4-7
文字数 1,316文字
会社の社長室で待たせてもらうこと三十分ほどで、真紀が戻って来た。
「遅れてしまいましてすいません」
朝香はかぶりを振る。
「いいえ。こちらこそ突然、押しかけてしまいまして申し訳ありません」
今日も真紀はパリッとしたスーツ姿だ。
真紀と会うと自然と朝香は笑顔になり、好意を覚える。
徹はにこりと微笑んだ。
「景気が良さそうで何よりです」
真紀は頷く。
「うちみたいな中小企業は、社長がせかせかと常に動いていないと他社に、置いてけぼりにされてしまいますので。――刑事さん。身体の方はいかがですか?」
朝香は頭を下げる。
「先日はすみません。もう大丈夫です」
「それは良かった。――ああ、そうだ。これを」
真紀は漢字が何やら書かれたパッケージを取り出す。
「これは何ですか?」
「貧血に利く漢方です。以前、取引していた中国の企業の商品です。効果はもちろん、保証します」
「あ、えーっと……」
「ありがとうございます」
「――すいません。捜査のお話しですよね」
徹が切り出す。
「お父様について調べていまして
真紀は眉を顰めた。」
「父に……」
「施設を出て働かれるようになってからお父様とはお会いされましたか?」
「いいえ」
「本当に?」
意味ありげな視線をくれる徹に、真紀は怪訝な顔になる。
「どういう意味でしょうか」
「我々の調べで、お父様があなたから金を補助してもらっているという話を聞いたことがある方がいらっしゃいまして」
真紀はこめかみを揉み、小さく溜息を吐いた。
「……昔の話ですし、二、三度あった程度です。それ以降はありませんでしたし。でも間違いはしないで下さい。庇っていた訳ではなく、面倒事は避けたかっただけですから」
「脅されていたんではありませんか?」
「脅す? 何を……」
「あなたが虐待を受けたことを、承知しています」
強張った笑顔を浮かべた真紀は、目を逸らす。
「……さすがは警察の方。何でもご存じなんですね」
そこには皮肉な響きがあった。
しかしそれは当然だろう。真紀に落ち度など無いにもかかわらず、想い出したくない過去を次々と見ず知らずの朝香たちに掘り起こされるのだから。
朝香は申し訳なさを感じながら言う。
「不躾な質問を、お許し下さい。しかし、もしかしたらお母様を殺害した犯人は、お父様かもしれないんです」
真紀は両手を硬く組む。
「実を言いますと、それは何度も考えたことがありました……。あの男ならやりかねない、と。どこから嗅ぎつけたのか分かりませんでしたが、会社を始めてしばらくした頃に、あの男には付きまとわれ、幾らか金を払って追い返してました。父は今……?」
「……お父様はもう亡くなられています」
真紀の表情には何の感情もない。
真紀は尋ねる。
「ところであの映像を撮影された方は見つかったんですか?」
朝香が答える。
「今、捜索中です」
「そうですか……」
そこに秘書がやってきて用件を告げる。
朝香たちは立ち上がった。
「私どもはこれで……。お忙しい中、お会い頂きありがとうございます」
「いえ」
言葉少なな真紀に頭を下げ、朝香たちは部屋を出た。
「遅れてしまいましてすいません」
朝香はかぶりを振る。
「いいえ。こちらこそ突然、押しかけてしまいまして申し訳ありません」
今日も真紀はパリッとしたスーツ姿だ。
真紀と会うと自然と朝香は笑顔になり、好意を覚える。
徹はにこりと微笑んだ。
「景気が良さそうで何よりです」
真紀は頷く。
「うちみたいな中小企業は、社長がせかせかと常に動いていないと他社に、置いてけぼりにされてしまいますので。――刑事さん。身体の方はいかがですか?」
朝香は頭を下げる。
「先日はすみません。もう大丈夫です」
「それは良かった。――ああ、そうだ。これを」
真紀は漢字が何やら書かれたパッケージを取り出す。
「これは何ですか?」
「貧血に利く漢方です。以前、取引していた中国の企業の商品です。効果はもちろん、保証します」
「あ、えーっと……」
「ありがとうございます」
「――すいません。捜査のお話しですよね」
徹が切り出す。
「お父様について調べていまして
真紀は眉を顰めた。」
「父に……」
「施設を出て働かれるようになってからお父様とはお会いされましたか?」
「いいえ」
「本当に?」
意味ありげな視線をくれる徹に、真紀は怪訝な顔になる。
「どういう意味でしょうか」
「我々の調べで、お父様があなたから金を補助してもらっているという話を聞いたことがある方がいらっしゃいまして」
真紀はこめかみを揉み、小さく溜息を吐いた。
「……昔の話ですし、二、三度あった程度です。それ以降はありませんでしたし。でも間違いはしないで下さい。庇っていた訳ではなく、面倒事は避けたかっただけですから」
「脅されていたんではありませんか?」
「脅す? 何を……」
「あなたが虐待を受けたことを、承知しています」
強張った笑顔を浮かべた真紀は、目を逸らす。
「……さすがは警察の方。何でもご存じなんですね」
そこには皮肉な響きがあった。
しかしそれは当然だろう。真紀に落ち度など無いにもかかわらず、想い出したくない過去を次々と見ず知らずの朝香たちに掘り起こされるのだから。
朝香は申し訳なさを感じながら言う。
「不躾な質問を、お許し下さい。しかし、もしかしたらお母様を殺害した犯人は、お父様かもしれないんです」
真紀は両手を硬く組む。
「実を言いますと、それは何度も考えたことがありました……。あの男ならやりかねない、と。どこから嗅ぎつけたのか分かりませんでしたが、会社を始めてしばらくした頃に、あの男には付きまとわれ、幾らか金を払って追い返してました。父は今……?」
「……お父様はもう亡くなられています」
真紀の表情には何の感情もない。
真紀は尋ねる。
「ところであの映像を撮影された方は見つかったんですか?」
朝香が答える。
「今、捜索中です」
「そうですか……」
そこに秘書がやってきて用件を告げる。
朝香たちは立ち上がった。
「私どもはこれで……。お忙しい中、お会い頂きありがとうございます」
「いえ」
言葉少なな真紀に頭を下げ、朝香たちは部屋を出た。