7 人類史のミステリー

文字数 1,978文字

ホモ・サピエンスが、他の人類を殺しちゃったんじゃないの?

戦争したんだよ、そうに決まってる。

平和だったご先祖様たちの世界へ、私たちホモ・サピエンスが戦争を持ち込んだんだよ

うん、そう考える人もいるんだが、今のところ考古学的証拠が見つかっていない。

ホモ・サピエンスと、他の人類が時期的にもエリア的にも重なって共存していたことがあるという証拠のほうは見つかっている。

もし戦争したんだとすれば、時期的にもエリア的にも重なってたんだから、そういった痕跡が見つからないとおかしい。

だからね、どちらかというと不必要な争いは互いに避けてたんじゃないかと思われるわけ

ちなみに動物の世界だと、相手を追い詰めて殺す、というよりは、相手を縄張りから追い払ってオシマイ、でしょ。似たような感じだったんじゃないかな

じゃ、なんでホモ・サピエンス以外は絶滅しちゃったの?
じつは、よくわからないんだよ。だから、ミステリー
え~、知りたーい

そうだね、もう少しだけ考えてみようか。

ここに本が1冊ある。NHKスペシャル取材班『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』(角川書店、2012)

これを読むと、まず、ホモ・サピエンスの本格的な「出アフリカ」は6万年前なんだけど、じつは10万年以上も前に「出アフリカ」を試みた痕跡があるという。実際、人骨が見つかっているんだ。

イスラエルの辺りまで出かけていったらしいね

ところが、だ。気候の寒冷化により南下していたネアンデルタール人と遭遇してしまい、のち、ホモ・サピエンスはこのエリアから撤退していったという。

で、さらに数万年が過ぎ、ホモ・サピエンスは再進出することになるんだが、なんと今度は逆に、ネアンデルタール人のほうがいなくなってしまう

リベンジだ
うまくいかなかった1回目の「出アフリカ」と、成功した2回目とは、何が違ったか?
何が違ったの?

ホモ・サピエンスは、投槍器(飛び道具)を使うようになっていた。

どんなものかは、YouTubeなどで確認することができるよ。見てみるといい。

簡単に言うと、石刃のついた槍を、道具を使って飛ばすんだよ


たったそれだけのことで、何かが変わるの?

それまでは、槍で突いて大型の動物を狩猟してたんだろうが、この飛び道具の発明により、キツネやウサギなど、小型動物も食料としてカウントできるようになった。

ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが戦争した痕跡はないが、ただ、食生活がかぶっているわけだから、獲物をめぐって競合関係にあったことは間違いない。

そういう意味では、飛び道具を使うホモ・サピエンスのほうが、多くの獲物(大型動物&小型動物)を対象とすることができた

だったら、ネアンデルタール人も飛び道具を真似ればいいじゃない
それが、使ってなさそうなんだ

ちなみに、飛び道具の使用は、人類社会に「処刑」をもたらしたという

処刑?
手持ち武器を使った肉弾戦なら、圧倒的に強い暴君には歯が立たない。けれど、飛び道具なら、弱い人間でも強い人間に勝てるよね?
うん
また、近・現代社会でも、処刑の際に、誰が手を下したか分からなくするため、つまりは親族などからの復讐を避けるため、処刑対象へ、複数の人間がよってたかって一斉に銃撃する、なんてのもあるけど、投槍器(飛び道具)を使った処刑なら、同じことができる

ホモ・サピエンスのほうが、ネアンデルタール人よりも大きな規模で集団生活していたというが、いずれ『哲学探究Ⅱ <社会>とは何か?』で詳述しようとは思うんだけど、<社会>と<処刑(制裁)>はセット販売されているんだ。

強い<社会>を維持するためには、ルールが守られなければならない、と同時に、ルールを破ったらどうなるか、ということへ対処が必要となる。制裁が。

つまり、ルールを破った者、そいつが圧倒的な強者であったとしても、制裁することができる飛び道具をもっているということ、そこは着眼できると思う

これはぼくの想像なんだけど、おそらくホモ・サピエンスのほうがネアンデルタール人より、集団の規模もさることながら、結束力も強かったんじゃなかろうか。

それには、「処刑(制裁)=飛び道具」の仕組みが不可欠だったと思う

結束力と引き換えの、ムラ八分ね

うん。

ただ、いずれにせよ、ネアンデルタール人がホモ・サピエンスに駆逐されてしまった理由はよくわからない。

考古学的資料から、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人を食べた証拠が見つかったり、ネアンデルタール人が飛び道具にやられたと思われる痕跡が見つかったりと、いろいろあるけれど、じゃあそれが一般的であったかというと、そうとは言い切れない

人類史のミステリーなんだね。

ホモ・サピエンスだけが何故か残ってしまったのは。

あるいは、神様がノアの箱舟に、ホモ・サピエンスだけ乗せたとか?

そんな小説を書いたら、ユニークかもしれないね(笑)
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登場人物紹介

デンケン先生(49)・・・・・・仙人のごとく在野に生きる(自称)哲学者。かつては大学院にいたり教壇に立ったりしていたが、先輩方から「きみが考えてるテーマ(<私>とは何か?とか)じゃ論文書けないでしょ=研究者にはなれないよ」と諭された結果、むしろアカデミズムを捨てて在野に生きることを決断。これには『老子』の(悪)影響もある。べつに大学教授になりたいとは思わない。有名になりたいとも思わない。ただ、考えたいと思うことを考えていたいだけ、の男。ゆえに本業(生活手段)はサラリーマンである(薄給のため未だ独身、おそらく生涯未婚)。

哲学ガール(18)・・・・・・槙野マキ。哲学すること大好きっコ。デンケン先生が大学院で学んでいた頃の友人の一人娘である。哲学好きには親の影響があるだろう。近所に引っ越して来たため、ときどき遊びに来る。独身のオッサンと美少女という組み合わせだが、恋愛関係に発展してしまうのかどうかは、今後のお楽しみである(たぶんならない)。

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