第9話 ジョンの供述

文字数 1,042文字

「ジェシカのことは、本当に好きでかわいがっていました。いや、むしろ愛しているといってもいい。だって彼女は、僕の妻なんですから」

 取調室の中でジョンは、メリーアン警部補に向かって必死に訴えた。

「それに、それに……、最初のころはまあ、戸惑いもあったみたいですけど、途中からはむしろ彼女の方から

を求めてきたんです。え? はい、顔はマスクでおおわれて表情は見えませんけど、でもなんというか、身体をひらいて僕をすっかり受け入れてくれて。自分から積極的に足を絡めてきたりして、あのう、いっしょに快感を得るというか、そんな感じで」

 しかしデスクをはさんで目の前に座っているメリーアン警部補の表情は、どんどん険しくなる一方。それはジェシカの前で見せる優しい微笑みとは似ても似つかぬ、厳しく憎悪にあふれたものだった。

 ……典型的なレイプ魔の言い草ね。女も楽しんでるはずだって? まったくヘドが出るわ! メリーアン警部補は両腕を組んだまま床に唾を吐き、デスクの上に両足をどっかり乗せると後ろにいる部下のアンディに向かって吐き捨てるように言った。

「こいつは16号に入れて」

「じゅ、16号ですか? あそこには今ブルースが、」

 ブルースというのは男好きの凶暴なレイプ魔で、人間というよりは野獣に近い、本能剥き出しのいかつい男だった。そんなところに一緒に入れておけば、気の弱いジョンがどうなるかは推して知るべしというもの。

「もちろん知ってるわ。だって同じ楽しみを味わってもらいたいじゃないの、こちらのお坊ちゃんにも。ヨダレ垂らしながらおかわりちょうだいって、犬みたいに身悶えするとこ見せてもらいましょうよ」

 メリーアン警部補は目を吊り上げ、サディスティックで残忍な微笑を口角に浮かべた。

 じつは彼女自身、かつては義父から度重なる性的虐待を受けていた被害者だった。その経験から男性に対して激しい嫌悪感をもつようになり、成長したメリーアンはフェミニストのレズビアンとなっていた。
 義父から受けた性暴力はもちろん苦痛でしかなく、娘より男を選び、見てみぬふりだった母親にも強い憎悪を抱いていた。だから最低な母親を持ち性的虐待にもさらされていたジェシカのことは、とても人ごととは思えない。目には目を、人畜生には徹底的な制裁を。ジョンが男として2度と立ち直れなくなるまで、完膚なきまでに痛めつけてやりたい。メリーアン警部補の中にどす黒い雲が広がっていく。やがてその雲はジョンの形になり、義父の形にもなっていくのであった。
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