科学と心の間から

文字数 779文字

おそらく、読んだことの無い者も、書店でエッと立ち止まってしまったことがあるのではないだろうか。
書籍の棚で、背表紙は縦に長細いという既成観念を打ち破る。あの、立方体と見紛う書影。

京極夏彦(きょうごくなつひこ)のデビュー作シリーズ、京極堂(きょうごくどう)百鬼夜行(ひゃっきやこう)シリーズは、社会からドロップアウトした身に最適だ。

京極夏彦の京極堂シリーズはミステリーに分類されている。
しかし、ミステリー小説だと思ったら大間違いである。

ミステリー小説を読んでいたと思ったら、いつのまにか科学書籍を、そして哲学書を読んでいた。

それが京極堂・百鬼夜行シリーズである。

デビュー作にして京極堂シリーズ一作目、『姑獲鳥(うぶめ)の夏』においては心理学、社会心理学、精神医学、科学。

立方体に近い書籍の形状は、科学書籍としての情報量の表れである。

オカルトを題材にしているが、オカルトが主体ではなく、それを重要な触媒として人間の心の無明を、決して無くならない無明を描いている。

何故、科学が、心理学が、精神医学が存在するのだろうか。
金儲けのためでも、進学のためでもない。人はかつて恐怖からそれらを求めた。

恐怖が無くならない限り現代においても人は科学を求め続ける。

そして人が求めた科学と、心の間に、無限に存在するのが——哲学だ。

どうしてその無限が、ほんの1、2センチで済むだろうか。

あの3センチ超を読了した後、それが厚かったと決して思わない。むしろ何故ほかの書籍はあの薄さなのだろうと、不思議に思えて来るのだ。


京極堂・百鬼夜行シリーズの事件は、そうして無限に掘り下げられた哲学の、深く巨大な穴から這い出てくる。

陰陽師の衣を纏った主人公京極堂は、その深淵から私達を覗き込む妖共を斬り裂いて行く。



(続く)
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