第5話 大泥棒

エピソード文字数 2,208文字

代官っていうと江戸幕府じゃ天領を預かるお役人さま、日本国内に50弱あったはず。

俺は歴史はからっきしだったから、あてにならねえが、たぶん代官と同じ役割の群代が江戸を入れて4箇所。

群代と代官は同じ旗本で仕事も地方と公地方で同じ、石高が群代の方が高かったはず。

甲斐の国には代官所が3箇所。まあこの世界じゃわからねえけどな。

代官のでかい屋敷が月明かりに聳え立つ。

道なりに続くご立派な塀姿を見るとはなしに眺めていると、10mほど先の塀の上部に人影がひとつ月明かりに浮かんだ。

おい何でえ、あの人影は・・・・・

もちろん、熊もイヌコロも俺と同じに気づいたようだ。

「何でえ、ありゃあ!」

人影は重そうな袋を担いで、塀の上から道にヒラリと降り立った。

熊もイヌコロも風を巻いて走り出す。人影の間近に立ちはだかった。

「誰でぇ?」

まるで歌舞伎役者のような渋い声が響く。

俺ももちろん一瞬で人影の間近に・・・・・

黒装束の人影が突然の状況に身構える。月明かりに浮かぶ人影の顔つき。男前だぜ。

「おう、河内の兄貴じゃねぇか!」

どうやら熊の知り合いらしいな。

「おう、石和の熊か!久しぶりだなあ」

熊とイヌコロには気を許したものの、見たこともねえ俺には鋭い目線を走らす。

「熊、初めてのお顔だが、そちらさんは?」

「おう、五郎の兄貴、こちらは俺の親分、ふうすけ親分だ」

「ほう、初めて聞く話だな。熊よ、おめえは確か親分無し子分無しの一匹狼だったはずじゃねぇのかい?」

「おうよ、俺もそのつもりでいたが、ガチゴロで完璧にやられちまって、拝み倒して子分にしてもらっただ」

「石和の熊っていえば、今までゴロマキで後れを取るなんて聞いたことがねぇな。熊、本当におめえ、この旦那にやられたのかい?」

「やられたも何も、この俺が一発でぶっとんじまっただ。この親分の強さは、まるで魔人さまだ」

「ほう、そりゃあゆっくりと聞かせてもらいてぇ話だが、どうやら屋敷の中が騒がしくなってきたようだ。どうでぃ、よかったら俺のヤサまで付き合わねぇか?」

「兄貴のヤサなら行ってみてぇな。騒ぎに巻き込まれるのも面倒だ。親分、どうしますか?」

「そうだな、お邪魔するか・・・・・」

「よし、じゃあひとっ走りするから、遅れねぇように着いて来な」

深夜の闇に紛れて影が走る。山を越え森を越え、そして林を越えて。
河内の五郎を先頭に、石和の熊、風介、そして殿を黒い獣が、つむじ風のように走る。

15分程走っただろうか?
河内の五郎の走る速さは、人間とは思えない。時速40kmを超える自動車並み、まるで風そのものである。

しかも驚いたことに巨大な岩壁のような体の熊も負けずに速い。イヌコロは狼だから速いのは当たり前のことだが・・・・・

先程の町から離れ、別の町中にある古びた長屋の前に立ち止まった。

「狭くて悪いが、へえってくれ」

引戸を開けて中に入る。間口が9尺(2.7m)で奥行きが2間(3.6m)の6畳程度の広さに土間があるため、実質4.5畳ほどの広さである。

五郎を先頭に、風介、熊、イヌコロの順で引き戸の中に消えた。
狭く古い畳敷きの四畳半、畳んであった薄い煎餅ふとんを隅に押しやり、3人が座り込み、イヌコロは土間に腰を下ろした。

「狭くてすまねえな、いま茶を入れるから」

五郎が立ち上がり土間の竈に火を入れ、湯を沸かし始めた。

「よぉ五郎の兄貴、こいつあ今夜の戦利品かい?」

畳の上に放り出された布切れに包まれた物を眺めながら熊が声をかける。そういえば五郎と出会ったあの場所から五郎が担いでいた荷物のようだ。

「おう、そいつが今夜のお土産だ。大金持ちのお屋敷のお偉いさんが、貧乏人に恵んでくださったお宝だ」

「随分と高価そうな臭いがするお宝だな」

「ふっふっふ、熊、そのお宝をちぃっと持ち上げてみな」

五郎に言われて熊が布包みを持ち上げた。

「おーっ、兄貴、こりゃあえらく重いな。小判でもずっしりへぇてるのかい?」

「開けてみてみねぇ、かまわねぇからよ」

熊が布包みを開けると竹で編んだ籠箱が1つ。箱の蓋を開けてみると、金貨がぎっしりと現れた。

「こ、こりゃあすげぇ!どんだけあるのかわからねぇほどだ」

竈で湧かした湯で入れたお茶をお盆に載せて五郎が畳に戻ってきた。

やや得意そうに笑いながら、熊と俺の顔を見下ろした。

「どうでぃ、大したお宝だろう」

この時代の貨幣価値など俺には分かりはしねえが、多分金の塊の一番でかそうなやつが小判だろう。

よくは覚えちゃいねぇが、両、分、朱、糸目なんて単位だったような気がする。しかも4進法だったはずだ。

1両が4分、1分が4朱、1朱が4糸目、だから1両は16朱であり、1両は64糸目であったはずだ。さらにそれ以下の貨幣もあったかもしれねぇ。江戸時代の小判が13gから18gだとすると、千両で18kg辺りか。小判に他の金子も合わせりゃどう見ても700から800両近くはありそうだ。

この20kg弱の荷物を背負ったまま、あの速さで走り抜けるなんざ、この男、並み大抵の野郎じゃねぇな・・・・・

多分、庶民が4人家族で1月暮らすのに1両程度かかるって何かで読んた気がする。
どちらにしても大したお宝だよ。

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