異世界で目覚める右京
文字数 2,416文字
くそっ、頭がガンガンする。
いったい誰のせいでこんなことに。
異世界転生を望んだのは右京君だし、扉に全力で自滅行為をしたのも右京君。
自業自得でしかない。
あら、こんな何もない部屋で何をしているの?
あなたは、いったい誰?
すると、女の子が一人、右京に話しかけてきた。
どうやら女の子は指紋認証の扉を開けることができるらしく、先ほど右京が体当たりした扉を開けて右京と会話をしていた。
ふぉふぉふぉ、俺は神カーピーダーアルマゲドン!
我がありがたいお言葉を聞くのだ!
ちょ、いってる意味がよくわからないわ。
1万円あげるから黙って頂戴。
いやほら、俺に従ってるとありがたい教えとか聞けたりするよ?
結局いろいろという言葉を使ってごまかすことしかしない。
因数分解かー。
あんな意味不明な数式、いったい生活で何の役に立つのかわからないし、わからないままでいいわ、私。
おい、ありがたい教えなんだぞ!
人類がこの教えを理解したとたん、進化してしまうんだぞ!
女の子は扉を閉めてどこかへ行ってしまいました。
右京は部屋に閉じ込められて、また振出しに戻ってしまいました。
くそお、この世界でも俺の進化論を理解してくれる人間はいないのか!
まあ、焦っても仕方がない。
住居、雨風をしのげる場所が手に入っていることをまずは喜ぶべきだ。
無人島スタートではないことだけありがたいと思うか。
いや、待てよ。
さすがに見ず知らずの人間にご飯を提供するほどお人よしの人間なんているわけないか。
どうにかして相手を騙さないとな。
お腹すいてるの?
だったらこれを食べるといいわ。
はい、ランチパックバターピーナッツ味。
え、いいの?
だって俺、見ず知らずの預言者気取りのマスクかぶったキモイ少年だよ?
そんな奴助けてお前にメリットある?
愚かな。
お腹がすいている人にご飯をあげることにメリットが必要だろうか?
頭が良すぎて利益を最大化することしか頭にない。
ま、そういうことがわからなかったから前世界でも孤独なままだったんだよね。
両親以外からのご飯を食べるのは初めてだ。
それが、こんなにおいしいなんて。
よかったじゃないか。
生まれて初めて人の親切を味わったのだろう?
こうしなければ人は人として生きていけない。
あなた、ランチパックごときをおいしそうに食べるわね、何か訳あり?
訳アリだよ。
気が付いたらこの世界に飛ばされてきていたんだ。
異世界転生ってやつよ。
じゃあ、身寄りがないんだ。
だったらしばらくうちで生活するといいわ。
狭いからこの部屋しかないけど、あとで布団を持ってきてあげるわよ。
しばらくは生活の面倒を見てあげるけど、最終的には自立しなきゃダメだよ。
異世界転生すると面倒見てくれる人とか結構いる風潮あるけど、私はそういうのではないからね。
狭い家には開封済みランチパックの袋は天高く積み上げられ、ゴミ屋敷と化し、あちこちに飲み終わったペットボトルが散乱していたのだ。
汚部屋かよ!
というかペットボトルとか、この異世界発展しすぎだろ!
何が異世界だ!
と言って女の子はあからさまに性能が高そうなパソコンの前に座って、こんなことを言い始めた。
今日も音無音音(おとなし ねね)が素敵な一日をお送りします!
みんなー元気かなーー?
私は今日、異世界から転生してきた人に出会いました!
だが、見てみるがいい右京。
女の子が操っているPCはお前が使用していたものより遥かに小型。
そしてそこに搭載されているのはお前が使用していたものよりもはるかにハイスペック。
具体的にはCPU CORE100 メモリ32600ギガ デスク1ヨタ GTX10060のマシン。
それでどうやって小型になるんだよ!
技術の進歩で説明できるレベルじゃねえぞ!
細かいことは気にするな!
それだけお前が生きていた時代よりも進化した世界なんだよ!
今日はねー、我が家に新しいお友達がやってきたんだよ!
紹介するね、あ、お兄さん名前なんて言うの?
秋山右京君っていうんだって。
これから彼と素敵な毎日を過ごしちゃいます!
楽しみだねー。
転生した挙句、放送の餌にされてる。
まあ、仕方ないね。
とりあえず、さっきのランチパックのお礼がしたい。
何か手伝えることはないか?
右京君が助けてあげよう。
生放送中だから静かにして。
さっき1万円あげたでしょう?
さ、うるさい居候は放置して今日もみんなと楽しく放送をしていこうか!
家の外に出るとまず目についたのはコンクリートジャングル。
ジャングルというか、はっきり言って九龍城に似たスラム街に自分がいることに気づきました。
長い長い通路がどこまでも続いており、小窓があって、そこに生活感があります。
やべーよ、俺の家高級住宅だったからこういう世界あこがれてたんだ!
最高の環境やん!
ふざけるな!
もっと絶望しろ!
スラム街スタートだぞ?
コンクリートの通路を少し歩いて、右京君はこれ以上の探索をやめようと思いました。
目印がない。
俺の方向感覚ではこのジャングルは迷う。
何かしら探索するための道具を手に入れないことには迷ってセーブポイントに戻れなくなる。
何かないか?
が、結局右京は何もしないでその日は静かに音音の部屋の片隅で息をひそめました。
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