徳川の世

文字数 697文字

 天下泰平になると、毛者には居場所がない。元々、秀吉に徴用されたかれらは、徳川に与するということは思いもよらなかった。家康は毛者を解体し、農民として働くよう通達をした。実態は農業を行っていても、下級武士並みの彼らにとって農民という不自由な地位に成り下がるということは承服しがたかった。そこで、かれらは、大陸に留まった。十一は彼らとは別行動をとった。今回の理不尽な戦いを強いられた人々を救いたいと思った。その後の戦では、十一は朝鮮側の傭兵として、日本軍と戦った。

 一方、二三と四五六は日本に戻って農民となった。日本古来の武術では外国の傭兵としてやっていくのは難しいと思ったのだろう。それに、二人には果たさなければならない約束があった。

「やっと、戦えますね。」
 二三は四五六に言った。
「ああ。」

 二人はその後戦いに明け暮れたという。決着はつかなかったろう。なぜなら、殺し合いではないからだ。老齢な二人には、もはや若いころのような力任せの動きはない。相手の技を受けては流す。それは、戦いというより、息の合った舞のように見えた。ある日は四五六が勝ち、また別の日は二三が勝った。深追いする必要はなければ、傷つける必要も無い。夜が開ければ、また顔を合わせる。時には、休戦をして共に狩りを行うこともあった。二三は刀を、四五六は手甲を修理して共に過ごす日もあった。

「鉄包ではこうはいかないな。」
「そうですね。間合いが違いすぎますから。」

 二人は、楽しそうだった。やがて、四五六が怪我で戦えなくなると、間もなく静かに亡くなった。四五六の埋葬を終えると、ほどなくして二三もこの世を去った。
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登場人物紹介

猪熊 四五六(しごろく)

組討の使い手

十一の父

二三(ふみ)

剣術の使い手

十一の母

長い細身の背負い刀、長柄草刈刃を使う

十一(じゅういち)

鉄砲使い

オリジナル改造の種子島を二丁持つ

八(やつ)

見世物小屋の芸人

吹き矢芸

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