蒼玉の秘密
文字数 2,769文字
「はぁ~、つっかれた。……部外者がいなくなったから、もうアーユスじゃなくていいよな」
大きなため息をついて、
「疲れちゃった?」
「……まあ、ね。情けねぇけど、もう限界」
「情けなくなんかないよ。よく頑張った」
「……そうかな」
「そうさ」
「やっぱコウねえのほうが年上っぽいなぁ。……そういうたら、
握り飯を喰いつくして、仕方なしにどら焼きを手に取る
「ああ、それな」
「パっと見、
「あの子は
「つまりそれって、その間ずっと生きていたのと同じってこと?」
目を丸くする
「ずっと起きてたワケじゃないと思う。強い感情にさらされたり、アーユスの波長が合う者と出会ったときに、ぼんやりと目が覚める感じ?本当のところは、聞いてみないとわからないけれど」
「だとしても、経験値がウン百年分ってことやろ?俺らより、全然大人やんな」
「なるほどなぁ。んで、その経験値無視するとおいくつなんだよ」
「十五か六。……多分」
「え、マジ?」
半身起き上がった
あの幼げな
だからこそ、
「最初に会ったとき、よちよち歩きはしていたんだ。だから、一つか二つだったと思う。それから……、十四年くらい、一緒にいたからね」
「それにしては小さすぎねぇ?」
「村に来てからしばらくの間、あの子は一言もしゃべらなくてね」
戸惑いを隠せない
「誰の問いかけにも無反応で、体の機能に問題があるんじゃないかって言われてたんだ。それが理由で捨てられたのならば、村で世話をする筋合いはない。ごくつぶしは湖に沈めてしまえとさえ言われてね。それをアグニ・アカシャがお
「コウねえと一緒?」
首を傾ける
「すでに両親はいなかったからね。あたしたち姉妹は、アカシャに
「そう、なんや……」
「そんな悲しそうな顔しなくていいよ、朱雀。結局、ゆっくりだけど話すようになって、あたしが
「だとしても、あんな小さいってことは……。どっか具合が悪いんか?
「……あの子がものを食べるのを見たことがある?」
「いや、昨日会うたばっかりだし」
「
「な」
「ああ、そうなんだね。……あの子は、ほとんど食事をしないんだ」
「ウソやろ?」
「なんで?」
「は?」
「アーユスだけで言えば、
黙ってうなずく皆に、了解のまなざしを
「出ていった理由が理由だから、闇落ちしたんだという噂が絶えなくてね。そんな父を持つ、しかも母親が誰かわからない、強烈なアーユスを持つ子供。警戒した村の者は、あの子に
「もしかして、必要以上に怖がられないようにって、子供の外見を保っていたのか?」
「そんなの……。ペットショップで体が大きくなると売れなくなるから、キャベツばっかり食べさせられている猫みたい」
「でも、食事制限だけで、あの姿を保てるもんやろか」
首を
「あの子のアーユスは強いだけでなく、ちょっと特別なんだ。
「そういや、聞いてねぇな」
「だね」
「忘れとった」
「簡単に言えば、光繭の中で生き死にの
また途方もないことを言い出したもんだと、三人の仲間たちは顔を見合わせた。
「……仮死状態、ってこと?」
「光繭は見たことがあるでしょう?あれは内部の空間は保ちつつ、外からの攻撃や衝撃から守ってくれる。私の眠った洞穴はどうやら移動してしまったようなんだけど、それでも辛うじて命を保てたのは、そのおかげ」
「横穴でつながってたはずだって、
「眠りの術は光繭の中で、呼吸を極端に絞って、体温も低く保つ。冬眠している動物の状態が一番近いかな」
「ふーん?コールドスリープみてぇなもんか」
それを実際できるかどうかは、取りあえず置いておいて。
仕組みは想像できた。
「
考え込み、
「おそらく、
「わざとじゃないって?」
「ただ、そう願っただけかもしれない。必要以上に怖がらせたくない。子供のままでいたいと思っただけなのかも。強い願いは呪となるからね」
「名前と同じように?」
「そのとおり。玄武は聡いね」
「それって、
「んだと!」
立ち上がろうとした
「はいはい、じゃれ合いはそこまでにして。……だから、もしかしたら」
(ここに長くいることができるのなら、あの子は年相応の外見になるのかもしれない。……白虎のために)
その胸に何を思ったのか。
完全にアーユスを遮断して、なんの感情も伝わってこなくなった