第1話 警察は説得を試みる

文字数 750文字

今は使われていない学校の古くなった校舎内で犯人は立てこもっていた。グラウンドには何人もの警察官が緊張感を持って待機している。

「おい、大富(おおとみ)! すでに辺りは包囲されているぞ! 観念して出てこい!」

警察の一人が立てこもり犯の大富に向けて呼びかける。その呼びかけに応じるように中から窓が開けられた。

「今は無理だ!」

大富が大声で返す。

「お前の目的はなんだ?」

「目的? ああ、なるほど。よく聞け、俺は今から革命をしようと思っている。そのためにキングを寄こせ! もう時間はない。今直ぐにだ!」

犯人の要求にグラウンドで待機している警察官たちはざわついた。

「革命って……そんな大規模なことをしようとしているやつだったんですね」

「ああ、思っていたよりもかなりまずいかもしれないな」

若手の刑事の言葉にベテランの刑事も同意する。

「数人規模の単独グループでの犯行かと思っていたが、もしかしたら大きな組織に属しているのかもしれない。応援を呼んだ方がいいかもしれんぞ」

「キングを寄こせ! と言ってましたけど、どういうことでしょうか」

「おそらく我々にとってのキング、つまり署長と直接交渉をさせろ、ということだろうな」

「今直ぐって言ってましたけど、そんなにすぐに署長はここに来れないんじゃないでしょうか?」

「ああ、だから一度俺が直接犯人と接触して、交渉を試みる」

ベテラン刑事の眼は信念を持った強いものだった。

「1人だけだと危ないんでボクも行った方が――」

「いや、大丈夫だ。あまり大勢で行って犯人を刺激したらいけない。1人いれば充分だ」

若手刑事の言葉をベテラン刑事が制した。

「わかりました。相手はどんなやつかわかりませんのでくれぐれも注意してください」

「ああ」

勇敢な警察官を皆が見送る。グラウンドには依然として緊迫した空気が流れていた。
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