第5話

文字数 1,043文字

 次の日学校に行きたくないと言われ、蘭子様の代わりに行ったが、蘭子様は気落ちしているようだった。
 落ち込んでいる蘭子様をどうにかしてさしあげないと。
 私はその事で頭がいっぱいだった。
 樹君のことも忘れていた。

「どうして屋上に来なかったんだ?」
 と、帰り際に言われ、はじめて思い出した。
「申し訳」
 謝ろうとしたら止められる。
「だから敬語使わなくていいし、謝らなくていいから」
「ですが、約束」
 私が学校に来ている日は昼休みに屋上に行くと約束していた。
「気にしなくていいよ。でも、落ち込んでいるみたい。どうかした?」
「落ち込んでいるのは私ではありません」
 蘭子様の元気がない。だから私の心も晴れない。
「ん?」
「私には蘭子様の気持ちがわからないのです」
「蘭子、蘭子ってそればっかり言ってないで、もうちょっと自分のために生きたら」
 私は何か言おうとした。

 すると、突然別の男性が現れた。樹君と同じ顔だった。
「余計なお世話だよな」
「どちら様ですか?」
「あんたが例のコピー? 確かに顔かたち完璧同じなのに違うな」
 そういえば最近蘭子様の振りも満足にできていなかった。だから蘭子様は悲しんでいるのか。
 蘭子様のように答えてみた。
「ほっといてよ。あんた誰?」
「真似しても無駄だよ。昨日本物に会ったし」
 意味はなかったようだ。私は聞いてみる。
「あなたのせいですか?」
「何が?」
「蘭子様が落ち込んでいらしたのは」
「さあ。どっちかっていうと、樹のせいじゃないか」
 私は樹君の方を見た。

「樹君?」
「唯、蘭子はもういいだろ」
 そんなことは言わないで欲しかった。
「あんたに冷たい奴に仕えることない」
「そんなことありません。蘭子様は、蘭子様は」
 優しいかどうかなんて関係ない。私の唯一の。
「信じたくない気持ちもわかるけど、昨日言ってたよ。ただのクローンのくせにオリジナルに指図するなって」
 私は別に何を言われても構わない。
 ただ蘭子様が幸せでいてくれればそれでいいのに。
 私は、蘭子様が冷たいのが悲しいのではない。蘭子様が、私に言いたいことを言えないのが、悲しいのだ。我慢しているように見える。
 私には全てお話しして欲しい。私はそのためにいるのだから。
 蘭子様が寂しくないように。
 蘭子様がより幸せになるように。

「私、帰ります」
「おい、唯」
「蘭子様に伝えないと」
 樹君は何か言っていたけれど、私には聞こえなかった。
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