第2話 青空と大地の狭間には

文字数 1,417文字




エゾッチは蝦夷(北海道)に住む青年で、その祖父(通称、爺や)は蝦夷を代表する超有名企業の会長である。
エゾッチは久しぶりにドライブに出かけた。先日、爺やから買って貰ったメルセデスベンツの車を試し乗りしてみたくなったのである。

札幌の隣町、北広島までドライブをしていたところ、鼻くそをほじくりたくなったエゾッチは左の穴から今まで見たことがない大きさの物が発掘されたので、思わず窓からデコピンで飛ばしたところ、それが右車線の車(トヨタ、セルシオ)の窓にピタリと張り付いてしまった。それに気付いた相手の運転手は怒ってしまい執拗に追いかけてきた。

もちろん、わざとではないにしろ、鼻くそをぶつける結果になったのだからエゾッチも悪い。しかし、相手が後ろにいる時にハザードランプを6回点滅させ「ご・め・ん・な・さ・い」のサインを送ったし、何度も会釈したのだから寛容な心で許してあげてほしい気持ちもある。

しかし、相手の怒りはエスカレートし、パッシングやクラクションは当たり前、ギリギリまで後ろや横から追い込んで来たり、前に回り込んでブレーキを踏んだりもして、エゾッチは完全にビビってしまった。エゾッチは急いでハンドルの横にある緊急ボタンを押した。これは、爺やが念のために取り付けた物だ。

未だに執拗な嫌がらせは続いていて、とうとう、車にぶつけて来た。停車を余儀なくされたエゾッチは前から凶暴そうな男が降りてくるのを見た。パンチパーマをかけた40代、金のネックレスをしたイカツイ奴だ。こわい。咄嗟にエゾッチは車に鍵をかけた。手を合わせ謝るエゾッチを無視し、男は何度もガラスを殴りつけて来る、そして、とうとう車からハンマーを持ち出して来て、振りかぶった。「や、やられる!」エゾッチは思った。

その時であった。遥か後ろからブゥーンという轟音と共にスポーツカーが現れた。すごいスピードだ。どんどん近づいて来る。男は驚きの表情でその車を見ている。キキーーー!と、その車はエゾッチ達の目の前に止まった。止まったと同時に助手席から降りたスナイパーが男に銃をぶっ放した。男は崩れ落ちる。どうやら麻酔銃のようだ。男は可愛らしい顔で眠った。

運転席から降りてきたのは、なんと!F1のルイス・ハミルトン選手だ!後部座席から爺やが降りてきた。「遅くなってすまんかったのぉ。」「いや、めちゃくちゃ早かったよ。ありがとう、爺や。し、しかも、ハミルトン選手!!なんで?」エゾッチはハミルトン選手の大ファンである。10年ほど前のレースを見て感動したのだ。

「ちょうどハミルトン選手を招いて、晩餐会をしとってのぉ」と言いつつ、英語でハミルトン選手に話しかける爺や。エゾッチは笑顔でハミルトン選手と握手やらをお願いしてから解散した。爺やは今、ハミルトン選手が所属しているメルセデスのスポンサーをやっているらしい。

次の日、起きたエゾッチは昨日の男はどうなったのかと爺やに質問した。爺やは「あまり暴れるので今は車椅子に乗ってもらっている。もうあんなことをしないように充分に反省させてから本物の車には乗ってもらう」という。

エゾッチは、爺やのお仕置きを色々と知っていたから、ちょっとだけ男に同情した。しかし、自分の鼻くそが原因を作ったことは既に忘れていた。ふと時計を見ると、そろそろ友人と脱出ゲームに行く時間だったので、昨日ハミルトン選手から貰ったサイン色紙を持って外出した。もちろん、見せびらかすためだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み