第72話 及第
文字数 2,124文字
何事もなかったように涼しい顔をしたジヴァをユウトは唖然と見ていると視界の隅で黒いものが震えている何かをユウトはとらえる。それは激しく脈打って弾けるとそれがセブルであると認識できた。拘束を自ら解いたセブルはユウトの前に素早く躍り出てジヴァを威嚇し叫ぶ。
「この悪魔め!ユウトさんに何をするつもりだ!」
セブルは全身の毛を逆立て姿勢を低く睨みをきかせている。セブルの毛は鋭く尖り光沢を放っていた。
「フフッ」
ジヴァはセブルの問いを鼻で笑って返し、言葉を続けた。
「悪魔と呼ばれるのもまた久しいな。
良い忠誠心だネコテン。お前の主人に何かをするつもりはない。逆にお前の主人はよく何もせずに堪えきれたと感心するほどだよ」
「知っててわざと煽ったのか!このっ・・・!」
セブルの逆立った針はゆらりと動きジヴァに先を向ける。その様子を見下すように見ていたジヴァは目を細めて不気味に微笑んだ。
「主人を無視して私へ挑むか?知恵を付けた魔物は恐ろしいものだなぁ」
臨戦態勢のセブルの尖った体毛達はジヴァの言葉を聞いて動揺するように波打ち一度震える。セブルは先ほどまでの威勢と殺気が揺らいだことにユウトは気づいた。
「さぁどうするかのぉ?争うつもりはないよ、私は。なぁ人くー」
「セブル待って」
ジヴァの発する言葉の途中をさえぎってセブルへ声を掛けるユウト。
「ことはもう済んだんだ。争う必要なないよ」
セブルの後ろ姿を見なが言葉を送り、ユウトはジヴァに目線を移す。
「試しとやらは問題なかったんだな、ジヴァ」
「ああ、問題ない。忍耐力が強すぎて逆に人かを疑うほどだったよ」
言葉をさえぎられたジヴァだったが機嫌を損ねる様子もなく両方の手の平を見せながらユウトに満足そうに答えた。
「ありがとなセブル。オレの代わりに怒ってくれて。今は辛抱してくれ。たのむ」
今度はセブルに向けてユウトは語り掛ける。セブルは鋭敏に伸ばしていた毛を収縮させいつもの大きさに戻った。
「はい・・・ユウトさんが良ければボクは大丈夫です。すみません出しゃばってしまって」
ユウトの方へ振り向き見上げるセブルは全身の毛に張りがなく耳も垂れ少し小さくなったようにユウトからは見える。とぼとぼと歩いてセブルはユウトの横で床に座った。
セブルの様子を見届けてユウトはジヴァへ視線を移す。若干の敵意を持った視線を向けられても何食わぬ顔のジヴァは語りだした。
「そちらの願いはかなえよう。ユウトは人である、人としての倫理を持って社会の一員たりえると。
それはさておき私の方から話しはまだある。聞きたいこともあることだしね。
まずは座りなユウト。その手も治癒しておこう」
そういってジヴァは手を前に伸ばすと伸ばした手の平が輝きだす。するとユウトは歯形が深く刻み込まれた腕に温かさ、熱を感じた。
ユウトはすぐに腕を見ると急激な速度で傷口が埋まり始めている。そしてかすかな傷跡を残して皮膚の穴はふさがってしまった。
「あとネコテン、セブルと言ったかな。そこの鳥と一緒に少し席を外してもらおうか。私からの見返りとして知識を与えるよ。
ジェス、そこの二匹を連れて外に出てくれ。それぞれに何でもいい、技術を伝授してやりな。まだまだ自身の使い方を知らないみたいだからね」
セブルは返事をしない。しょぼんと床を見つめているのをユウトは見て声を掛けた。
「セブル、すまないけどラトムと一緒に少し外で待っていてくれないか」
「はい・・・わかりました」
覇気のない声でセブルは答え、出口に向かって歩きだす。ラトムは人形たちに出口へと運ばれていた。それを追うようにジェスと呼ばれていた赤い鳥が羽ばたき人形たちが開け放った出口から外に出ていく。その様子を見送りユウトはようやく椅子に腰を下ろしジヴァに向き合った。
「ずいぶんと人を弄ぶのが好きなみたいだな。みんな白灰の魔女と聞いていい顔をしないわけだ」
ユウトは自覚できるほど悪意を持って嫌味を言い放つ。しかしそれが精いっぱいだった。
ジヴァの能力はそれまで出会ったすべての人々と比べて異次元の領域であるとユウトはこの短いやり取りの中で痛いほど理解している。魔女と呼ばれる意味も納得できた。
「フフッ、私のもとに来るというのはそういうことさ。覚悟はしていただろう。知識、知見を借りたいのならそれ相応の対価は必要だよ。それが私にとっては感情の揺らぎ、覚悟の証明って感じだろうかね。
例えばそうだね。その指輪の付け心地はどうだい?」
話を振られてユウトは自身の感覚の変化を改めて確認する。いつも悩まされていた劣情が抑えられていた。
「全くなくなったわけではないけどかなり楽になったな」
ちょうど以前の世界の本来の体の時と同じような感覚。ユウトの言葉を聞いてジヴァは少し驚いた。
「へぇ、まだ欲があるのかい。よく指輪なしでやってこれたものだよ。まったく興味深い。
まぁいい。その指輪、もうわかっているだろうが男の性欲を減少させる術を組んでいる。そして指輪はこの国で生きるほぼ全ての男が身に着けさせらているのさ。
ユウト、お前さんにはその意味がわかるかい?」
ジヴァは意地悪そうに目を細めた笑顔を浮かべてユウトに問いかけた。
「この悪魔め!ユウトさんに何をするつもりだ!」
セブルは全身の毛を逆立て姿勢を低く睨みをきかせている。セブルの毛は鋭く尖り光沢を放っていた。
「フフッ」
ジヴァはセブルの問いを鼻で笑って返し、言葉を続けた。
「悪魔と呼ばれるのもまた久しいな。
良い忠誠心だネコテン。お前の主人に何かをするつもりはない。逆にお前の主人はよく何もせずに堪えきれたと感心するほどだよ」
「知っててわざと煽ったのか!このっ・・・!」
セブルの逆立った針はゆらりと動きジヴァに先を向ける。その様子を見下すように見ていたジヴァは目を細めて不気味に微笑んだ。
「主人を無視して私へ挑むか?知恵を付けた魔物は恐ろしいものだなぁ」
臨戦態勢のセブルの尖った体毛達はジヴァの言葉を聞いて動揺するように波打ち一度震える。セブルは先ほどまでの威勢と殺気が揺らいだことにユウトは気づいた。
「さぁどうするかのぉ?争うつもりはないよ、私は。なぁ人くー」
「セブル待って」
ジヴァの発する言葉の途中をさえぎってセブルへ声を掛けるユウト。
「ことはもう済んだんだ。争う必要なないよ」
セブルの後ろ姿を見なが言葉を送り、ユウトはジヴァに目線を移す。
「試しとやらは問題なかったんだな、ジヴァ」
「ああ、問題ない。忍耐力が強すぎて逆に人かを疑うほどだったよ」
言葉をさえぎられたジヴァだったが機嫌を損ねる様子もなく両方の手の平を見せながらユウトに満足そうに答えた。
「ありがとなセブル。オレの代わりに怒ってくれて。今は辛抱してくれ。たのむ」
今度はセブルに向けてユウトは語り掛ける。セブルは鋭敏に伸ばしていた毛を収縮させいつもの大きさに戻った。
「はい・・・ユウトさんが良ければボクは大丈夫です。すみません出しゃばってしまって」
ユウトの方へ振り向き見上げるセブルは全身の毛に張りがなく耳も垂れ少し小さくなったようにユウトからは見える。とぼとぼと歩いてセブルはユウトの横で床に座った。
セブルの様子を見届けてユウトはジヴァへ視線を移す。若干の敵意を持った視線を向けられても何食わぬ顔のジヴァは語りだした。
「そちらの願いはかなえよう。ユウトは人である、人としての倫理を持って社会の一員たりえると。
それはさておき私の方から話しはまだある。聞きたいこともあることだしね。
まずは座りなユウト。その手も治癒しておこう」
そういってジヴァは手を前に伸ばすと伸ばした手の平が輝きだす。するとユウトは歯形が深く刻み込まれた腕に温かさ、熱を感じた。
ユウトはすぐに腕を見ると急激な速度で傷口が埋まり始めている。そしてかすかな傷跡を残して皮膚の穴はふさがってしまった。
「あとネコテン、セブルと言ったかな。そこの鳥と一緒に少し席を外してもらおうか。私からの見返りとして知識を与えるよ。
ジェス、そこの二匹を連れて外に出てくれ。それぞれに何でもいい、技術を伝授してやりな。まだまだ自身の使い方を知らないみたいだからね」
セブルは返事をしない。しょぼんと床を見つめているのをユウトは見て声を掛けた。
「セブル、すまないけどラトムと一緒に少し外で待っていてくれないか」
「はい・・・わかりました」
覇気のない声でセブルは答え、出口に向かって歩きだす。ラトムは人形たちに出口へと運ばれていた。それを追うようにジェスと呼ばれていた赤い鳥が羽ばたき人形たちが開け放った出口から外に出ていく。その様子を見送りユウトはようやく椅子に腰を下ろしジヴァに向き合った。
「ずいぶんと人を弄ぶのが好きなみたいだな。みんな白灰の魔女と聞いていい顔をしないわけだ」
ユウトは自覚できるほど悪意を持って嫌味を言い放つ。しかしそれが精いっぱいだった。
ジヴァの能力はそれまで出会ったすべての人々と比べて異次元の領域であるとユウトはこの短いやり取りの中で痛いほど理解している。魔女と呼ばれる意味も納得できた。
「フフッ、私のもとに来るというのはそういうことさ。覚悟はしていただろう。知識、知見を借りたいのならそれ相応の対価は必要だよ。それが私にとっては感情の揺らぎ、覚悟の証明って感じだろうかね。
例えばそうだね。その指輪の付け心地はどうだい?」
話を振られてユウトは自身の感覚の変化を改めて確認する。いつも悩まされていた劣情が抑えられていた。
「全くなくなったわけではないけどかなり楽になったな」
ちょうど以前の世界の本来の体の時と同じような感覚。ユウトの言葉を聞いてジヴァは少し驚いた。
「へぇ、まだ欲があるのかい。よく指輪なしでやってこれたものだよ。まったく興味深い。
まぁいい。その指輪、もうわかっているだろうが男の性欲を減少させる術を組んでいる。そして指輪はこの国で生きるほぼ全ての男が身に着けさせらているのさ。
ユウト、お前さんにはその意味がわかるかい?」
ジヴァは意地悪そうに目を細めた笑顔を浮かべてユウトに問いかけた。