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エピソード文字数 760文字

「初陣をしてわかったであろう。これが合戦だ。紅は女であろう。もう二度と合戦に連れて行きとうはない。女に戻り、わしの側室になってはくれぬか」

「……それは出来ませぬ」

「紅が帰蝶に恩義を感じていることは重々承知の上で申しておるのだ。帰蝶との間に子はおらぬ。母上が側室を持てと煩うてな。家督を継いだからにはそれも致し方ない。紅が側室にならぬなら、わしは生駒吉乃を側室にせねばならぬ」

「殿はそのお方を好いておられるのでしょう」

「紅と契りを交わす前の話だ」

「俺のことは気になさらないで下さい。殿は織田家存続のために、お世継ぎを作らねばなりません。吉乃様は殿の子を身篭もり、必ずやお世継ぎを生むことでしょう」

 信也から借りた歴史書に、側室の名が数名書かれていた。生駒吉乃は信長の嫡男を生む女性だ。

 どんなに信長を愛しても、未来から来たあたしに過去を変えることは出来ない。

 信長は天下の武将。
 その男の側室となり子供を生み、歴史を変えることは出来ない。

「2人きりの時に、殿と呼ぶでない。無理に男の振りをせずともよいのだ」

「……信長様」

「紅、たとえ側室に子が出来たとしても、それは織田家存続のために過ぎぬ。わしはそなただけを愛しいと思っておる」

 信長の胸に抱かれ、あたしは男から女へと姿を変える。信長の側室となることは、叶わぬ夢……。

 灯籠の灯りがあたしと信長の姿を照らす。縺れ合うシルエットが闇の中で妖しく動く。

 何度も意識を手放しそうになりながらも、この一瞬を忘れてはならないと、体に刻みつける。

 信長の末路を知っているあたしは……
 胸が締め付けられる想いを必死に堪え、信長の寵愛を一身に受けた。

 ――その頃、織田家の家臣の間で(にわか)に亀裂が生じ始めていた。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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