第3話
文字数 1,794文字
天邪鬼は気に入らない。
なにが気に入らないかというと、タカキがこのごろ、天邪鬼と遊ぼうとしないのだ。
ヒロとばかり遊んでいて、天邪鬼にかまってくれない。
もちろん、天邪鬼としても、べつに遊んでほしいわけではない。タカキなんかと遊びたいわけがない。
それでも、気に入らないじゃないか。やっぱり。いろいろと。
そんなわけで天邪鬼は、タカキの靴を隠してみることにした。
「あれ? お母さん。ぼくの靴、どこ?」
「知らないわよ」
タカキは靴を探しまわってこまっている。
作戦成功。天邪鬼は得意顔で笑う。これでヒロの家にも出かけられないだろう。
「もしもしヒロ?」
タカキは電話機を手にとった。
「靴がなくなっちゃって、外に出られないんだ。うちにおいでよ」
ヒロを家へと呼び出してしまった。むむむと天邪鬼は地団駄を踏む。
天邪鬼の次なる作戦。
チャイムのボリュームを絞ってしまえ。
玄関前までやってきたヒロが、チャイムを押した。
誰も出なくてもう一度押した。タカキは部屋の中でヒロを待っている。チャイムの音が鳴らなくて、ヒロが来たことに気付かない。ヒロはもう一度チャイムを押すが、反応なし。
天邪鬼は玄関のわきからヒロを見て、フフフと笑った。これで遊べまい。友情もおしまいだ。
「ふむ」
とヒロはあごに手をやった。
しばらくじっとなにか考えていたが、やがてうん、とうなずくと、一言ぽつりとつぶやいた。
「まあ、べつにタカキと遊びたくなんてなかったし。家に入りたくもないから、いいや」
しばらく待ってから、ヒロはもう一度チャイムを押した。
今度はきちんと音が鳴る。
ヒロの言葉に反射的にチャイムの音量を上げてしまっていた天邪鬼は、しまったとまたぞろ地団駄を踏んだ。
「やあヒロ。いらっしゃい」
「タカキ。靴がなくなったって言ってたか」
玄関口で出迎えたタカキに、ヒロはそう言って、なにやらぼそぼそと耳打ちした。
タカキは不思議そうに首をかしげたけれど、わかったと一つうなずくと、よく響く声でこう言った。
「あんな靴、もう履きたくもなかったから良かったよ」
思わず身体が動いてしまって、隠しておいた靴をタカキに差し出してしまう天邪鬼。
「こら、あまのじゃく! おまえが隠してたのか!」
なんということだ。ばれてしまった。
タカキにたっぷりしかられてしまって、天邪鬼はしょげかえる。
なぜ自分だけ怒られねばならぬのだ。ヒロはすずしい顔で、タカキとゲームなんてしているというのに。
天邪鬼は気に入らない。
ヒロをなんとかとっちめてやりたい。
*
(諸君、今こそ反乱のときだ!)
タカキの天邪鬼はヒロの家に来ると、庭にあつまった大勢の天邪鬼たちの前で、反乱演説を開始した。
(我々天邪鬼たるものが、人間なんかに飼われていていいのか! 今こそ我らの力で、人間たちをとっちめるのだ!)
タカキの天邪鬼は声を張り上げるが、あつまった天邪鬼たちは気乗りしない様子で、芝生にひじをついて寝転がったままふわあとあくびしている。
(べつに飼われていていいんじゃないの? 食事も出るし)
(屋根つきだし。三食昼寝つきはなかなかないよ)
(独立はなかなかきびしいわけよ)
(おまえたち)
タカキの天邪鬼はわなわなと拳をふるわせる。
(おまえたちには天邪鬼としての誇りがないのか! 人間に手懐けられていて満足なのか!)
(満足ー)
(反乱とかはやらないしー)
(食事も出るし)
(屋根つきだし。三食昼寝つきはなかなかないよ)
(独立はなかなかきびしいわけよ)
みんなにてんでに返されて、タカキの天邪鬼はがっくり肩を落とした。
もう終わりー、じゃあゲームの続きー、とてんでに遊びはじめる天邪鬼たち。
(よくわかった。反乱はやめよう)
タカキの天邪鬼はふかぶかと吐息をついて、ぽつりとつぶやいた。
(あらそいごとは良くない。平和が一番だ)
一瞬、場が静まりかえった。
それから天邪鬼たちは、みんな一斉に振り向いた。
みんな、目がきらきらしている。
タカキの天邪鬼はみんなを見回し、それでこそ天邪鬼である、とうなずいた。
(反乱だ!!)
みんなが一斉に張り上げた声が、庭をふるわせた。
なにが気に入らないかというと、タカキがこのごろ、天邪鬼と遊ぼうとしないのだ。
ヒロとばかり遊んでいて、天邪鬼にかまってくれない。
もちろん、天邪鬼としても、べつに遊んでほしいわけではない。タカキなんかと遊びたいわけがない。
それでも、気に入らないじゃないか。やっぱり。いろいろと。
そんなわけで天邪鬼は、タカキの靴を隠してみることにした。
「あれ? お母さん。ぼくの靴、どこ?」
「知らないわよ」
タカキは靴を探しまわってこまっている。
作戦成功。天邪鬼は得意顔で笑う。これでヒロの家にも出かけられないだろう。
「もしもしヒロ?」
タカキは電話機を手にとった。
「靴がなくなっちゃって、外に出られないんだ。うちにおいでよ」
ヒロを家へと呼び出してしまった。むむむと天邪鬼は地団駄を踏む。
天邪鬼の次なる作戦。
チャイムのボリュームを絞ってしまえ。
玄関前までやってきたヒロが、チャイムを押した。
誰も出なくてもう一度押した。タカキは部屋の中でヒロを待っている。チャイムの音が鳴らなくて、ヒロが来たことに気付かない。ヒロはもう一度チャイムを押すが、反応なし。
天邪鬼は玄関のわきからヒロを見て、フフフと笑った。これで遊べまい。友情もおしまいだ。
「ふむ」
とヒロはあごに手をやった。
しばらくじっとなにか考えていたが、やがてうん、とうなずくと、一言ぽつりとつぶやいた。
「まあ、べつにタカキと遊びたくなんてなかったし。家に入りたくもないから、いいや」
しばらく待ってから、ヒロはもう一度チャイムを押した。
今度はきちんと音が鳴る。
ヒロの言葉に反射的にチャイムの音量を上げてしまっていた天邪鬼は、しまったとまたぞろ地団駄を踏んだ。
「やあヒロ。いらっしゃい」
「タカキ。靴がなくなったって言ってたか」
玄関口で出迎えたタカキに、ヒロはそう言って、なにやらぼそぼそと耳打ちした。
タカキは不思議そうに首をかしげたけれど、わかったと一つうなずくと、よく響く声でこう言った。
「あんな靴、もう履きたくもなかったから良かったよ」
思わず身体が動いてしまって、隠しておいた靴をタカキに差し出してしまう天邪鬼。
「こら、あまのじゃく! おまえが隠してたのか!」
なんということだ。ばれてしまった。
タカキにたっぷりしかられてしまって、天邪鬼はしょげかえる。
なぜ自分だけ怒られねばならぬのだ。ヒロはすずしい顔で、タカキとゲームなんてしているというのに。
天邪鬼は気に入らない。
ヒロをなんとかとっちめてやりたい。
*
(諸君、今こそ反乱のときだ!)
タカキの天邪鬼はヒロの家に来ると、庭にあつまった大勢の天邪鬼たちの前で、反乱演説を開始した。
(我々天邪鬼たるものが、人間なんかに飼われていていいのか! 今こそ我らの力で、人間たちをとっちめるのだ!)
タカキの天邪鬼は声を張り上げるが、あつまった天邪鬼たちは気乗りしない様子で、芝生にひじをついて寝転がったままふわあとあくびしている。
(べつに飼われていていいんじゃないの? 食事も出るし)
(屋根つきだし。三食昼寝つきはなかなかないよ)
(独立はなかなかきびしいわけよ)
(おまえたち)
タカキの天邪鬼はわなわなと拳をふるわせる。
(おまえたちには天邪鬼としての誇りがないのか! 人間に手懐けられていて満足なのか!)
(満足ー)
(反乱とかはやらないしー)
(食事も出るし)
(屋根つきだし。三食昼寝つきはなかなかないよ)
(独立はなかなかきびしいわけよ)
みんなにてんでに返されて、タカキの天邪鬼はがっくり肩を落とした。
もう終わりー、じゃあゲームの続きー、とてんでに遊びはじめる天邪鬼たち。
(よくわかった。反乱はやめよう)
タカキの天邪鬼はふかぶかと吐息をついて、ぽつりとつぶやいた。
(あらそいごとは良くない。平和が一番だ)
一瞬、場が静まりかえった。
それから天邪鬼たちは、みんな一斉に振り向いた。
みんな、目がきらきらしている。
タカキの天邪鬼はみんなを見回し、それでこそ天邪鬼である、とうなずいた。
(反乱だ!!)
みんなが一斉に張り上げた声が、庭をふるわせた。