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文字数 1,598文字

 ある小学校の昼休憩。活発の小学生たちがグラウンドで鬼ごっこやドッジボールで夢中になって遊んでいるとき、小学三年生の教室に、体操服に着替えた少年が一番後ろの席に座っていた。
 その少年は本を読んでいるようで、机には図書室から借りてきた児童文学の小説が立てられていた。しかし、その少年の顔は真っ赤に染まっている。
 その小説に顔が真っ赤になるような内容が書かれているということではない。もちろんその本の内側にエロ本を隠して読んでいるわけでもない。まず小学三年生はそんなことをしないし、この少年にそんなことをやる勇気もないだろう。
 なぜなら、小説からが外れている少年の視線の先には着替えている一人の少女がいたから。この少年は小説を読んでいるフリをしてこっそりとその好きな女の子の着替えを覗いていたのだ。
 もっとも、少年は最初こんなことをやるつもりはなかった。最初はちゃんと小説を読んでいたのだ。みんなはグラウンドに行っているため誰もおらず、少年は一人で静かに読書を楽しんでいた。
 しかし、そんな中少女は教室に戻ってきた。おそらく給食を食べ遅れてしまったのだろう。少女は制服のままだった。
 少年は構わず読書を続けた。ふと、少年が本から視線を逸らした瞬間、
「――っ!?」
 少年の顔が一瞬で真っ赤に染まった。少女が制服の白い半袖のシャツを脱いでいたのだった。
 少年は慌てて少女を見ないようにしようと本を読もうとするが…気になる。少年は膨らみ続ける欲求を抑えきれず、ちらっと少女の方を見た。すると、少年は目を奪われた。
 普段は見えることのない制服と一緒にめくれたシャツに隠されていた白いお腹や、少し汗ばんだ首筋。少女を構成する一つ一つがどれも美しく、少年は呼吸を忘れて少女の着替えを見ていた。
 少女はスカートをおろした。少女の淡いピンク色の下着が、体操服の裾に隠されながらもあらわになった。そこから伸びる細くすらっとした足がおろされたスカートをまたぎ、ズボンをはき始めた。
 体操服を着替え終わった少女は下ろされた髪を持ち上げると、手首にはめていたゴムで一つに結んでいく。
 気のせいか、少女の頬が少し紅潮しているように見えた。
 少女は髪をまとめ終わると結んだ髪を揺らしながら制服を畳み机の上に置き、グラウンドに行くのか教室から出ていった。
 一人になった少年は真っ赤な顔のまま、高ぶった気持ちを落ち着けるために長いため息をつき、何事もなかったかのように再び本を読み始めるのだった。

 そしてその日の学校が過ぎていき、放課後、少年は友達と帰っていた。
 しかし少年の家はみんなよりも少し遠いので少年は友達と途中で別れ一人で帰っていた。
 そんなとき、ちょんちょんと肩を触られびっくりして少年は後ろを振り向くともっとびっくりして少年は思わず転げてしまった。
「驚きすぎじゃない?」
 少年の肩を叩いた人物、少女は転げた少年を見て笑みを浮かべながら言った。少年は慌てて立ち上がるが、恥ずかしくて少女と目を合わせられない。しかしそんなのはお構いなしで少女は少年の顔を見つめてくる。少年の視界いっぱいに少女の顔が映る。
「ねえ、昼休憩の時私が着替えてるのこっそり見てたでしょ」
 少年は唐突に図星を突かれ身体を跳ねさせる。そんな少年に少女は責めるような視線を向けながら、
「えっち」
 その一言だけで、少年の思考回路は無数のエラーを吐き出し弁明することもできない。少年はただ鼻と目の先にある少女の黒い大きな瞳を見つめていた。冷や汗を垂らす少年を見て、少女は一瞬うつむくと険しい顔を崩し笑い出した。
「あははははっ、冗談だって。ほら、帰ろ?」
 少女は呆然としている少年の手をつかみ、引っ張った。
 少年は遅れながらも少女の後を歩き出し、心までも掴んで離さない少女の手をぎゅっと握り返すのだった。
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