第124話 3ヶ月と30日目 9月24日(木)

文字数 1,301文字

 今日自分の作品を意図せず間違えて違う文学賞に投稿した、と、悔しがっている人が居た。
 真面目で才能も有るその人の作品を主催者側はたとえそれが間違って投稿されたものであっても、笑顔で好意的に受け取り丁寧に扱ってくれることだろう。  
 無論私にも経験がある。
 しかし私の場合そのような善意の間違いではなかった。
 ここで懺悔したいと思う。
 私は故意に原子爆弾投下に纏わる歴史戦争小説を、無理にSFにこじつけてSFの文学賞に投稿していたことがある。
 所謂嫌がらせだ。
 落ちることは端から分かっている。 
 第一通る気がないのだから。
 何故なら科学に視点を当てると言うその文学賞のレギュレーションから、私の書いた歴史戦争小説は大きく外れるからだ。
 小説の良し悪し以前の問題である。
 そんなことをした理由は下読みの連中に少しでも手間を取らせ時間を無駄にさせることと、「お前ら如き下読みに、俺の書いた小説を二次に上げる読解力がある訳がない」、と、いう歪んだ自尊心を満たす為だ。
 勿論読まずに放置されることも覚悟の上だが、毎年数作エントリーすれば下読みの連中が気付く筈である。
 またこいつか、と。
 何か恨みでもあるのか、と。
 手間取らせやがって、と。
 そう、それこそが狙いなのである。
 今考えれば何と愚かなことをしたのかと後悔頻りである。
 そんなことをしたきっかけは、そのときの最終選考委員の一人が気に入らなかったからだ。
 脳科学者であるその選考委員は、整形手術をして金髪を隠す為にウィッグを被りテレビに露出していたのだが、その頃の私はそんな文学に何の関わりもないふざけたサイコパスのような人間を選考委員にすることが、とうしても許せなかったのである。
 何故そのような投稿小説を書いた作者の努力や苦労を愚弄するような真似をするのか、と。
 そんな選考委員を選んだその文学賞自体が許せなかったのだ。
 腹癒せにその文学賞を愚弄したつもりであったし、またそれが私の出来るせめてもの抗議であった。
 今はもうその選考委員は居ないし、私も4〜5年でそんな馬鹿な真似は止めた。
 今は凄く反省している。
 謝罪出来るのなら是非に謝罪したいと思う。
 私の無駄な行為により手間を取らせた下読みの方々にお詫び申し上げると同時に、しかし一番謝罪しなければならないのは、私の投稿したその私の小説達にである。
 少なからず時間も労力も割いて、それ等葬られることが分かり切った小説を書いたのだ。
 何と言う愚かな行為であろう。
 せめて作者だけでも自分の書いた小説を愛すべきである。
 葬られる為に書かれた小説達には謝罪の言葉もない。
 今からでも遅くない。
 何とかしよう・・・・・。
 と、今日は小説のことを真面目に考えたお蔭で、競馬の開催時間もパチンコ屋の閉店時間も過ぎた。
 明日は葬られた小説を今一度読み直し、形にすることを考えよう。
 競馬やパチンコの無事は確実だろうし、それに何より贖罪に繋がる。
 しかし、しくじっだ。
 今日は何の落ちもない。
 明日は反省と贖罪の上必ず落ちを付けねば。
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