前世譚10 ❀ 天国と地獄の間

文字数 990文字

修道院を脱走したリカルド。


あの予知夢が現実になる前にと、アリエッタのもとへ急いだが……。

そんな……

辿り着いた時、修道院は炎と煙に包まれていた。

(夢の通りになってしまうなんて。まるで悪魔の仕業のようだ……)

逃げ出した修道女の中に、アリエッタを見つけることができない。

まさか、まだ……

そこへ、リカルドの元へが戻ってきた。


鳩は、外に避難した修道女を、飛んで見て回ったのだが。

(外にアリエッタはいないよ。まだ中にいる)
今ならまだ、間に合うはずだ!
急ごう!

リカルドは、燃える建物へ飛び込んだ。

僕は右の通路を、君は左を探してくれ

(リカルド、きをつけて)
ありがとう、君もね

鳩と二手に分かれたあと、リカルドは、アリエッタと逃げ遅れた子どもを見つけた。


子どもを外へ逃がすことはできたが……

(こんな結末は望んでいなかった……)

気付くとリカルドは、自分の血だまりの中にいた。

リカルド……死なないで。

ああ、神様!!

リカルドは最後の力をふりしぼり、アリエッタと指をからめる。

愛しています……アリエッタ


僕は……君を忘れな……

彼女の手の甲にキスをする。


目を閉じると、全身から力が抜け、音のない暗闇が訪れた。

(なんて熱いのだろう。ここが天国と地獄のあいだ、浄化の煉獄なのか)

目をお開けください、リカルド…

声が鈴のような残響をともなって鳴る。


ふたたび目を開けると、アリエッタが正面から彼を見つめていた。

どうか、目を…
(僕は今、君を見つめているのに……)
凭れかかる瓦礫から身体を起こす。
浮かんだ? 目を閉じた僕がいる……
けれども、彼女と握った左手だけは、身体がいくら浮かぼうとも離れない。
(アリエッタの手は温かい。でも君は、この手を離さなければ……)
メキメキという音に見上げれば、炎をまとった太い梁が彼女を狙っていた。
逃げて
けれどリカルドの声は、アリエッタに届かなかった。

リカルド……。

あなたを心から愛しています

彼女は涙を流しながら、死んだリカルドの耳元へ唇を寄せた。

次は二人とも囲いを出て、広い世界へ。

たとえ離れてしまっても……

アリエッタの涙が、リカルドの頬に零れた。

また手紙をください。

魔法使いさん……

アリエッタは、リカルドにキスをした。

ああ、神さま。

どうして僕はこの人を守れなかったのでしょう!

強く抱きしめるも彼女は気づかない。

どうか次は、君を守ることができますように

リカルドの切なる願いだった。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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