第4話

文字数 1,055文字

「どうして思い出したの?」今度は美桜が訪ねた。
「さっき君が「だって死んじゃうから」って言ったろ。同じ事を以前君のお姉さんが言っていたのを思い出したんだ」
「そう。」
 理由はもう一つ、彼女の後ろ姿がそっくりだ。肩が少しなで肩で、長い髪が風になびく姿が全く同じだ。

 そしてまた、しばらくの沈黙が流れた。堀口美緒は何も言わない。波は相変わらず激しい。数分激しくなり、また落ち着く。という繰り返しだが、段々その間隔が短くなっている。
 一瞬風が弱くなった瞬間、その隙間を突いて雲が小さく割れた。月明りが僕らを薄っすらと照らす。堀口美緒が僕と同じ高校の制服を着て現れた。涼平は彼女の背中を見て驚いた。
「背中が」
 あぁこれね、と振り返りすらしない。彼女の背中は赤い血で染まっていた。正確には血が滲んでいた程度だが、問題なのはその面積だ。肩の上から腰のあたりまで血で染まっている。どんな怪我の仕方をすればこんな風になるのだろう。
「さっき風に煽られて切っちゃって」
「嘘つけ。軽く転んだだけでこんなんなるか」
 涼平は心配そうに美緒を見つめるが、どのみち涼平にはどうしようもない。じっと美緒を見つめていた。美緒はここでようやく振り返り、目が合った。姉の紗希とは違い、その目は弱々しく涙で滲んでいる。それが潮風の影響なのか、美緒が泣いているのかわからなかった。
「怪我の原因を、あなたは知っているの?」
「もし紗希と同じ原因なら、知っている」
 初めて会話が成立する。だったら触れないで。と美緒の目は訴えている。
 よく見ると右肩の赤が濃くなってきている。完全に止血は出来ていない。僕は羽織ってきた薄手のパーカーを脱ぎ、小さく丸めて美緒の右肩に押し当てる。美緒の表情は変わらない。傷跡を触れて痛む様子も、恥じらいも、怒りもやすらぎもない。彼女はただ無表情だった。
「姉がどこにいるか。知っているの?」
 ようやく、美緒から話が始まった。
「君は、お姉さんを探してここに来たの?」
「違うわ」
「じゃあ何しにここに来たの?」
「そんなことはどうでもいいわ」
「気になるね」
 涼平は飄々と答える。そもそも、この問いには答えるつもりは毛頭ないからだ。美緒の姉、紗希は1ヶ月前から失踪している。居場所と理由を知っているのは僕だけだ。姉の紗希から、美緒にだけは居場所を教えないでくれと頼まれている。僕は親友との約束を守るつもりだ。
「知らないならいいわ」
「知ってるよ。でも教えない約束なんだ」
「そう…」
 美緒はようやく、ほんの少し表情を変えた。

悲しそう、そんな顔をした。
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