【昔話】 ✿ 西方ヒストリア 7

エピソード文字数 1,407文字

忍者・忠平(ただひら)や、家臣村の男たちの働きにより、山賊は一人残らず捕らえられた。


「とっとと首をはねやがれ」と言う賊らを前に、お殿様は…。

では、おぬしらの命、わしがしばし預からせてもらおうかの

俺らはこの世で花の咲かない枯れ(すすき)


煮るなり焼くなり好きにするがいい

賊の大将よ、まぁそう急かすな!


おぬしらの処遇は、閻魔(えんま)と話し合ってな。


閻魔(えんま)(わし)は、昵懇(じっこん)なのじゃ。


今、地獄は罪人であふれており、人手不足、いや鬼手不足だそうじゃ


おぬしらの処遇は儂に任せると、閻魔(えんま)に直々頼まれてな。

お殿様は、茶目気をにじませて、微笑んだ。


賊たちは、呆気にとられた様子だ。

(殿は、慈愛にあふれた方だ)

忠平(ただひら)も、ほっとして、表情をなごませた。




――それから数日が経った、ある日のこと。


  早朝、森の小道を、忠平は一人歩いていた。

桜の天井をくぐりながら、風呂敷の荷物を背負い歩く、忠平の面持ちは暗い。


美しい景色も、色あせて感じられた。


山道を進み、村のはずれまで来た時。

忠平(ただひら)!!

突然、後ろから呼び止められる。


家臣・黒木だ。


ここまで急いで駆けてきたらしく、呼吸に肩を上下させている。

探したぞ。


そのように風呂敷など背負って、どこへ行く気だ?

賊を()らしめるまで、というお約束でしたので…早いほうが良いかと

されど、一言も無しにとは…

申し訳ありませぬ。


殿は情に厚いお方。それがしが出て行くと言えば、必ずお引き留めされるだろうと思ったのです。


けれども、それがしがいては、殿にご迷惑がかかる…

そう言うと、忠平は黒木へ深く頭を下げた。

されど、黒木様には、一言ご挨拶申し上げるべきでした。


わたくしの至らぬところです。ご無礼をお許しください。


黒木様、そして皆々様には、感謝の言葉もございません。誠にお世話になりました

……。どこか、あてはあるのか?
いいえ。風が吹くまま、気ままに、諸国を旅してみとうございます
気ままな風に吹かれ、流れた先で、その命取られるとも限らないぞ

はい。覚悟の上でございます。


けれども、殿にご迷惑がかかることを、思えば…

忠平(ただひら)は言葉を濁した。


沈黙が続いたあと、黒木が口を開いた。

ここは隠れ里。秘すべき桃源郷じゃ。
黒木は、まっすぐに忠平を見て、こうも続けた。

されど、この里を脅かす存在は数知れぬ。


山賊だけではない。直に、嵐も来るだろう。


殿も、それがしも、そなたの技を必要としておる。

黒木は、背を伸ばしたまま、忠平へ深く頭を下げた。

勝手なことを申していると、重々承知。


蛇渕(じゃぶち)では、おぬしに剣を向けた。…けれども(おろ)かであった。


おぬしが殿に恩義を感じ、忠義を尽くす様を見て、それがしは心打たれたのだ。


この里に留まってはくれないか、忠平(ただひら)!!

黒木様……。

忠平は、唯々吃驚していた。


長い間のあと、こう口を開いた。

私は肥後に入る前、多くの里を旅して参りました…
夜明けが近い空を、忠平は見上げて、そっと目を閉じる。

飢えた里も、豊かな里も見ました。


民を虐げる暴君も。


けれども・・・はじめて、名君にお会いしました。


私のような者にも、救いの手を差し伸べてくださった

閉じた目を開ける。


朝日が、山の峰を黄金色に照らしていく。

旅にも疲れもうした。黒木様のお言葉ありがたく頂戴いたしまする。


名君のおわす浄土で、この命尽きるまで、殿に忠義を尽くしとう存じます。

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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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