【恋愛】君の香り

文字数 683文字


君の手は本当に小さい。皺も少なくて子どもみたいだ。その手を握ると大きさが違いすぎてぎこちなく感じることもあるけど、僕の手の中に君のやわらかい温もりを感じられて、とても落ち着くよ。

おいで、そう言って腕を広げた。君は主人を見つけた子犬のように、嬉しそうな瞳で僕を見つめるが、それでもまだはにかむところに、ときめいたりして。僕がソファに足を投げ出すと、両足の隙間に向かい合って君がおさまる。僕の背中に腕を回して、いつものように胸元に顔をうずめる君。そうやって僕の香りを楽しんでるのは秘密にしてるみたいだけど、バレバレだよ。顔を上げたときに見えるその表情には満足感しかないから、いつも許しちゃうんだけどね。

ふと僕の顎に視線を合わせて、君は言う。

「ねえ、疲れてない?」

「どうしてそう思うの?」

「ここ、ニキビできてるよ」

君が指さす場所を自分でも触ってみると、たしかに小さな起伏があった。顎の裏で、かなり小さいものだから、洗顔時に鏡で見ても気付かなかったのだろう。

「まあたしかに……最近ストレス溜まってたしな……」

あえて声色を低くし眉間に皺を寄せて、それっぽく呟いてみる。すると予想通り、君は心配そうに眉尻を落とした。

引っかかったね。安心してよ。このストレスは、

「君に会えなくて、だよ」

やはり想定した答えと全く違う発言だったらしく、あからさまにキョトンとする君。僕はたまらずに、君をぎゅっと抱きしめる。ずっとこうしたかったんだ、なんて、恥ずかしくて言えないけどね。大事な人の香りを近くで感じたかったのは、むしろ僕の方かもしれない。
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