愛・羅武ストーリーは突然に

文字数 2,967文字

1.

異世界生活一週間目。

下手こいた。

この前、賛美を歌ったことが瞬く間に街の人々に伝わって。

「じゅん様―!どうか、そのすばらしい魔声をお聞かせください!」
「今回の来た人はすごいらしいね?」
「そう、その歌声はどんな魔物も裸足で逃げるという、恐るべき力の魔道師・・・」

わいわい。
と、家の前にはいつも見物人?が押し掛けるように。

俺は声を大にして言いたい。

・・・失礼だろうがぁあああああ!

全く!
誰が、魔声の持ち主だ!誰が、ジャイアンだ!
人が気持ちよく歌っていたらいつのまにか魔道師にされていたとか、失礼にも程がある!
そりゃ、たしかに、
学校の歌のテストーあの、一人ずつ歌わされるアレーは、俺の時だけ変な沈黙が生まれるし!
合唱の時は隣のやつが耳に手をあてて、必死に俺の声に惑わされないようにしていたが!
教会では、
『じゅんくんの賛美は栄光のおとずれねぇ』
『え、本当ですか!』
『ええ、本当に栄光の音ズレで・・・』
なんて、笑点か!みたいな会話があったものだけど!

「じゅん様の歌声はそれはそれは恐ろしくって!あんなに破壊のある力、はじめて体験しました!」
「あのあと、耳がわんわんした、後遺症まで・・・オジサン、それでも聞く?」
「は-い!じゅん様の次回の公演・・・歌声の披露のチケットは配布終了でーす!
次回はいつ行うか、じゅん様にきいてきますね!」

外から、頭の痛くなるような会話が!
そう、いつのまにか俺の歌声にはプレミアチケットがつくようになった!
連日人が押し寄せるから。
冗談でチケット制にしたら、と提案したら即座に対応されてしまった。

ええい、ばかばかしぃ!

大体、由緒正しきキリスト教徒の俺が魔道師とか、神を讃える歌で俺が讃えられるとか!
おかしいにもほどがある!

俺だって、好きでこんな歌声じゃない!
俺はゴスペルシンガーじゃなくて、宣教師になりたいのに!

「まてよ、そうか!」
こんなに人が来るんだから!
神の愛を伝えたらいいんだ!
この異世界の人達は新しい知識とか体験を求めているのだから!
俺が真実の神を伝えたらWIN-WINだ!
よぉしっ!猛烈に!燃えてきたー!!


2.

「ということで、ぜひ、シュガーさんとソルトさんには協力してほしいんだけど。」
「まぁぁ!私なんかが、じゅん様のお役に立てるなんて、幸せです!!」
「あまり力になれないと思うけど。」

俺もあまり記憶が定かではないんだけど。
たしか、歴代の宣教師はその国についたら、聖書を翻訳してたと思うんだよね。
日本に来た宣教師とか、インドにいった宣教師とか、聖書翻訳してた!
・・・気がする。
それで、俺も聖書を翻訳・・・したいとこだが、ここに聖書はない。
この間のタダシさんはリュックごとこの世界に飛ばされたみたいだけど、あいにく俺は
裸一貫。
そもそも聖書なしでどーやって宣教すんの?と俺も悩んだけど、まぁできることをするしかないというか。
そもそも聖書があったって、この異世界に意味が通じるか怪しいものだしね。

「それは心外ですわっ、じゅん様!私どもはちゃーんと、『異世界ガッコウ』で、そちらの言葉などしっかり学びました!」
「そーはいっても、いろいろ違和感があるんだよね・・・言葉の壁以上の。」
「大丈夫。そちらの言葉や意味を解説する、『こうじえん』もあるから。」
「いや、そういうことじゃなくて・・・。例えば、『神』って、意味わかる?」
「そんなの、おちゃのこさいさーい!ですわ!」
「言葉が、古いっ!」

「神っていうと、『やおよろず』で、たくさん。コメ、にいたり、トイレにいたり。」
「うーん、なんとなく、日本の神が伝わっているような・・・?」
「あぁ!それから、タダシ様がせぇらぁ服のペッパァを見た時も『神、キター!』叫んでおりましたわ!」
「だから、あのせぇらぁ服は神殿に祀ってあるハズ。」
「うう・・・ん、だから、すごいズレがあるというか、違うんだよ・・・!」

俺の伝えたい、聖書の神だと、うーん、うーん、
「父なる神というか・・・」
「はぁ、『やおよろず』の中にはそういう方もいらっしゃるような」
「ただ一人、唯一なる神というか・・・」
「一人なの?たくさんいた方が、強そう。」
「天地を造られたというか・・・」
「はぁ・・・」
「この世界も、俺たちも造られたというか・・・」
「はぁ・・・」
「それで、この全てを愛してくださっている、というか・・・」
「「はぁ・・・」」

だ、だめだ!
俺にこの世界で宣教―というより、あっちの世界でも満足にできないのにこっちでできるわけがあるのかよぉおおお!(泣)

「えーと、つまり、じゅん様、話をまとめますと?」
「よくわかんないけど、世界を造った神がいて?」
「・・・そう。」
「その方はおひとりの神で?」
「唯一の神?」
「そう」
「で、私たちをその?」
「愛している、と」
「そう!」
「「愛している、と」」
「そう!!!」
HAHAHA!
「ちょっと、何いってるのかわからない」
「なんでわからないんだよぉおおおおおお!」

やめて、その扱い!心が折れるから!

「じゅん様、そもそも、『アイ』、がわからないです・・・。」
「えっ・・・」
「おねえちゃん、それこそ、授業で習ってるから。目、のことだから。」
「いや、それこそ、コテコテのギャグだからね?!」

二人が、ハテ?とそろって首をかしげてくる。
可愛いけど、そんな目で見られても困るというか・・・

「愛・・・って、言葉、使わない?」
「ええ。」
「全く。」
「ええーと、用語的なことかな?ほら、好きだなーって、いう事より大きめなカンジの。」
「好きは『好き』ですけど・・・」
「好きに大きいってないと思うけど。」
「えーっと、ほら、好き同士だと、なんになるの?」
「恋人、です・・・」
シュガーさんが、ほんのりと頬をそめて言った。
「で、もっと好きだなー、みたいな時にいうというか・・・」
「すっきやねん!だけど。」

うぉおお、ソルトさんがぼそっと言ったことばに不覚にもドキッとしたけど、違う!

「もっ、もっと大好きなカンジの!」
「すっ、すぃとうばぃ!ですっ!」

シュガーさんが更に顔を赤らめて言うからこちらも顔が赤くなるけど、ち、違くてっ!

「も、もっと最上級レベルの!もう一生そばにいたいっ!みたいな、もうどんなことがあっても離さないっ!みたいなっ!」
「「月がきれいですね。」」
「惜っしいぃいいいいいいい!!!」

はぁはぁ。
ぜ、全力疾走したような疲れが・・・!

肩で息をしていると、即座に立ち直ったシュガーさんが、笑顔で言った。

「なーんだ、じゅん様のおっしゃった『アイ』って、あれのことですねっ!」
「へ?」
「もう、相手のことが好きで好きでー、もうちょっと上で好き、を伝える言葉、ですねっ!」
「うん・・・(嫌な予感・・・)」

「おねえちゃん、私もわかったかも・・・」
「じゃあ、ソルト、一緒にいいましょっ!せーの、」

そして、二人はこの世界最上級の愛の言葉を高らかに叫んだ。

「「カーンチ、みっくす、しよっ!!!」」
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