第7話

エピソード文字数 4,567文字


 7章

「ここがそうか?」
 師匠が冬気に確認する。
 二人は大きな廃工場を遠くに見る場所に来た。
 MAAは、この地区の外れにある工場廃墟に罠を仕掛けるつもりらしい。それはジャガーマンを倒すためのものであるそうな。
「情報どおりなら」
情報を教えたのはMAAの仲間だった科学者たちだ。彼らは警察が現場に到着して逮捕させてから立ち去った。もっとも、冬気はジャガーマンを倒すために彼らが作ったという地雷を持っていくのを忘れなかった。
 工場廃墟についての知識としては、ここが出井蘭の所有する会社がかつて運営して過去がある、ということ。工場の運営は他の場所に移動していて、ここのものは放棄したらしい。
ここの周囲には目立った建物は無くて、人もいないようだった。建造物の巨大な残骸だけが存在する。
気配らしきものはある。もっとも相手が機械のカタマリなので、ほとんど直感でしかない。
「無人かな?」
 冬気が建物を見て言う。
「(中に入って確かめるしかなかろう)」
 師匠が冬気の問いかけに答える。
「地雷を仕掛けたところはあそこ」
冬気はすこし離れた場所を示す。
「そこまでおびき寄せれば、引っかかってくれて大爆発」
「(ふむ。罠を仕掛けるのもまたハンターの行動である)」
とりあえず師匠は罠を使うのに納得した。
冬気は忍び足で動きながら工場内部に侵入する。
空の金属容器に足を引っ掛けて、音を立てる。思ったよりも大きな音が建物内に響く。
「(静かに!)」
 師匠に怒られる。
鎖から垂れ下がったフックが風か何かで揺れている。丈夫そうに見えるそれは車でも吊り上げられそうだ。屋根の隙間から月明かりが建物内部を照らしている。
「(普通に進めば、相手の思うつぼだぞ?)」
「うん、わかった。別のルートを行こう」
中心部分には回り道をして近づこう。
回り道をして迂回すると、廃工場の中心にたどり着く。
部屋の中央に冬気の父親が持っていたはずの携帯電話がドラム缶の上にある。
どこからともなく機械音が聞こえてくる。
「……森瀬冬気の父親、森瀬忠夫はどこへやった?」
 父親と言い出さないように気を付けて怒鳴る。
「知らんな」
 MAAがどこからか返答する。
「(最初からお前を呼び出すための罠だったようだな)」
 冬気が師匠の言葉にうなずく。罠であったかもしれないが、こっちにも用意はあって相手の有利は消えているはず。
奥の倉庫の扉が開いて、MAAの黒い巨体が姿を現す。
「さっさと誘拐した人物を返せばケガしなくて済むよ」
 一応、降伏を呼び掛けてみる。
「サイボーグにケガはない、そうなるのはお前だ」
 機械の体からMAAの感情を読み取ることはできない。
「(ここにはいないのかもな)」
「でも居場所を知っている」
 小声で冬気は師匠と話す。
「出井蘭には追加の金を支払ってもらわないとな」
 出井蘭って言ったな。こいつの証言は証拠になるだろう。できれば生け捕りにしたいが……。
「こんな獣を相手にする羽目になったからな」
 MAAの巨大な体が冬気の前に立ちはだかる。
両腕のガトリング銃から冬気めがけて弾を吐き出す。
冬気は横に走って避けて、そのまま物陰に飛び込む。
様子を見ようと顔を出そうとするが、激しい銃撃が隠れた物体を攻撃してきて、慌てて頭をひっこめる。
「農家から出てきて、兵士になった後、手に入れる金はすべてマシンのアップデートに費やしたが……」
 MAAが自分語りを始める。余裕があるのか、自慢したいのか……。
「出井蘭はかつての戦友だが、そんなことはどうでもいい」
冬気は背後にあった鉄の箱を持ち上げて勢いよく相手に投げつける。箱はぶつかり歪んで変形した。ぶつけられたMAAはよろめいたが、倒れずに足を動かしてバランスを取る。
「奴が何と手を組んでいるか? 何を企んでいるか? そんなものに興味はない」
 その“何か”はおそらくテスカトリポカのことだろう。
 足元に転がっている鉄の棒を投げて、回転している腕のガトリングを止める。銃身の隙間に鉄の棒を挟まれて回転が止まる。さらに、棒を投げて別の腕の回転を止める。
MAAは、棒を引き抜くのを止めて、両腕の武器を切り離し、肩の上にある砲塔を動かし始める。
「ずっと強い体だけを求めてきた。農業にも、戦争にも、どんなものにも傷つかない無敵の体を求めた」
 ジャガーマンの直感が肩の砲塔を危険だと感じとる。
「そのかいあって今は最強の兵士というわけだ」
しかしまあ、全身が機械化されているのによくしゃべること。冬気はタイミングを見計らって隠れていた場所から素早く移動する。
不気味な機械音とともに肩の砲塔が白光の弾丸を発射されて、さっきまで隠れていた場所を直撃する。背後の爆発音を聞きながら冬気は別の物陰に隠れる。
「こんだけ喋ってもまるで攻撃の勢いが衰えないなんて、機械の体って便利だねえ」
 冬気は半分呆れてぼやく。
「(お前のほうもしゃべっている場合ではないぞ! 早いところ罠を張った場所に連れていけ)」
「わかってるよ」
 師匠が冬気を急かせる。冬気のほうも内心は焦っている。地雷の位置はここから離れている。
どうにかしなければ。
「マン・アット・アームズは古い兵士に取って代わる」
MAAが自信をもって宣言して、体からガス状を噴出する。周囲が見えなくなる。恐らくはレーダー装置かなんかが付いていて、この目くらましの中でも相手を探すことができるのであろう。
うかつには動けない。
相手は強敵で生け捕りにして情報を吐かせるのが難しい、と考え始める。二度の戦いでわかったのは手加減できる相手ではないということ。
思考が壁にぶち当たって先に進まない。情報は欲しい、しかし、お互いがしゃべることができる状態で戦いが終わらせられるとも思えない。
「(来たぞ)」
 師匠が注意を喚起する。
冬気がそんな葛藤をしている間にMAAが距離を縮めて来ていたようだ。隠れていた目の前の鉄の箱に殴りかかってきた。冬気が脇に逃れる。殴られた箱は勢いよく後方に飛ばされる。
逃れる途中で鎖付きのフックを見つけて、それを投げつける。フック部分がMAAに引っかかる。鎖は金属製の滑車につながっていたので、近くのハンドルを動かして吊り上げようとする。
重すぎるせいかMAAの体を持ち上げられない。むしろ鎖の方がちぎれそうだ。
「(やめておけ、むしろこいつで縛り上げろ)」
 師匠の言うことに従って作戦変更をする。鎖を引っ張って長めに手に取って、それを投げて巻き付ける。
 MAAは見かけ上、動けなくなったように見えた。
「ソルジャーとハンターの戦いだったけど、どちらにしてもろくなもんじゃないね」
 冬気は軽口をたたく。
「(見てみろ!)」
MAAは腕で使って力任せに巻き付けられた鎖を千切ろうとする。
片手間に倒せると思ったけど、そうもいかなかった。相手の反撃に備えて冬気がその場から離れて隠れ場所を探す。
「(逃げても状況は悪くなるだけだぞ?!)」
「まったくだね」
冬気は意を決する。これは全力で戦わなければならない。
けれどもまずは罠の場所に誘導しなければならない。
 移動しているうちに、特製地雷を埋めた場所が見えるところに来ていた。
 MAAを外まで連れてくればいい。
「おお~い、こっちだ!」
 間抜けすぎる声だったな、と後悔しながら、呼び寄せようとする。
 しかし、相手は誘いに乗ってこない。代わりに砲塔からのエネルギー弾が発射される。冬気がその攻撃を慌てて避ける。
 まっすぐに飛んで行ったエネルギー弾は外にある他の建物を直撃して崩壊させる。
「(離れすぎると撃ってくるぞ)」
 師匠が警告してくる。
「しかし、近づくと腕の力で圧倒されるからな……もっと離れてみよう」
 冬気は相手が自分を見失わないぐらいの距離まで走って離れる。
「これでどうかな?」
 立ち止まって冬気は背後を振り返る。MAAは廃工場の建物から出てくるのが見える。
「よしっ、表に出てきた」
 MAAが立ち止まり、何らかの機械音を発生させる。それはMAAの背中から聞こえてくるようで、正面しか見えない冬気たちにはわからない。
「(嫌な予感がする避ける準備をしろ)」
「避けろと言っても」
 多数の小型ミサイルらしきものが発射されるのが見えた。
「まずい!!」
慌ててその場を離れる。周囲にミサイルが着弾して爆発する。爆発によって巻き上げられた土が頭に降ってくる。
「(ええい、もうやめだ! あの罠をそのまま投げつけろ!)」
 師匠がいら立ちのためか声を荒げて指示を出す。
地雷を掘りだすには少々距離がある。
MAAを一瞥する。爆発の煙で見えないけれど、ミサイルの発射を終えて、ゆっくり近づく気配を感じる。
すぐに決断をして走り出す。
MAAが接近するよりも先に、地雷の場所にたどり着いて、埋め込んだ地雷を掘り出す。
もはや手段を選んでいられない。強引にやってやる。
 掘り出した地雷を無理やり投げつける。投げられた地雷がMAAの体にぶつかり、起動スイッチ部分が当たる。冬気は身近な物陰に飛び込んで隠れる。
大音響とともに爆風が隠れた場所を吹き付ける。

爆風が収まり、敵からの反撃が来ないのを確かめて、隠れた場所から出てきて爆発の跡地を見回す。
すり鉢状に穴が開いていて、その向こう側に手足の無くなったMAAの体が横たわっている。動く様子はない。
 警戒しながら近づく。起き上がる様子はない。単に起き上がれないだけかもしれないが……。
そっとつつく。電気変換されたうめき声を上げて体を動かすが、すぐに止まる。この様子ならばいろいろと聞き出せるかもしれない。
「ここにお前の探している男はいない、残念だったな」
 途切れ途切れの機械音が冬気に話しかけてくる。
「あんたから聞き出すっていう手段もあるよ?」
 MAAからの返答はない。黙ってしまった。
「出井蘭の不正とどう関わっている? いなくなった森瀬忠夫の居場所は?」
冬気からのさらなる質問にもMAAは答えない。
「最近の俺の活動はすべて出井蘭と関係している。昔は奴の仲間だったからな……」
 新たなことがわかったけれども、それは一番聞きたいことというわけではない。
「お前をバラバラにして、警察に突き出すさ。頭だけなら何もできないだろう」
 冬気はさらに脅しをかける。
「そうはいかんぞ」
 MAAがそう言うと、タイマー音のようなものが聞こえてくる。
「(何か不味いことが起きているぞ、逃げたほうがいい)」
 師匠が警告してくる。冬気にはこの突発的な状況が理解できていない。
「お前はハンターだ。それは認めよう」
 冬気を認める言葉は機械音であるにもかかわらず、感情を持っているのが理解できた。
「しかし、俺にも兵士としての意地がある」
「ひょっとして自爆装置?」
 時間が来たら大爆発するかもしれない。
「そのとおり。せいぜい上手く逃げろ」
 冬気は慌てて逃げだす。
「(一難去ってまた一難だ)」
 師匠が嘆く。
 冬気が逃げていく後方で再び大爆発が起きる。

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