過去から現在への物語

文字数 22,231文字

 昔話をしましょうか。
 黒猫の化身である彼の言葉に、小説執筆に完全に行き詰まっていた俺は頷いた。

※※※

 俺と彼の話をしよう。
 俺の名は柏木正之。
 高校二年生で趣味は小説を書く事である。ネットのサイトに小説を執筆している。
 そして、こう見えて『琥珀うらら』の名で本を出していたりする。
 あれは深夜のことだった。
 いつもどおり、勉強を終わらせると小説の執筆に集中していた。ある程度の区切りをつけ、俺は台所に向かう。
 家の中には誰もいない。
 俺の両親は有名な音楽家で海外を飛び回っており、高校入学した頃から、一人暮らしである。
 そのため、料理一般は得意だった。
 一人でうどんを啜っていると、窓つたいに黒猫が姿を表し、慣れた様子で部屋に入ってきた。
 飼い猫ではないが、何故か目の前の黒猫は俺になついた。
「いらっしゃい琥珀。今日は随分と遅くにやってきたな」
「うふふ……君って思ったよりネーミングセンスあるわね。一発でアタクシの名前を当てるなんて」
 不意に聞こえてきた声に、俺は周りを見渡した。どこをどう見ても黒猫以外に誰もいない。
 その時だった。
「はあい♡」
 黒く長い髪に、琥珀色の瞳の美しい男が目の前にいた。ただしこの男、黒いハイネックドレスを着ていた。
……ニューハーフ??
「そりゃ、あそこを手術でとっているからね。アタクシのことをそういうのも理解するけど面と向かっているセリフじゃないんじゃない?」
 さらりと真実を告げられて、俺は言葉を失う。
 目の前の黒猫がいきなり人に変身した。化け猫か何のホラーだと恐怖に震えるのが、一般的なんだろう。
 だが、俺は恐怖より物珍しさが勝っていた。
「……ホットミルクでも飲みますか??」
「ホットミルクより熱いコーヒーが希望ね。用意できるかしら?」
「absolutely」
 俺はコーヒーを淹れるために立ち上がった。

※※※

「そんな出会いだったんだよ」
 文芸部の部室で俺は文芸部副部長の三浦一に、俺は彼との出会いを語っていた。
 二人して来年の小説コンテストの応募作品を執筆していた。俺は歴史・時代物を得意としているが、三浦はファンタジーを得意としている。
「お前ホント、よく時代物書けるよな」
「書きたいものがたまたま時代物だったんだよ。俺にはお前のほうがすごいよ。ファンタジーは俺、書けないからな」
 今日はバレンタインデーである。
 とある小説サイトでは人気連載をしている三浦に、俺は悔しいと思うのを通り超え、笑うしかできない。
「にゃああお」
 黒猫が窓から潜り込んできた。
「おや、琥珀様。お早い」
 俺の言葉に、黒猫は目を細める。
「その琥珀様も面白いっていってんだろ?お前の話」
「まあな」
「にゃあ」
 黒猫の名前は、橘琥珀。俺達文芸部顧問・橘京子先生の愛猫であり、文芸部のマスコット。
 深夜に俺の家に来て、コーヒーを強請るのも、目の前の猫である。
 俺は彼が人間になった姿を目撃した初めての人間だそうだ。
 その間にも目の前の黒猫は、あっと間人間へと姿を変えていた。
 黒いブラウスに黒のロングスカート。長い黒い髪の毛は緩やかに巻かれている。だが、ガッチリとした体格である。
 なんて言おう。
 綺麗なんだけど。綺麗なんだけど何かおかしい。
 だが、俺はすでにツッコミを放棄していた。
「俺はお前が羨ましいよ。猫とおしゃべり出来て」
「そうよ。アタクシもおしゃべりできる相手が出来て嬉しいわ」
「琥珀様だけだけどなあ」
 気づいたら俺の横に琥珀様(人間形体)が優雅に座っていた。
……慣れって怖い。
「コンテスト頑張りなさいよ。あー見えて、京ちゃん、君たちの小説を楽しみにしているんだから。それと三浦君は誤字に注意すること。「浅が弱い」じゃなく「朝が弱い」でしょ」
 俺は三浦の原稿を見る。
「三浦、漢字間違っているってさ」
「どこどこ」
「ここ」
 琥珀様(人間形体)から聞いた指摘を、俺は三浦に示した。
 俺の指摘に、三浦は驚いた声を上げながら、再びパソコンへと向かう。
「お前、今度琥珀様にかつぶしプレゼントしろよ。今のは琥珀様の指摘」
「もちろん……猫に様づけって…お前………まあいいや。人間形態の琥珀はお前から見て、どんな感じに見えるんだ?」
「……御姉様?」
「御姉様?」
 こっくりと俺は三浦の問に頷いた。
 まさしく「琥珀御姉様」。御姉様仕様のイケメン。そう答えれば楽なんだが。
 ありのままを告げれば、ファンタジー作家・三浦一の夢を壊すことになる。さすがの俺も三浦の夢を破壊するのは忍びない。
「ノーコメント……?」
「どうした?……足音?」
 逃げるような足音が聞こえたので、俺と三浦は揃って首を傾げてしまった。
 隣を見ると琥珀御姉様も首を傾げている。

ガシャン。

 部屋に入ってきたのは御姉様仕様のイケメンではなく、島原男子高等学校一のイケメン教師・三沢知之先生だった。
 髪はボサボサ、半泣き仕様の三沢先生の姿と、今日という日付から、俺は凡その事態を察してしまった。
 このまま追い出すか?うん。そうしよう。せっかくの二人と一匹の楽しい時間を邪魔されたのだ。
 だが、それより先に三沢先生が俺に泣きついてきた。
「助けてくれ!!チョコが怖い!!」
 チョコ=チョコを持ったおっかけ。もはやチョコ単体もダメになったか?
 目の前の教師は残念伝説には、事欠かかないが、見かけだけは美男である。そのため、一部の生徒からファンクラブができていた。
……生徒に泣きつくなよ。教師がと思うだろう。
 俺は隣の三浦を見る。三浦は黙って頷いた。優しい男である。俺は三沢先生をロッカーに押し込んだ。
「声出さないで。できるなら息もしないで」
「そいつは無理だろう」
 三浦のツッコミに俺は黙って彼を睨みつけた。
 無理だろうとやってもらわなければ困る。
 三沢先生が反論するより先に、俺はロッカーの扉を閉めた。
 もう一つのロッカーに猫の琥珀様が自主的に入った。流石だと思う。俺もこの寒空に琥珀様を外に追い出すなんぞしたくない。
 一人と一匹が隠れたのと同時に、とある集団が部屋に乗り込んできた。
 残念男大好きクラブ違った三沢知之ファンクラブ。
 隣の水野女子高等学校の一部の生徒と悲しいかな我が島原男子高等学校の一部の生徒と教師。
 最近はBLが流行りなのか?残念男を押し倒すのが夢なのか?
 君たちのダーリンもとい愛しい彼氏は現在、ロッカーの中でガクブル震えているぞぉ。
「三沢先生、この部屋に来なかった?」
 聞いてきたのは我が校の河野静香教諭。
 専門は音楽。俺や三浦の選択教科は家庭科なので問題なし。
「いや、来ていないぞ。なあ、三浦」
「おう。朝から真っ青な顔をして逃げ回ってたけど、コッチには来てないな」
 部屋にはタブレットコンピューターが二台と三つのコーヒーカップ。
 三つのコーヒーカップ?
「そう。でもカップが三つもあるのは何故かしら?」
 しまった!琥珀様のカップを隠し忘れた。三浦もその指摘に一瞬顔色が変わった。
 だが。
「……それは私のカップですよ。ここは文芸部の部室で、現在彼らは部活中です。皆様、お引き取りください」
 現れたのは橘京子。この学校の保健医であり、文芸部顧問を務めている先生だった。
 穏やかな口調でありながら、有無を言わさぬ迫力がある。
「部活って言っても何やっているのよ。たった二人だけで」
「小説をかいているんですよ。彼らは優秀な小説家ですよ。ねえ。琥珀うらら先生。秋月柏先生」
 琥珀うらら=柏木正行。
 秋月 柏=三浦一。
 残念ですが、俺も三浦もデビューしています。
 うちの高校の場合、部活動にも実績が求められる。……これは、どうなんだろう。過去の前例はないらしい。
 そう言えば河野先生は、「実績を上げていない」って文芸部を廃止しようとしていたっけなあ。
「小説を書いていたですが、喉が乾いたので、全員でお茶にしていたんです。私はもらいものクッキーを彼らに差し入れしようと思って車からとりに行ってましたので、一旦離れましたが、何かありましたか?」
 ニッコリと橘先生は笑った。
「……いいえ。失礼しました。三沢先生がもしいらしたら、探していたと伝えていただける?」
「承知しました」
 橘先生は笑顔で答えた。
 全員が消えたのを見計らって、俺はまず琥珀様が隠れているロッカーを開けた。
 ロッカーの中から飛び出してきた琥珀様を橘先生は抱き上げた。
「ありがとう。柏木くん。三浦くん……」
「いや、流石に焦りましたよ。さて……」

ドンドンドン

 ロッカーの扉を叩く音に、俺と三浦は盛大に溜息をついた。橘先生は事態を察したらしい。くすくすと笑っていた。
「開けてあげてください。せっかくの客人ですからね」
 俺は三沢先生が入っているロッカーの扉を開けた。
 出てきた三沢先生の第一声は、コレだった。
「サインください!!」
……それかよ。
 俺は手にしていた辞書で彼の頭を叩き、三浦は膝裏に軽く蹴りを淹れ、琥珀様はすねに噛み付いた。
 教師への暴力?知るか。それぐらいは、許されるだろう。
「いっ……ふぐ」
 二人と一匹の暴力?に三沢先生は悲鳴をあげようとしたが、それより先に橘先生が三沢先生の口を塞いだ。
「見つかりますよ。貴方の追っかけに」
 橘先生の言葉に、三沢先生も落ち着いたようだ。
 ゆっくりと息を吐いた。
「無事でよかったですねえ。三沢先生」
「ありがとうございます」
「御礼なら柏木くんと三浦くんにしてください。君を助けたのは、彼らですから」
 橘先生の言葉に三沢先生は一つ頷き、改めて俺達を見て頭を下げた。
「ありがとう。二人共」
 頭を下げる三沢先生の様子に、俺は盛大に溜息をついた。まったく、こういう素直な所は、教師らしくないが好感は持てる。正直、嫌いじゃない。
「いえいえ。三浦……紅茶飲んだら、続き書こうぜ。五人分でいいか?」
「そうだな。頼む」
 俺の言葉に隣にいた三浦も頷いた。俺は紅茶を淹れるために、軽く伸びをして向かった。
「二人共、デビューしているのか?本当に?」
「ああ」
「アタクシも柏木も小説投稿サイトに毎日コツコツ書いていたら、少しづつ評判になって、それが出版社の眼に泊まって作家としてデビューしました」
「出版社デビューは、学校の部活動の実績規定には書かれていないが……教師共から文句言われる筋合い……」
「文句なんか言うか。凄いなあと思うよ」
 素直な賞賛に俺は言葉を失った。
「三沢センセって、性格的に素直なのねえ。多分だけどこの人、京ちゃんと似たもの同士。素直なのに不器用。好きよ。こういうタイプ」
 いつのまにか俺の横にいる琥珀御姉様が、優雅に笑った。
「バレンタインデーに私からの差し入れです」
 クッキーが入っている箱と籠?
 俺は籠を開けた。中身は茶色のパンのサンドイッチ。
「サンドイッチ……」
「私は菓子づくりだけは苦手でしてね。ココアパンで作ったジャムサンドイッチです。摘みながら執筆してください」
 変な人だと思う。
 菓子作りが苦手なくせして、料理上手。こういう人、嫁にしたら面白いだろうに。
「……下手な菓子より俺達には此方のほうが嬉しいです」
 三浦の言葉に、俺も頷き、サンドイッチに手を伸ばした。
 甘い匂いのするパンを、俺は口に入れた。
「こっちは柿ジャム……意外と美味しい……三沢センセ……俺達より先に食うなよ」
 三浦の言葉に俺はそちらを見た。三沢先生は京子先生が差し入れてくれたサンドイッチを摘んでいた。おいどうした?チョコはダメなんじゃ……
「旨い。コレ。俺、コレなら喜んで貰うのに」
 美味しそうに食べる三沢先生の様子に、俺達は笑い、すべてを察してしまった。
「まあ、いいか。俺達二人じゃ多いしなあ」
「にゃあお」
 俺の言葉に、仕方がないねぇというように琥珀様が啼いた。
 それが、俺達や琥珀様や京子先生と、三沢先生の初めての出会いだった。
 なんだかんだあって、この二人はざまざまな出来事を乗り越え、結ばれることになる。
 俺は、この二人の恋愛模様をみるたびに、死んだ叔母のことを思い出した。

※※※
 俺の叔母は十文字香菜という。
 モンテリオール国際ジャズ・フェスティバルで観客をスタンディングオベーションさせるほどの演奏技術を持った名サックスプレイヤーだった。
 だが、彼女はモンテリオール国際ジャズ・フェスティバルの演奏後、一時期は消息不明となっていた。
 それから数年後の二〇一三年、突如として演奏家集団【BLACK CROSS】を結成。様々な分野、特にアニメやゲームなどのBGMを作詞・作曲・楽曲提供を行う。
 その翌年の二〇一四年に、スキルス性胃癌にて急逝。
偉大な音楽家だった。
 「十文字香菜の音楽は永遠を生きる」と音楽評論家は絶賛しているが、その音楽は実はただ一人の男へ捧げられたラブレターだということを俺は知ることになる。

※※※

「俺に新任講師の案内をしろって?」
 珍しく文芸部に来た教頭の言葉に、俺は驚愕した。何気なく窓辺を見ると、小雪が降り注ぐ寒い日のことだ。
「頼まれてくれるか?」
「なんで俺たちが?他の連中に依頼してくださいよ」
「向こうのご指名なんだよ。今度、お前たちの作品がアニメ化されるんだよな?」
「……ええ」
「その音響監督を務めるのが、来季からの新任講師なんだよ。仲田結弦って、有名な声優さんだけど知っているよな?」
 俺達が通うのは私立高校である。
 話を聞くと、来季からこの学校に演劇コースを設立。その講師として、声優の仲田結弦を招くことが決まったとのことだった。
「勘弁してくれ……」
 何の因果だと、俺は天を仰いでしまった。

※※※

 教頭が部室から去ったのを見計らったかのように、黒猫が姿を表した。
「琥珀様〜」
 琥珀様の存在に気がついた三浦は、彼を抱き上げて膝に載せた。
 俺はイライラしながら、もう一杯コーヒーを淹れて飲んだ。
「何があったのよ。文芸部廃部となったの?」
 黒いドレスに黒く長い髪。赤い口紅に彩られたアンバーの瞳の御姉様(おねえさま)が俺の隣に座り声をかけてきた。
「……っちのほうがマシかもしれませんねぇ。来年から、うちの高校、演劇科も併設するそうなんですよ」
「たしかそんなこと言っていたわね。財政危機らしいのよ。この高校」
「で、明日。演劇科の新しい教師が来ることになるから、学校案内を頼まれました」
「君達みたいな面倒くさがりに頼むなんて、賢兄ちゃんもおかしな事を考えるのねぇ」
 賢兄ちゃんというのは、教頭のことだろう。
「あちらさんのご指名らしいんです」
「指名?」
 俺は彼のためにミルクティーを淹れながら質問に答えた。
「その先生、音響監督と声優をやっている人なんです。で、三浦の書いていた小説、今度アニメ化されるそうなんですが……そのアニメの主演声優を務めるのがその先生だそうで、作者である三浦に「ぜひとも会いたい」と」
ちらりと見ると、三浦は何故か頭を抱えていた。
「…そういえば、人見知りだっけ。三浦君は」
「ええ」
「……柏木、一生のお願いだ。俺の影武者やってくれ!」
 泣きつく三浦を俺は足蹴にする。
 某アイドル事務所にいそうなイケメンの癖に、残念である。
 俺の周りには、残念男しかいないのか?
「そういえば、新しいセンセ、何て言う名前なの?」
「仲田結弦ですよ。あの大物声優の」
「随分と懐かしい名前だ。そうか。アレからもう三年もたったのか」
「琥珀御姉様?」
「…柏木。今度のコンクールのテーマ、恋愛小説だったわね」
「ええ。恋愛小説だけは、俺、苦手なんですよねぇ」
「ネタになるかわからないけれども、一つ昔話を聞いてくれるかしら?」
部屋にコーヒーの香りが漂う。琥珀様(猫)用に紅茶を淹れたが、最近手に入れたアールグレイをおもいだしたからだ。
「紅茶、もう一杯淹れましょう。アールグレイの良いやつが手に入りましたから」
「それにミルク、つけてちょうだい」
「了解」
 俺は立ち上がり紅茶を淹れだした。

※※※

 部室に、アールグレイの香りが漂った。
 ミルクたっぷりのアールグレイが目の前に置く。彼はその紅茶を嬉しそうに口にした。
「柏木から見て、アタクシ、何歳ぐらいに見える?」
「人間でいうと25歳前後でしょうか?」
 コーヒーが入ったカップを手に、俺は彼の問いに答えた。ちなみに三浦は、まだのたうち回っていた。
 アイツは放っておこう。
「アタリ。大体それぐらいね。京ちゃんに拾われたのが、生後八ヶ月。人間で言うと十四歳ぐらいの頃。その前はアタクシ、別の人に飼われていたの」
 驚いた表情を見せてしまった俺に、彼は少しだけ笑った。
「アタクシ、京ちゃんも大好きだけど、佳奈ちゃんも大好きだったわ。アタクシの服の趣味はどっちかというと佳奈ちゃんの影響が大きいの。黒いドレス姿で、アルトサックスを吹く佳奈ちゃんは本当に綺麗だった」
「まさか、その、佳奈ちゃんって……」
「十文字佳奈。アタクシの最初の飼い主ね」
 彼の言葉に、俺は目を見開いてしまった。
 俺の動揺に気づいたのだろう。隣りにいる彼は、唇を釣り上げて笑った。
※※※
「君はホント、佳奈ちゃんによく似ている」
「……音楽の才能は似てませんが」
 俺の家族は俗にいう「音楽一家」である。母親がバイオリニスト。父親が指揮者。兄貴がピアニスト。俺も中学卒業までサックス奏者を目指していた。
 だが、ピアニストの兄や、伝説とまで言われるようなサックスプレーヤーの叔母と比較されることに疲れ果て、高校入学と同時にサックスを辞めた。
 その代わりに、こうして小説を書くようになった。
「君は努力の男だ。だからこそ、アタクシは君に話す気になったのよ。アタクシが昔見た恋の物語」

 CDプレイヤーから、懐かしい音楽が流れた。
 有名なゲームのエンディングとなった「アクアマリン」という曲。
 叔母・十文字佳奈が作曲した代物だ。
「佳奈ちゃんが最初で最後に恋した相手は仲田結弦君だったの」

※※※

ー愛している。佳奈。
ー愛しています。最初の恋も最後の恋も貴方だけ。
 遠い昔の懐かしい声。
 迦楼羅炎をイメージさせる懐かしいサックスの音色は、今も簡単に思い出すことができる
 
 もう随分と昔のことだ。
 ざあざあと大雨が降る夜、アタクシはいっぺんに母と兄弟を失った。
 見失った。
 何処に行ったの?ママ。
 泣き叫びながらアタクシは家族を探し歩いていた。
 寒い。
 お腹減った。
 寂しい。
 ぐるぐると様々な感情が、幼いアタクシの頭の中を駆け巡ったわ。
 そんな時だったわ。
「どうした。お前?」
 アタクシのの鳴き声に気がついてくれた人がいたの。
 黒いシャツに黒のズボン。髪の毛は酷く短いけど、その声は間違いなく女性だった。
「そう言えば向こうで黒猫が車に……もしかして、お前、その子供か?」
 目の前の彼女の瞳を、アタクシはじっと見つめた。
 当時のアタクシには、彼女の言っている言葉の意味も半分も理解していなかったわ。ただ、彼女が酷く悲しそうな表情を浮かべていたことと、もう母や兄弟に会えないということは、幼いながらも、理解してしまった。
「おいで。家族になろう」
 大きくて温かい手が、アタクシを撫でてくれて、アタクシはその手に、身体を擦りつけた。
 それが、アタクシと佳奈ちゃんの出会いだったわ。
 佳奈ちゃんは持っていたタオルでアタクシの身体を包むと、抱き上げてビニール袋にいれたの。
 扱い雑よね。
 でも、まあ、仕方がないわよ。キャリーケースなんてもの、あの時の佳奈ちゃんは持っていなかったもの。
 
「とりあえず、猫医者のところに行って、診察してもらって……ああ、その間に色々な道具を飼わないと……」
 そんなことをつぶやきながら、佳奈ちゃんはアタクシを家に連れ帰ったの。
 アタクシが佳奈ちゃんに連れてこられたのは、小さなバーだった。 
 バー【止まり木】。
 客がいない奥の部屋に連れ込まれて、アタクシは小さなダンボールの中に入れてもらった。
 まあ、アタクシは即座に毛づくろいをしたわ。濡れたのが気持ち悪かったからねぇ。
「トイレは、此処にしてくれるかあ?」
 はい。分かりました。
 まあ、当然、アタクシの返事が佳奈ちゃんに伝わることわない。けれども、アタクシが返事をすると、目の前の彼女は笑ってくれたわ。
「律儀に返事してくれてありがとう。君の名前は何にしよう……それにしても綺麗な金の瞳だねぇ……そうだ。【琥珀】はどうだろう?」
 それ、いただきました。
 その時から、アタクシの名は【琥珀】になった。
※※※
 二〇一五年一月 文芸部部室。
 一息つくために琥珀御姉様は、紅茶を一口飲んだ。
「柏木、君、チャイとか淹れられる?」
「……今度淹れましょうか?叔母からレシピは聞いていますから」
「うん、お願い」
 俺は、自分が手作りしてきたクッキーを彼の前に出すと、彼は少しだけ笑った。
「聞き上手なところが、佳奈ちゃんとそっくり」
「琥珀様は叔母さんと暮らしていたんですね。」
「ええ。あの頃からずっと【琥珀】と呼ばれていたの。京ちゃんも、悩みに悩んだ結果【琥珀】という名前をくれたわ」
「音楽の才能も似ていればよかったんですがねぇ……」
「阿呆。音楽と文学異なるといえ、アタクシから見て、君には才能がある。なぜなら才能と努力と快楽は=で結ばれるものだからだ」
「?」
「一つのことをコツコツと苦もせず、むしろ楽しんでできるということを、才能というのでしょう?」
「……貴方、ホントに猫なんですか?」
 普通の猫は其処まで考えるものだろうか?
 俺の言葉に、目の前の彼は楽しげに笑った。まあ、三浦から見れば俺は猫に話しかけている変態なんだろうが。
「アタクシは例外らしいわよ。だけどまあ、猫に分類されるわね」
「……俺に才能があるとは思えません」
「一つのことをコツコツ苦もせずできることは、他人から見たらそれは努力。けれど、それを楽しめるという事は快楽。努力と快楽がイコールになれば、才能。わかりづらいかしらねぇ」
「……猫なのに哲学的ですよねぇ」
「猫は皆、哲学者なのかもね」
 クスリと彼は楽しげに笑った。
「アタクシと出会った翌月だったかしらね。弓弦が日射病で佳奈ちゃんの店の前でぶっ倒れたのは」
 衝撃の言葉を聞いて、俺は再び言葉を失った。
 店の前に倒れていた?
 どういうことだ?

※※※

 二〇一三年七月。
 凄まじく暑いだったわね。
 佳奈ちゃんが経営しているバー【止まり木】は、黒の招き猫(アタクシ)のおかげか、繁盛していた。
 朝、アタクシは佳奈ちゃんを起そうと懸命になっていた。結構、寝汚い人だったのよ。
 おっきしようよ。佳奈ちゃん。
 おっき。
 アタクシは、ソファーで眠る彼女の枕元に立ち、頬を舐めた。
「ん。おはよう。琥珀」
 はい。おはようです。お腹すきました。御飯ください。
 佳奈ちゃんは起き上がると、アタクシのごあんの支度を始めた。
「はいよ。用意できたよ」
 カリカリが入った器とたっぷりの水、ウエットのキャットフードが入った入れ物がアタクシの目の前に置かれた。  
 アタクシがカリカリをたべる様子を、佳奈ちゃんはボーと見ていた。アタクシが見ている限り彼女は朝が弱い。破滅的に。
 佳奈ちゃん。
呼んでも返事がない。屍のようだ、
「眠い。琥珀。もう一回寝る……」
 だめ。今日、買い物の予定だよ。
 寝ようとする彼女のパジャマのズボンの端を銜えて引き止める。
「ちゃんとお仕事しろって?」
 はい。お仕事しましょ。お客さんがお待ちだよ。
 佳奈ちゃんは渋々といった感じで、シャワールームに向かった。

※※※
 佳奈ちゃんは着替えると、アタクシをどうしようかと考え込んでいた。アタクシは佳奈ちゃんの懐に潜り込んだ。
「暑くないかい?」
 胸元から顔を出して、周りを見渡すアタクシに彼女は笑った。
 大丈夫。
「この日差しじゃ、君なんか溶けちゃうねぇ」
 七月なのに、異常に暑かった。
 車の上に卵落としたら多分、目玉焼きになる程度にはなっていると、アタクシは思った。
…………あれ?
……………何か倒れている?
 アタクシの視線に気づいた佳奈ちゃんも首を傾げた。
「あれ?……何か人が倒れているよ」
 見ると、店の前の道端で一人の男の人がうつ伏せに倒れていた。
 佳奈ちゃんは荷物を地面に置き、倒れている人間に近づく。
「大丈夫ですか……意識ありますか……おーい」
「う……」
 此処、人通り少ないからなあ。佳奈ちゃんは、男の身体を触った。
「多分、熱射病だ。此処だとヤバイから……琥珀さん、ちょっと降りていて」
 えーと思ったが、仕方がない。アタクシは渋々ながら土の上に降りた。
 佳奈ちゃんは倒れている男を担ぎ上げると店の前へ向かった。
……意外と力持ちなのね。佳奈ちゃん。
「後は救急車……あれ?」
 携帯電話の呼び鈴が聞こえた。佳奈ちゃんの携帯電話じゃない。おそらくは倒れている男のものだろう。
「仕方がない。」
 佳奈ちゃんは相手の電話を取り、状況説明した後、救急車を呼んだ。

※※※

 二〇一五年一月 
 文芸部部室で、俺と琥珀御姉様は紅茶を楽しんでいた。相変わらず、三浦はのたうちまわっている。
 そうだろうなぁ。
 仲田結弦といえば、名声優と名高い男である。そんな男に認められるんだものなぁ。
 俺は、自分の手に視線を向ける。
 琥珀御姉様(おねえさま)様は俺を見て、軽く眉をひそめた。
「アタクシはずっと、あの小さなバーの穏やかで優しい時間がずっと続くものだと思っていたわね」
 琥珀御姉様は、小雪が降り注ぐ窓を琥珀様は見つめていた。
「なあ柏木、お前、ホントに猫と話しているのか?」
「まあな」
 のたうちまわっていた残念男はようやく復活したらしい。
 俺の言葉に、三浦はじっと俺の隣の椅子に座る黒猫の顔を、覗き込んできた。
「いやん♡アタクシでも照れちゃうわねぇ」
 琥珀御姉様の冗談に、俺は吹き出して笑ってしまった。
「賢そうな猫だとおもうけど……俺にはわからん」
「ふうん」
 琥珀御姉様は、琥珀色の目を細める。と、悪党笑みを浮かべた。なんかやる気だ。
「はあい♡」
「うわぁ!!」
 突如現れた琥珀御姉様の姿に、三浦は飛び上がって驚き、腰を強かに打った。あれは痛い。
「そうね。今の君と同じように苦しんでいた。思った音が出ない。思ったものが書けない。必死になってもがいていた。仲田結弦との出会いは、そんな時だったわ」
 腰を抑えながら三浦が椅子に座ったのを見届けると、琥珀御姉様は再び、昔話を始めた。

※※※

 救急車で運ばれた男に付き添って、佳奈ちゃんはでかけちゃった。
 なんだかんだ文句言いながらも面倒見がいいからなあ。佳奈ちゃん。だけど、つまんない。
 もっと佳奈ちゃんにぎゅっと抱きしめてもらいたい。
 アタクシはピアノの上で寝そべっていた。
 その時だった。
「ただいま。琥珀さん」
 佳奈ちゃん、帰ってきたんだ。お帰り。
 ピアノから飛び降りて、佳奈ちゃんの足元に座った。
「やっぱり、日射病だったんだって。手当早くて良かった」
 椅子に座った佳奈ちゃんの膝の上に乗り、アタクシは彼女をじっと見つめた。
「好みのタイプだったんで、ちょっとドキッとしちゃった」
 浮気やだ。佳奈ちゃんは、アタクシのものよ!!
 今思えば、幼い独占欲だと思う。
 だけど、あの当時、佳奈ちゃんはアタクシにとってのすべてだった。
「さて、店の準備準備。今日も頼むね」
 はい。接客はアタクシに任せて頂戴。

※※※

 シェーカーが軽やかに動く。
 本日のお客さんは、山谷のおねえちゃん。
 近くの音楽大学で先生をしているんだって。佳奈ちゃんが時折吹くサックスに、惚れて通っているの。
 いらっしゃいませ。アタクシが近づくと、山谷のお姉さんが驚いた表情を浮かべた。
「佳奈さん、猫を飼いだしたんだ」
「まあね」
 佳奈ちゃんはシェーカーを振り、山谷のお姉さんの好きなカクテルを作り、テーブルの前に置いた。
「さすが、佳奈さん。もう、惚れちゃいそう」
「惚れてくれてもいいのよ」
……【おっぱいのついたイケメン】ってこの間、テレビで特集していたけど、きっと佳奈ちゃんのような子なんだろうなあ。
 山谷のお姉さん、美味しいフルーツもあるよ。
 アタクシがじっと、りんごを見ているのに、気がついた二人は笑った。
「この子、ホント商売上手ねぇ。フルーツの盛り合わせ頂戴」
 山谷のお姉さんの注文に、佳奈ちゃんが笑いながらナイフを手にした。


 「久しぶりに吹くかな。」
 その言葉に、山谷のお姉さんは、目を輝かせた。
「じゃあ、あたし、伴奏します!!」
「お願い」
 何を吹くんだろう。火かな?
 アタクシの視線に佳奈ちゃんは笑い、あるものを取り出した。
 これ、何という意味を込めて、ちょいちょいとそれを手で触った。
「これはアルトサックスっていう楽器なの。琥珀。ここで座って聞いてくれるかな」
 佳奈ちゃんはアタクシを抱き上げ、椅子の上に座らせた。
 何が始まるんだろう。
 山谷のお姉さんのピアノのリズミカルな演奏が始まる。しばらくすると、佳奈ちゃんがアルトサックスが奏で始めた。
 あ、これ知っている。
 テレビのテーマソングにもなっている曲だよね。これ好き。
 アタクシはうっとりと二人の演奏を聞いていた。

 かららん。
 
 ドアの開く音が聞こえ、アタクシは音が聞こえた方へ向かった。
 接客接客。
 お客様は神様です。
 二人が演奏しているから、接客係はアタクシの仕事。
 いらっしゃい。
 入ってきたのは、今朝、店の前でぶっ倒れている男の人だった。
 あ、元気になったんだ。良かったね。
 彼は年齢は40を少し過ぎた感じ。若干、白髪交じりのダンディなおじさま。
 目元にシワがあり、笑うと愛嬌のある。
 二人が奏でている音楽に少しばかり驚いた表情を浮かべていた。やがて、カウンターの椅子に座る。
 アルトサックスとピアノのセッション。
 佳奈ちゃんも山谷のお姉さんも、演奏の腕は一流だからいい耳を持っている人にとっては至福だとおもう。
 演奏が終わり、佳奈ちゃんもお客さんが来たことに気づいたみたい。
「いらっしゃいませ。ごめんなさいね。何にします」
「貴女」
「私ですか?高いですよ」
 アタクシの目の前で口説くんじゃないの。噛みつくよ。
「冗談ですよ。いい音楽なので聞き惚れていました。ジンライムとチョコレートで」
「ありがとう。今、お作りします」
 佳奈ちゃんは、彼の言葉に苦笑しながら仕事を始めた。

※※※

 二〇一五年 私立島原高校・文芸部部室。
 俺と三浦は、琥珀御姉様の話を熱心に聞いていた。俺も三浦もこう見えて、高校生。自分で言うのも何だが、恋に憧れる年齢である。
「ジンライムとチョコレート。甘党なのかねぇ」
 三浦の言葉に、俺は頷いた。
「ああ、意外といい取り合わせなんだよ」
 ボカリ
 何故か俺は琥珀御姉様に殴られた。
「二十歳未満は飲酒禁止です。二十歳過ぎてから試すといいけど、意外といい取り合わせなのは確か。あと、京ちゃんと出会ったのも、たしかこの頃」
 琥珀御姉様は、本来は猫なのに真面目な常識派であったようだ。
「叔母さん、京子先生とも知り合いだったんですか?」
「古い友人らしいわよ。京ちゃん、初恋だって言っていたわ」
 は?叔母さんが先生の初恋?
 ちなみに俺の初恋は京子先生である。
 落ち込む俺に、琥珀御姉様は笑った。
「ねえ、柏木。明日だけど、アタクシとデートしない?」
「デートですか?」
「佳奈ちゃんのお墓まで。京ちゃんもお墓参りする予定だし」
「俺も、行っていいですか?」
「いいんじゃないの?京ちゃんも佳奈ちゃんも、大勢が好きな性質だしね」
 俺は窓から空を見上げた。
 綺麗な夕焼けが広がっている。おそらく明日は晴天だろうと思った。

 翌日、俺は花屋で赤い薔薇を買って、叔母さんの墓へと赴いた。
 薔薇は、死者への手向けにふさわしくないと言うものもいるだろう。だが、俺はこの花を選んだ。
 生前、叔母が最も愛した薔薇の花だ。
「こんにちわ。柏木くん。お参りですか?」
 聞こえた声の方に視線を向けると、紅い薔薇を持った橘京子先生と琥珀様がいた。
「ええ。叔母さんの月命日なんで……」
 墓の前には、すでに赤い薔薇の花が供えであった。
「毎月、月命日になると、紅い薔薇が供えてあるんですが、先生ですか?」
「いや。毎月は此処に来ていない」
 意外と先生、忙しい人だったなと、俺は考えた。では、一体誰だろう。
「そんなの決まっているでしょう。仲田結弦君よ」
 特徴ある柔らかい声が聞こえた。琥珀御姉様だろう。
 先生がお参りしている間に、声が聞こえた方向に視線を向けると、琥珀御姉様がいた。
「佳奈ちゃんと再会したのは、今から二年前のことだった。」
ぽつりと、京子先生は話し出した。

※※※

 二〇一三年五月。
 梅雨の雨の中、私は大通りを歩いていた。
「大丈夫だと思ったんだけどなぁ……ドジ踏んだ」
 家を出た時は、霧雨で傘が無くても大丈夫だと思っていたが、そうは問屋が降ろさなかった。
 土砂降りになってきた。
 最悪なことに、この辺りコンビニなどもない。
 その時だった。
「そこのお姉さん。風邪ひくよ……京子先輩?」
 私は声が聞こえてきた方向に顔を向けた。
 其処には、男ではなくショートカットでボーイッシュな女性……十文字佳奈が目を見開いていて驚いていた。
「とりあえず、京子先輩。店に行きましょ。医者が風邪引いたらアホだよ」
……相変わらず口は悪い。
 だけど。
 着ていたジャンバーを私の肩にかけ、肩を抱きしめると、引き摺られるように、店まで連れてこられた。
「京子先輩……ホント天然娘なんだから……」
 引きずられるようにして連れてこられたのは、小さなバーだった。
 ずかずかと部屋に押し込められると、バスタオルを放り投げてきた。
 私はそれを反射的にキャッチしてしまう。
「奥にシャワーと簡単な着替えがあるから、先輩は着替えてきて。その間に、何か作るから」
 佳奈ちゃんの言葉に、私は頷くしかなかった。
 私がシャワーから戻ってくると、スパゲティが出来上がっていた。
 手早い。
 私も料理はする方だけど、佳奈ちゃんかなり上手だ。
「京子先輩。こっちこっち。飲み物はコーラでOK?」
ぐう
お腹の虫が鳴いた。その音に、佳奈ちゃんは笑って私を手招いた。
「京子先輩、食べよう」

※※※

 二〇一五年一月。京子先生は叔母の墓の前で、淡々と語った。
 先生の表情から、先生が以下に叔母が好きだったのかが、伝わった。
 俺は昔、叔母と先生がそれぞれの楽器でセッションしているのを映像で見たことがあった。 
 繊細で丁寧な京子先生のコントラバスと、大胆で荒々しい叔母ののサックス。
 一見すると正反対だったけど、見事に調和していた。
 俺は、二人のようになりたくて、何度も映像を見た。
「京子先生」
「?」
「叔母のこと、もっと聞かせてください。」
 俺の言葉に、京子先生は頷いた。

※※※

 二〇一三年八月
 久しぶりにバー「 止まり木」に来ると、黒猫が迎えに来た。
まるで、佳奈ちゃんが黒猫になって挨拶に来たみたい。
「こんばんわ。ネコさん」
 うにゃあ。
 律儀に返事をする黒猫に、私は笑ってしまった。
 のそりと、もう一匹の大きな黒猫もとい後輩で友人の十文字佳奈が姿を表した。
「佳奈ちゃん、猫飼ったんだ」
「飼ったというか拾ったんです。で、私が彼に世話されています」
 黒猫が私を見上げ、ニャオと短く鳴いた。
 まるで、「いらっしゃい」と言っているかのようだ。
 なんとなく、黒猫の仕草が佳奈ちゃんそっくりで私は笑ってしまった。
 佳奈ちゃんは、タバコ片手に楽譜とにらめっこしていた。バーテンの仕事の他に、いろいろとやっているらしい。
「何やってんの?」
「作曲の仕事、頼まれたんですよ。」
 確かに、佳奈ちゃん、音楽全般造形が深い。
 うにゃああ。
 私を見たあと、タバコの煙を見て黒猫が鳴いた。
 この子、もしかして……
「タバコ、程々にしなさいって言いたいの?」
 にゃ。
 黒猫が目を輝かせて、返事した。
「佳奈ちゃん、黒猫さんが、【タバコは程々にしなさい】って」
 私の言葉に佳奈ちゃんは黒猫に視線を向けた。
「京ちゃんと意思疎通取り合うなんて……琥珀、君、ホントに猫」
 うにゃああああああ。
 文句を言うように鳴き声をあげる黒猫に、私は笑って、黒猫を抱き上げた。
「名前、なんていうの?」
「本名はアンバー。ただ、面倒だから琥珀って呼んでいる」
 にゃ。
 面倒臭がらないでよとでも言うように、黒猫は目を細め、短く鳴いた。
 この子、かなり頭が良い子のようだ。
「バーテンダーの仕事に、作曲に程々にしておかないと佳奈ちゃん、そのうち過労で倒れちゃうよ」
「その時は、京子先輩、往診してくださいね」
「もちろん」
 私の言葉に、佳奈ちゃんは楽しげに笑った。
「さて、京子先輩。今日は何作りましょうか?」
佳奈ちゃんはタバコを火を消すと、カウンターに向かった。
「海鮮焼きそば!!」
「うちは居酒屋じゃないんだけど……まあ、良いか」

※※※

しばらくすると、お客さんが増えだした。
それにしてもと思う。
「佳奈ちゃん」
「なあに?」
「いつから、この店業界人の専門のお店になったの?」
 私の言葉に、佳奈ちゃんはきょとんとした表情を浮かべた。無理もない。
 だけど。聞いておかないと。
「アニメ好きだっけ?」
「いや?ごく普通に見るよ。たまにシャーロック・ホームズのシリーズとか」
 店に入った時から、「何処かで見たような顔」ばかりだと思っていたが、ようやく思い出せた。
 よく雑誌に顔出ししている声優さんばかりなのだ。
 まあ確かに。
 ここの料理や酒は美味いけど。
 ここの音楽は最高だけれども。
 いつの間に職業・声優の人たちが、増殖しているんだ?
「いや、ゆづさんのお友達だとは聞いていたけど・・・そうなの?」
 カウンターで一人で飲んでいた男に聞いた。
 彼の声にも聞き覚えがある。たしか名探偵ポアロで声優を担当していたと記憶していた。
「ええ、一応俺も声優です。知りませんでした?」
「ごめん。あんまり興味がなくて……」
 そういえば、佳奈ちゃんは音楽以外はとんと駄目な子だった。
 かららん。
 ドアが開いて、人が来た。
 今度は職業・声優の人ではなく、職業・音楽家の人間だった。 
 ピアニストで、この店の常連の山谷栞さんだ。
「うわぁお」
 栞さんは驚いた表情を浮かべた。カウンターにいるのが誰だか、察しがついたのだろう。
「此処、いつの間に業界関係者のお店になっちゃったの?」
 私と同じことに栞さんも気がついたらしい。
「良いじゃないの。何やっていようと。法律に触れる仕事をしている訳じゃないんだから。栞さん、京子さんと一曲セッションしてみたら良いと思いますよ。京子さんのコントラバスは、私といい勝負しますからね」
「ちょ、佳奈ちゃん」
「そうなの?やるやる!」
 狼狽する私の手を掴み、栞さんは舞台に向かった。やれやれ。
 私はため息をつくとコントラバスに向かい、弓を構えた。
 彼女が何を弾くか。ピアノの音を待つ。
 次の瞬間、聞こえてきた音に軽く息を呑んだ。
【シャーロック・ホームズ】のテーマソング。だが、ジャズアレンジを入れてある。
 即興で此処まで出来るとは。
 ならば。
 私は彼女と競うようにコントラバスを奏で始めた。

セッションが終わると、私と山谷さんは佳奈ちゃんがいるカウンターに戻ってきた。
 久しぶりの演奏だったので、少しばかり勘が狂っていた。
「久しぶりで全力で演奏したけど、さすが現役。ついていくのがやっと」
「あれで?!アタシなんて何度も京子さんに助けられましたよ」
「二人共、凄かったよ。はい、コレご褒美。京子先輩はサングリア、山谷さんは、ブラッディムーン。」
 私も山谷さんも、赤いカクテルだった。
「いや、本当に凄かったです」
 カウンターにいた職業・声優のお兄さんが、戻ってきた私たちに目を輝かせていた。
 そういえばこの人、名前なんて言うんだろ。
「お二人は音楽家ですか?」
「私はピアニスト兼音大で講師していまーす。」
 ありゃ。山谷のお姉さん、目がやばい。
 狩人モードに入っている。【何】を【狩ろう】としているのかは、ご察しください。
「私は、病院で研究者と、とある高校で保険医しています。」
「うそ!!お医者さま!!アタシ、同業者かと思った」
「私と京子さんは、大昔外国のコンクールで大暴れした仲間よ。まあ三年ぶりぐらいだから、やはり少し音が狂っているけどね」
 佳奈ちゃんの言葉に、私は笑って頷いた。
「俺、感動しました。良ければ今度アニメの音響監督連れてきますんで、その時も弾いてもらえますか?」
「良いよ。ただ、同じ曲を弾くとは限らないけどね」
 山谷さんの返事に、ずっこけるお兄さん。
 そろそろ名前知りたい。なんだっけ。あああ喉まで名前が出ているのに。
「シャーロック・ホームズ役の人だと思うんだけど、……名前が出てこない」
 私は膝の上の琥珀を撫でながら、必死になって記憶を手繰った。
「葛城清吾といいます。【さて、諸君】」
 突然のホームズの声に、佳奈ちゃんも山谷さんも驚いた。
 かららん。
 ドアが開く音が聞こえたので、私は扉に視線を向けた。
 中に入ってきたのは、仲田結弦君だった。
「いらっしゃいませ。いつものでよろしいでしょうか?」
「お願いします」
 佳奈ちゃんの問に、仲田さんはひとつ頷くと、葛城さんの隣に座った。
「ゆづさん、遅い。遅いよ」
「どうした。清吾」
 先輩と後輩かな?
 二人の様子を見ながら、私はサングリアを飲んでいた。
「さっきまで、ポアロのオープニングのジャズバージョンがタダで聞けたのに……」
「そりゃあ、惜しいことした」
佳奈ちゃんはジンライムとチョコレートを、仲田さんの目の前においた。

※※※
 二〇一五年一月。叔母の話を聞きながら、俺は先生の様子をうかがっていた。
 俺は月命日になると、此処に来ることが多いが、先生とあったことはない。だが、来たということは……
「先生、何か悩んでいるの?」
 俺の言葉に、先生は大きく目を見開くと笑った。
「ホント、君は佳奈ちゃんにそっくりで、察しが良い子だね……一番に報告しt買ったの。知先生との子供ができたこと」
 先生の腕の中にいる琥珀様が大きく目を見開いていた。
 仕事早いなと思ったが、俺は口に出さなかった。でもまあ、叔母が知ったら大喜びするだろう。
 強い風が吹く。
 このまま此処にいると、先生が風邪をひく事になるだろう。
「先生、家庭訪問しませんか?」
 俺の言葉に、京子先生はくすりと笑った。
「どういう誘い方なのよ……此処だと、先生が風邪引くだろうし、なによりもっと叔母の話を聞かせてください」
 にゃお。
 俺を褒めるかのように、琥珀様が鳴いた。

※※※

 無駄なものが置いていない俺の部屋に、京子先生は驚いたような表情を浮かべた。
 まあな。必要最低限しかおいていないし。
「此処で一人暮らしなんですか?」
「ええ。両親と兄貴は音楽家なんで、全国飛び回っているんですよ。で、俺は高校入学前ぐらいまで佳奈叔母さんに預けられて育ったんです」
 俺は、先生と琥珀様のために冷蔵庫に入っていたミルクを温めて、差し出した。
 先生はとある棚の前に立ち止まって、棚の上に置かれた写真立ての写真を見つめていた。
 叔母の写真である。
「佳奈ちゃんの部屋に似ている」
「叔母と甥ですから、似ているかもしれませんね」
 琥珀様はソファーに、座った。
「流石、琥珀様。佳奈叔母さんの好きな椅子を一発で選ぶとわ」
「琥珀、君、凄いねぇ。」
京子先生は、椅子に座った琥珀様の頭を撫でると、ソファーに座った。
「柏木君、寂しくないの?」
「寂しいと思ったことはないと言えません。特に、一人で原稿を書き上げている時なんてね。だけど、たまに三浦が料理を作りにくる。琥珀様が夜の散歩がてらにきてくれる。朝になれば学校があって、保健室の隣の部室で 二人してコーヒー 飲みながら執筆したり、教頭から珍妙な依頼が来ててんてこ舞いになったり、割りと楽しんでいますよ。先生、一つ聞いていいですか?」
 京ちゃんは何も言わず頷いた。
「佳奈叔母さんの遺言で、京子先生は叔母さんの遺骨の半分を預かって、海外のある所へ向かったと聞いてます。何処に向かったんですか?そして、その遺骨は何処にあるのですか?」
「柏木君。君はアメリカで遺骨をダイヤモンドにしてくれる所があるのを知っている?」
「ええ」
 俺が肯定したのを見て、京子先生は顎に手をやった。
 これは先生が考え込むときにやる仕草だ。
「私は佳奈ちゃんの遺言で、アメリカにある遺骨をダイヤモンドにする施設に行ったの。私の古い知り合いが其処で働いていたしね。私は彼女の遺骨を赤いダイヤモンドにしてもらった。そしてそのダイヤモンドを仲田さんに預けた」
「!」
「【ゆづさんの腕の中でずっと抱きしめられていたい。】それが、彼女の最後の望みだった。そして彼女は今も、仲田さんの腕に抱かれている」
 先生の声とともに、幻聴が聞こえた。
ーーー後をお願い。京子さん。これで、ずっとゆづさんの……側に……
「人の愛し方なんて、人それぞれで何が正しいのかは私には判断できないし、私は判断すべきではないと思っている。それに、君も知ってのとおり、私は恋愛音痴に近いらしいからねぇ」
 先生の言葉に、俺はどう反応していいのか困ってしまっていた。
 橘京子先生の恋人となった三沢知行先生は、長く攻略に苦しんでいた。
 俺はそれを横で見ながら楽しませてもらっていたが。
「【ゆづさんの腕の中にずっと抱かれていたい】という言葉は、知さんが共に生きていきたいと言ってくれた今は理解できる」
京子先生は立ち上がると、あるCDを俺に渡した。
「【jewel】。このCDを作るきっかけになった出来事が、二人の恋の始まりだった」
 そういえばそうだ。
 このCD、叔母が音楽活動を再開させたきっかけでもある。
 じっと見つめてくる琥珀様の視線に答えるかのように笑うと、俺は先生からCD
を受け取り、CDプレイヤーを操作して、スイッチを押した。
 懐かしい音楽と共に、先生は語りだした。

二〇一三年九月
 バー【止まり木】に入ると、黒猫の琥珀が出迎えてくれた。
「こんばんわ」
 みゃ。
 私の挨拶に律儀に答える琥珀が愛らしくて、私は彼を抱き上げて椅子に座った。 それにしても……先月よりもまた……
「佳奈ちゃん……何で職業・声優の人間がここまで増殖しているのよ!!」
「ゆづさんが営業するんだもん。ぜひとも【止まり木】利用してくれって!!」
 佳奈ちゃんは笑いながらサングリアを作り、カウンターに置いてくれた。
「初めは仲田さんの紹介でも、佳奈さんや京子さん、アタシの演奏に聞き惚れて、通うという無限ループに陥るらしいのよ」
「ええ。俺もそのパターンですね」
 栞さんと清吾君は、ビール片手に、私の言葉に加わってきた。
 かららん。
 ベルと共に扉が開き、再びお客さんが入ってきた。
 膝の上で抱っこされていた琥珀が、起き上がると迎えに出た。
 つまらないなあ。琥珀をだっこしながら、サングリア飲むのが楽しみなのに。
「京子さんは、琥珀目当てだものねぇ。」
「だって、可愛らしいんだもん」
 ありがとというように、黒猫が短く鳴いた。
「いらっしゃい。ゆづさん。」
「こんばんわ。佳奈さん。」
 琥珀を抱っこした【ゆづさん】が私の隣に座った。
「京子さん。こちらが仲田結弦さん。職業・声優。京子さんが好きな乙女ゲーム【恋物語】で土方歳三の声もやっているんだよね。ゆづさん、こちらが橘京子さん。お医者様だけどコントラバスの名人」
「初めまして」 
 私は目の前の彼に軽く頭を下げた。
 目の前の彼も、穏やかな笑みを浮かべた。
 初めて会ったのに申し訳ないのだが、可愛らしいオジサマ。
「今日は皆さんにこれを持ってきたんですよ。」
 そういうと仲田さんはあるものを渡してくれた。
 チケット?
「今度、【恋物語】の声優イベントがあるんですが、それのご招待です」
……嘘でしょ。オークションに出せば凄まじい落札価格がつく【恋物語】の声優イベントのチケットを配っちゃっていいの?
「太っ腹ですねぇ。貰っちゃっていいのですか?」
私は思わず問い掛けてしまった。
 仲田さんも葛城君も笑って頷く。
「いつも三人にはいい演奏を聞かせてもらっているので、お礼として是非きてください」
 仲田さんは私の他に栞さんと佳奈ちゃんにも、チケットを渡していった。
 このオジサマの目的は、おそらく佳奈ちゃんだろう。
 「いや、私は店があるし……第一……」
 差し出されたチケットに戸惑う佳奈ちゃん。だけど仲田さんは強引だった。
「来ないとネットでこの店のこと、バラしますよ」
……佳奈ちゃん、諦めなよ。仲田さんのほうが上手だよ。
 今でさえ、このオジサマが、宣伝マンと化したせいか、小さい店がお客で一杯なんだからさ。
 みやあ。と琥珀がなく。
 佳奈ちゃんは、笑いながら手を伸ばし、琥珀の頭を撫でた。
「分かった。行く」
 睡眠時間、少なくなるけど仕方ないねぇ。
 琥珀はステージをじっと見つめると、私と佳奈ちゃんを見つめてきた。
 まるで、何か聞きたいとねだられているようである。
「二人で一回やらない?」
 一回やらない=舞台に上がってセッションしようという意味だということを、佳奈ちゃんはすぐさま理解した。
 佳奈ちゃんは頷くとカウンターから出た。

※※※

 二〇一五年一月。
 CDから流れる曲が変わったタイミングで、先生はチャイを口にした。
 何気なく視線を滑らすと、琥珀御姉様がいた。
 京子先生を愛しげに彼は見つめていた。
 アタクシの視線に気づくと、琥珀御姉様は楽しげに笑い、パチンと指を鳴らした。
「え?」
「ほんの少しだけ、時間を止めたのよ。少し京ちゃんの話に、補足しておきたいと思ったの」
「……ホントに猫なんですか?貴方は?」
「残念だけど、アタクシは、言葉がわかって少し不思議なチカラが使える猫よ」
そう言うと、琥珀様は話しだした。

※※※

 二人の演奏はホント見事だったわ。
 あの日、演奏したのは、世界的に有名な泥棒アニメのジャズバージョン。
 アルトサックスとコントラバス。
 二人の歌姫(ディーバ)が其処にいた。
 佳奈ちゃんがサックスでダイナミックに歌い上げれば、京ちゃんがコントラバスで柔らかく歌い上げる。
 この二人、かっこいい。
 アタクシは京ちゃんが座っている席に座り、耳を傾けた。
「ゆづさんも報われませんねぇ」
 葛城君が、グラスを持ったまま結弦君の隣に座ったわ。
「……19歳も年下の子に、一目惚れしちまったんだからなぁ。でもまあ、仕方ない」
 え。結弦くん、いくつだっけ?
 アタクシの鑑定眼が正しければ、四〇歳は過ぎているわよね?
「48歳と29歳か……負けませんよ。俺のほうが歳が若いですねぇ」
「まさか、お前も……」
 結弦くんの顔色が変わった。
 あら、面白い。アタクシそういう話は好きよ。
 葛城くんを見る結弦君の眼差しはひどく鋭かったわ。
 葛城くんはその視線を受け、楽しげに笑っていたけど、彼のほうが余裕があったわ。
「まあ、乾杯」
 そう言うと、葛城くんは、結弦くんのコップに軽くあてた。
 かちんコップが鳴る。
 この場合、アタクシはどちらを応援すればいいんでしょう?
 正直に言おう。応援したくなかったわ。
 佳奈ちゃんの一番はアタクシだと思っていたからねぇ。
……いっそのこと、出禁にしちゃいたいけど無理だしなあ。
 そんなことを考えながら、アタクシは二人を眺めていたわ。
 
※※※

 補足を語り終えると、琥珀御姉様はパチンと指を鳴らした。
 再び時間が流れ出す。
 何ていうか、ホント、琥珀御姉様って猫?と疑問に思うが、あいにく本人は猫だとはっきり言っている。
 俺は軽くこめかみを抑えた。
「大丈夫?」
 京子先生の問いかけに、俺は首を縦に振ることで肯定した。
「センセ。話の続き、お願いします。」
 俺の言葉に先生は頷くと、再び語りだした。 
 演奏集団【BLACKCROSS】再結成になった出来事を。
「演奏家集団【BLACK CROSS】が結成されたのは、実は成り行きなのよねぇ」


※※※
 演奏家集団【BLACK CROSS】
 二〇一三年結成。
【バンド】とはいわず、【演奏家集団】と言っているのは、この集団の実力がかなり高いことにある。
 クラッシックやジャズ、ポップスetc……高名な音楽家から、【演奏できない音楽はないのではないか】と言われていた。
 サックスプレイヤーであり、リーダー・十文字佳奈を中心に、コントラバスのKYOU、ピアニストのSIORI、ドラムスSYUの4人で形成されている。しかし、十文字佳奈以外のメンバーのプロフィールは非公開となっていた。
 そして、この集団のデビューは、2013年9月に行われた恋愛アドベンチャー【恋物語】の声優イベントであったという。
「コントラバスのKYOUは、私。ピアニストのSHIORIは、山谷栞さん。ドラムスのSYUは金井修。ドラムス以外の二人は、佳奈ちゃんに巻き込まれたの。」
 ……話を聞く限りだが、先生はよくトラ
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