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文字数 2,064文字

「先生! 名探偵の弐利根刷蔵(にどね するぞう)先生! 私と推理ゲームをしましょう!」
「突然だね、助手の多田木尾こすね(たたきお こすね)くん」
 ここは弐利根名探偵事務所、という名のニートの家だ。アパートのワンルームを無理矢理探偵事務所風に改造し、応接スペースが部屋のほとんどを占める、寝るための空間がほとんどない部屋だった。
 多田木尾こすねは弐利根刷蔵の幼馴染である。現在高校生。彼女は弐利根を『探偵』と呼ぶが、半分揶揄を込めての呼び名であった。しかし、探偵業務を手伝うとちゃんとバイト代がもらえるので、こうして定期的に顔を出す。
「今からやるのはズバリ『ウミガメのスープ』です!」
「説明の足りない問題文に対し、解答者が『YES・NO』で答えられる質問を繰り返すことで真相に近付いていくゲームだね」
「もちろん、知っているとも」

「話が早くて助かります!」

「弐利根先生の名推理、期待していますからね!」
「いいだろう。出題してみたまえ、こすねくん」

 とはいえ、この事務所にまともな依頼が入ることは稀だ。こすねは大抵、年上ニートの弐利根と遊ぶためやってきているのだった。

 弐利根が親のスネを齧ってニートしていようが、FXで大損してパンの耳を齧っていようが、こすねにとってはあまり重要ではない。

 探偵助手、多田木尾こすねは薄情系女子高生だった。厄介なのは探偵(ニート)か、助手か――。

 閑話休題。

 今回のテーマ『ウミガメのスープ』、その出題である。

「『男は家でチキンのスープを食べた。男は妻に聞いた。「これ、本当にチキン?」妻はYESと答えた。その翌日、男は死んだ。なぜか?」
「なるほどね。――質問①今回食べたチキンはいつもと味が違った?」

「YESです」

「質問②男はその味を、以前どこかで経験した?」
「NOです」
「ここでYESなら、本家『ウミガメのスープ問題』の亜種かと思ったんだがな」
「手詰まりですか?」
「まさか! 質問③一応確認だけど、オカルト的な要素がある? たとえば、幽霊が出てくるとか、祟りで死んでいたというオチであるとか」
「NOです。今回の出題に、オカルト的要素は含まれていません」
「それでは、質問④チキンのスープには、何かいつもと違う食材が使われていた?」
「YESです」
「質問⑤妻がその食材を入れたのは意図的?」
「YESです」
「質問⑥男は妻から恨みを買っていた?
「YESです」
「なるほどなるほど、真相がわかったよ。この名探偵を相手取るには、いささか小さすぎる謎だったがね」
「ほほう、では、答えをどうぞ」
「質問⑦ズバリ男は、なんらかの理由で男を恨んでいた妻に毒殺された?」
「…………、NO、です!」
「!」
「NOです」
「……質問⑧男が死んだことと、チキンのスープを食べたことには関連性がある?」
「YESです」
「質問⑨この問題には、男と妻以外に主要な人物は出てくる?」
「NOです」
「質問⑩男の死因は毒殺ではない?」
「んー……質問の文脈的には、NOです」
「質問の文脈……? 質問⑪チキンのスープには毒が入れられていた?」
「広義ではYESです」
「広義では……? うーん……最後の質問! もし、この質問で僕が正解を言い当てられなかったら、僕の負けでいいから正解を教えてくれ」
「いいですよ~! いざ! 名推理への決定打をどうぞ!」
「質問⑬チキンのスープにはなんらかの薬が大量に入っていて、男はその薬の作用によって中毒死した!?」
「んんん~……NO! です!」
「NO……かぁ……。降参だ。答えを教えて欲しい」
「名推理、見られませんでしたねえ」
「不貞寝したい」
「謎を解明できなかったので、改名でもしますか?」

 不貞寝刷蔵(ふてね するぞう)

「いいから早く正解を!」

「ふふん、いいでしょう。正解はズバリ!」
「『男は妻に黙って浮気をしていた。それに気付いた妻は、食事に下剤を大量に仕込んだのだった! そして翌朝、出勤途中、男はトイレに駆け込むも間に合わず……そう、男は【社会的に】死んだのであるっ!』」
「………………」
「………………」
「質問⑭それはオチとしては最低なのでは?」
「YES、クソです」
「座布団没収」
「せ、先生ぇ~!」
「くだらない時間を過ごした……」
「おっと、そういえば、今日は先生にお弁当の差し入れを持ってきたのでした」
「ほう、いただこう。何を作ったのかね、こすねくん?」
「チキンのスープです」
「えっ」
「チキンのスープです」
「……質問⑮もしかして、昨日いただきもののシュークリームを君に黙って全部食べてしまったことがバレている?」
「YESです」
「質問⑯怒ってる?」
「YESです」
「……質問⑰……そのチキンのスープ弁当、変なもの入ってない、よね?」
 探偵助手、多田木尾こすねは百点満点の笑顔で弁当を差し出した。
「ゲームは終わりです。召し上がれ、先生?」
「………………」

 探偵、弐利根刷蔵は、こすねへの信頼を示すべく、弁当を食べた。

 結果的に弁当に変なものは何も入っていなかったが、弐利根刷蔵はあまりの緊張とプレッシャーから、腹を下した。

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登場人物紹介

◆名探偵……弐利根刷蔵(にどね するぞう)20歳男 ニート

◆助手……多田木尾こすね(たたきお こすね)17歳 女子高生

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