写真

文字数 779文字

おやじは、カメラが好きだった。
昔のフィルムカメラを大事にして、
休日にどこかに出かけ、写真を撮って、現像を自分でして、写真を印画紙に焼いて、
作品として残していた。
子供のころ、フィルムカメラをもらって、一緒に写真を撮り始めた。
暗室での作業を教えてもらいながら、時間はかかるのだけど、楽しかった。
高校にあがったころ、ある女の子に出会って、写真を撮らしてもらいたいと思った。
美術の授業で彼女は花の絵を描いていた。
彼女の絵は、鉛筆だけで書いているとは思えないほど、
立体的でのびやかできれいだった。
彼女はいつも花の絵ばかりを描いていた。
ある日、授業の終わりに話しかけてみて、なぜ花の絵ばかりを描くのか?と聞いてみた。
彼女は、凛として、こう答えた、
花はきれいだから。
シンプルで正しい答えだなと思った。
写真を撮らしてもらうことをお願いしたとき、
彼女は写真に撮られるのが好きではないからと断った。
私があなたを写真を撮るのならいいわ、と彼女は言った。
たぶん上手ではないけど、と笑っていた。
海で写真を撮った。海を撮って、彼女は僕を撮った。
使い方を教えて、戸惑いながら、写真を撮っていた。
現像をしようかと言ったけども、彼女は失敗していたら見られたくないから嫌だと、
自分でカメラ屋さんに持って行ってしてもらうと言っていた。
そのまま彼女からその時撮った写真を見せてもらうことはなかった。
代わりに、彼女が描いた花の絵を見せてもらった。
余ったフィルムで花を撮って、それを絵に描いたらしかった。
息をのむほどきれいな絵だった。
絵が好きなの?と聞くと彼女はわからないと答えた。
ただ、頭がスーッとするのと答えていた。
彼女を撮りたいと思ったのは、彼女がきれいだったからだと思う。
そんな彼女が今もずっときれいな絵を描いていてほしいと思う。

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