2.瑕疵物件
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当時はプライベートも含めて憧れだったんでしょうかね。スクリーンの中の人という距離感といいますか。
まぁ、時代は過ぎて、一世を風靡したけど近年は廃れてしまったとかで。廃墟ツアーなんてものが企画されたこともあるなんて話しを聞きましたね。不法侵入して肝試ししている不届きな
そうなんだよね。名前と連絡先と、それからどのあたりの地域でどのくらいの価格帯でとか、簡単なアンケートを要求しても、とくに躊躇することもなくすらすらっと書き上げて。
うちに来た理由ってのが、ふらふらっとこの辺に住みたいなと通りかかったら、ちょうどよさそうなアパートがあって、そのアパートの柵に入居者募集の看板が出てたからっていうんだよね。
そう思うよね?
事件が起こった部屋はもちろんだけど、凄惨な事件だったから同じアパートにいたくないとか、マスコミも取材に来たりとかして、出て行った人もいるわけ。だから、6部屋中、3部屋空いてたの。
気が重かったけど、物件情報を見せないわけにはいかなくて。事件が起こったのは2階の角部屋でさ、隣の真ん中の部屋よりも安い賃貸料で。
いえ。まったく。ドラマじゃあるまいし、そうそう続けて近隣で凄惨な事件は起こらないよ。
なんの関係があるのかこっちが尋ねたいほどだったね。記者が身分隠して取材に来たにしては、事件について根掘り葉掘り聞いてこなかったし、もうちょっとうまいやり方をするものじゃないかなって。だからメディア関係者ではないと思うんだよ。
ほんと、何者だったんだろう。
そのお客さまはご自身で必死に事件についてお調べになったのでしょう。
これは偶然なのだろうか――。ひとつの可能性について確認せずにはいられなかった。偶然関わっていた不動産会社に、この情報をもたらしたときの反応を。
社内でこのお話しが噂となり、もし犯人が耳にして、そのみょうなお客さまとコンタクトを取ってみたいと行動を起こそうとするなら……。
そのお客さまはアンケートを書かれましたね。名前こそ偽名でしょうが、電話は繋がるかもしれません。
ですが、そのお客さまが被害者のご家族、あるいはお付き合いされていた方だとするなら、どんなことでもされるでしょう。相打ちをも覚悟で乗り込んできたのなら、とても危険です。
同僚の方にこのお話しは?
ならば、同僚の方に探りを入れるのも同様に危険です。
事件の被害に遭われたすべての女性に、同じ方がアパートを斡旋したのだとするなら、やはり事件と無関係とは言いがたいでしょう。
スペアキーを悪用しないとも限りませんよね。