから自らの意見を伝えていく。
「まあな。だが、その服で歩き回るつもりか?」
アランの問いを聞いた者と言えば、自らの上着を掴んで見下ろした。
「水も滴る良い男?」
「良くねえよ。子供達が見たら更に良くねえよ」
青年は、そう返すとわざとらしく溜め息を吐いた。
「ほら、乾かしにこっち来い。着たままだって少しは乾くだろ」
アランの話を聞いた少年と言えば、暫くの間をおいてから青年の方へ近付いていく。そして、使われていないドライヤーを手に取ると服を乾かし始め、それが大体乾いたところで髪を乾かし始めた。
少年が髪を乾かしていた頃、アランはボトムズを乾かし終え身に付けていた。その後、シュバルツの髪も直ぐに乾き、二人は連れ立って脱衣場を出る。