第21話

文字数 971文字

 パシャリ!
 その瞬間を逃さないよう、シャッターを素早く切る。
 カメラの下部からは白いプラスティックのフィルムがスライドし、やがて画像が浮かび上がってきた。相沢はそれを右手でパタパタと大げさに振ってみせた。
 やがてまぶたを半開きにした、マヌケ面の奈々子が浮き上がる。その写真を一目見てから、目の前の奈々子に渡す。きっと彼女には、何の変哲もない普通の写真に見える事だろう。
「何のパフォーマンスかしら」案の定、見破りの達人は訳が判ら無いといったしぐさで写真をテーブルに置く。
 相沢はこともなげに言った。
「一つ訊いてもいいか? 高野内和也とは何者だ」
「え?」 
 口を丸くして二の句が告げられない様子の九龍奈々子。
 してやったりだ。
 聞けば、高野内和也とは自称“名探偵”で、三流ゴシップ誌では評判らしい。
 恐れおののく奈々子は、「たしかにその探偵を尊敬しているが、一般的にはほとんど知られていない」と告白した。
「このトリック、果たして君に解き明かせるかな?」
 相沢は挑戦的な態度で生ぬるいココアを飲んだ。決して気持ちの良いものではないが、それでも喉がカラカラで、飲まないよりかはまだマシだった。
「カメラを見ても?」手を伸ばす彼女に、どうぞどうぞと勝ち誇ったようにソファーの背にどっしりもたれかけ、ピュッと口笛を鳴らした。
「でもシャッターは切るなよ。フィルム代は安くないからな」その一言で奈々子は顔を歪めた。むろん本心ではない。シャッターを切られたら、トリックが一発でバレてしまうので、牽制したというのが真相だ。
 九龍奈々子が勘の鋭い女だということは確認済みだったが、それでも相沢には勝算があった。決して見破られる事は無いであろうと。
 何故なら相沢自身、タネも仕掛けも判らないのだから。相沢の目的は一つ。見破りの達人と呼ばれるこの女の鼻を明かしたいからに他ならない。
 最近はカメラマンのかたわら、このカメラを使ってトリックを暴く仕事をしていたのだ。別に彼女のことをライバルだとは思っていないが、かといって面白くも無かった。
 前後左右、上下に至るまで、カメラのあらゆる箇所を嘗め回すように観察しているが、不審な点は見つからない様子。メーカーを確認しているようだが、『SHOGOKUDO』という刻印が刻まれてあるだけで、おそらく聞いたことがないに違いない。
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