ガチムチ兄貴と肉三昧

文字数 1,896文字

 少年が孤児院で暮らすようになって十年の時が過ぎた。彼の体格は細身ながらも身長は大人達と変わらず、声変わりを済ませた声は不思議と女性達を魅力する。

 とは言え、彼と付き合いの長い者達にとってはまだまだ子供で、特にアランは彼を大人として扱おうとはしなかった。この為、少年は彼からの子供扱いで不機嫌になることが多々あった。しかし、少年は心ではアランを信頼しており、口では逆らおうとも彼の跡を継ごうとしている。
 
「そろそろ俺単独でも行けそうじゃない? 簡単な仕事なら、二人で行くのも効率悪いし」
 薄暗い小屋の中で、少年はアランに問い掛ける。その問いにアランは鼻で笑い、少年へ答えを返した。

「まあな。でも、上は頭の固い奴ばかりだ。俺がお前を認めたって、簡単には単独で行かせられない。そこは、最初に説明したろ?」
 アランは座っている椅子の背もたれに体重を預け、目を細めて少年を見た。一方、彼の話を聞いた少年は不機嫌そうに頷き、どこか気怠るそうに腕を上方へ伸ばす。
 
 この時、少年はアランの横に立っており、細く息を吐くと言葉を発した。

「分かっていますって、孤児院のパトロン様には逆らえないってことは。孤児院を維持して、少しでも多くの子供を幸せにする為に、俺は何だって我慢しますよ」
 そう話すと、少年はアランの正面に在る椅子に座った。その椅子には、先程まで座っていた者の温もりが残っており、部屋に居る二人の間には天版が正方形のテーブルが置かれている。
 
「分かってるんなら、大人しく従っとけ。あいつらを敵に回したって、良いことは一つもねえ。むしろ、色々と面倒なことになるだけだ」
 アランは、そう言い放つと溜め息を吐き、背もたれに寄りかかったまま腕を組んだ。対する少年は無言で頷き、テーブルに肘を付いて口を開く。

「分かっていますって。ただ、言っておくだけ言っておきたくて……俺には、率先して手を汚す覚悟が有るってこと」
 呟く様に言うと、少年は上体を前に傾けて手を組み合わせ、その上に顎を乗せた。彼は、そうした後で左目を瞑り、吐き捨てるように言葉を続ける。
 
「どうせ、俺の手は子供の頃から汚れているしね。今更、手段を選ぶなんてこと、する訳無いし?」
 アランは鼻で笑い、少年の黒髪を乱暴に撫でる。

「馬鹿かお前は。何が子供の頃からだ。まだまだ子供の癖に、粋がってんじゃねえよ」
 そう言って少年の頭を叩くと、青年は椅子から立ち上がった。彼は、そうした後で少年を見下ろし、親指でドアを差して口角を上げる。
 
「ほら、休んでねえでさっさと行くぞ? ここに居座って何になる」
 それを聞いた少年は立ち上がり、アランはドアを開ける。そして、少年は部屋から出、その後を追うようにしてアランも退室した。

 二人が建物の外まで来た時、日は既に傾いていた。それに気付いた青年は目を細めて空を仰ぎ、細く息を吐いてから少年を見下ろす。

「さ、て、と……仕事の前に腹ごしらえと行くか。腹が空いてちゃ、集中力も下がっちまう」
 そう言って少年の背中を叩くと、アランは街道を目指して歩き始めた。一方、少年は彼の後を追い、二人は混み始めた飲食店に到着する。
 
「今日は、豪勢にステーキ喰うか。時間内に食い切れたらタダの」
 アランの提案を聞いた少年は微苦笑し、淡々とした口調で言葉を返す。

「そりゃ、俺達なら成功するだろうけど……店に記録として残されるの、どうかと思うよ?」
 少年の返答を聞いた者は小さく笑い、余裕の笑みを浮かべてみせる。
 
「店員に、記録は残したく無いって言やあ良いだろ。なんなら、偽名を使えば良い」
 アランは、そう話すと片目を瞑り、そのまま少年の顔を見つめた。対する少年は、半ば諦めた様子で息を吐き、首を横に振ってから言葉を発する。

「俺の場合……偽名も何も、本名が分からないんだけどね」
 そう言って苦笑すると、少年はアランの反応を待つことなく店に入った。その後、二人は食事を終えて店を出、満足そうな表情を浮かべて顔を見合わせる。
 
「燃料は入ったし、軽く腹ごなしでもするか」
 そう言って口角を上げると、アランは少年の目を見つめた。対する少年は小さく頷き、軽く息を吸ってから話し始める。

「燃料入れ過ぎでしょ。大食いに挑戦した後も色々食べてさ……それじゃ、体が重くて動きにくいんじゃない?」
 少年の問いを聞いた者は膨らんだ腹を叩き、軽く笑いながら言葉を返した。

「この位、直ぐに消化出来る。それに、少しは儲けさせてやらなきゃな!」
 そう言って笑うと、アランは腰に手を当てて胸を張った。この時、少年はどこか呆れた様子で溜め息を吐き、空を見上げて目を細める。
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登場人物紹介

主人公
ネグレクトされている系男児。
しかし、救いの手が差し伸べられて成長する。

神父
主人公に救いを差し伸べるが、差し伸べ方がやや特殊な年齢不詳な見た目の神父。
にこやかに笑いながら、裏で色々と手を回している。

兄貴分
ガチムチ系脳筋兄貴。
主人公に様々なスキルを教え込む。
難しいことはどこかに投げるが、投げる相手が居ないと本気を出す脳筋。

みんなのオカン
主人公を餌付けして懐かせる系オカン。
料理が上手いので、餌付けも上手い。

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