第1話

文字数 884文字

飛んだ
昨日の夜のことである
僕は飛んだのだ
これは夢の話じゃない
何かの比喩でもなければ
もちろん薬をやった感想でもない
僕は昨日の夜、あの空を飛んだのだ
あの日は塾の帰り道だった
すっかり暗くなった道を一人で帰っていた
とても綺麗な夜空
いつもなら電車で隣駅の自分の家まで帰るのだが、この日は歩いて帰りたくなった
今日は勉強も頑張ったし、息抜きに夜空を見ながらゆっくり帰ろう
そう思って歩いていた
すると急にとてもオシッコがしたくなった
勉強中、眠気覚ましに大量のコーヒーを飲んだことが原因だろう
どんどんどんどん尿意が高まっていく
コンビニでトイレを借りよう
そう考えたが周囲にコンビニはない
どうしたものか
そこら辺で立ちしょんをしてしまおうか
幸い人は誰もいない チャンスだ
いやいやいや、そんなことはできない
あたりかまわず道路でオシッコを撒き散らす、それではまるで犬と同じではないか
僕は人間だ、そんなことはしてはいけない
そういえばクラスで一番モテるアイツは女子達から犬系男子と言われていたな
そんなことを考えながら必死に迫り来る尿意と戦っていた
俺は必死に走る
ヤバいヤバいヤバい漏れるヤバい
家まではまだまだ距離がある
ヤバいヤバいヤバい漏れるヤバい
必死に走る俺
あぁもう限界かも…
全てを諦め、最後に飲んだコーヒーを恨んだ時、ふと異変に気がつく
自分の目線が徐々に高くなっていく
抑えていたオシッコが膀胱を飛び越えて遂に脳にまで回ってきたのか
いやこれは幻覚じゃない
俺が浮いてるんだ
空中を走っている
どうなってるんだ
混乱と恐怖が入り交じる
足を止めたら落ちてしまう気がして、必死に走った
無我夢中で空を走った
気がつくと家の近くまで来ていた
人間の帰巣本能も捨てたもんじゃない
僕は近くの電柱にしがみつき、なんとか地上に降りた
心臓がバクバクしてる
僕はすごい体験をしたのではないか
不安と高揚感で落ち着かない
身体が火照り汗が滲む
特に下半身はびしょびしょだ
ぼくは走ってきた空を見上げて思う

漏らしちゃった

僕も今日から犬系男子だ
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