2022/04/27 本屋さんに通いつめていた頃の話

文字数 1,937文字

昔は本屋さんによく行っていたが、ここ数十年はまったく行かなくなった。
欲しい本があればネットで注文できるし、デジタルで読む事もできる。
知りたい知識もネットで検索すれば、いくらでも大量の情報が得られる。
だから本屋に行く必要性はぜんぜん感じられなくなった。

昔は通り道にある大型書店に、2、3日置きには必ず寄って本を買っていた。都合があって1週間ほど寄れなかった時には、一度に1万円分以上の大量の本を購入して、紙の手提げ袋に入れてもらって帰っていた。
時間の余裕がある時にはその他の数軒の書店にも寄り、休日には遠くの書店にも足を延ばして、掘り出し物を物色していた。
買う本は、コミックス、小説、月刊情報誌、大型ムック本、How to本、PC関係、その他目に付いた各種の本だった。

ある時にコミックスを買った。レジに持っていくと、これまでに見た事のないバイトか中途採用みたいな感じの若い女性店員が、ベテラン店員と共に立っていた。
コミックスを差し出すと、その若い店員がコミックスの間に挟まれている短冊状のしおりみたいな紙(売上スリップと言うらしい)を抜き取った。その時その店員の指先を見て驚いた。めちゃくちゃツメが長い! 付け爪をしているかのように長い! 1センチから1.5センチくらいの長く尖った鋭いツメ! 書店の店員でこんなにツメの長い人物はそれまでに見た事がない!
自宅に戻り紙袋から取り出したコミックスを見てみると、売り上げスリップを抜き取った箇所に深く長い傷跡がクッキリと付いているっ!
やっぱり案の定だ。あの長く鋭いツメで売り上げスリップを抜き取る時に、コミックスに傷を付けやがったんだ。傷の付きやすい本を扱う店員が、あんな長いツメをしてちゃ絶対にダメだろ! めちゃくちゃ腹がっ立ったけど、怒鳴り込むとか返品交換を要求するとかはしなかった。メンドクサー。
まあね、この書店はある時から平積みになっているコミックスに傷が付いている事が多くなった。別に本の事など愛していない、質の悪い店員がいたのだろう。じっくりと細部まで確認しないと傷物を掴まされる。通り道にあるから便利だけど、ちょっと嫌いな店でもあった。

その書店はコミックスや小説の文庫本、単行本を買うとカバーを付けてくれていたが、自分はいつも断っていた。バスや電車、飲食店などで本を読む時には、他人に何を読んでいるのか分からせないため、又は本に傷や汚れが付かないためには良いのだろうが、自宅に置いておくなら中身が見えないと不都合だ。だからカバーは必要ない。
ある日レジで気弱そうな、でもいい人そうな若い男性店員に「カバーは付けますか?」と聞かれた。「いいえ」と答えたのだが、どうやら声が小さかったらしい。店員に再度質問された。今度は大きな声でハッキリと答えようと思い、「いりません」と答えた。するとその若い店員は、ちょっとシュンっとした表情と態度になった。この店員は自分に怒られたと感じてしまったようだ。
違うんだよっ、ちゃんと聞こえるようにちょっと大きな声でハッキリとした口調で答えただけなんだよっ! 別にまったくもってぜんぜん怒ってなんかいないんだよっ! と、口に出して言えない自分の愚かさ。
それから以後は反省して、ちゃんと店員さんに聞こえるように、声量も加減して店員さんに悪い印象を与えない言い方をするように注意して答えるようになった。


数人の高校生がコミックス売り場の奥の隅っこで、なにやらコソコソとやっているのを見た事がある。たぶんあれはコミックスをカバンに入れて万引きしようとしていたんだろうな。そういう奴らには何を言っても無駄だから無視したけれど。

その書店の外周はレンガのブロックで囲われた、狭くて小さな花壇になっていた。ある時そこにタバコとライターと黒革のサイフが落ちていた。洋モクと黒と金の派手なライターからして、落としたのはヤンキーっぽい感じの人物だろう。
落ちていたと言うより置かれていた感じ? そのレンガに腰を下ろして一服した時に置き忘れたのかもしれない。
でまあ、そんな所に置きっぱなしにしておくのもなんだしと、店内のレジの若い女性店員に「これ外に落ちてましたよー」と手渡した。店員さんは困惑したような顔をしていたが、自分の役目はここまでと、さっさと退散した。
店員さんにしてみれば、ここに持って来られても困るんだけどー。ネコババするか、交番に届けてよーって気持ちだったのかも知れないが、そんな事はどちらも断固として拒否するっ! これが自分の生き様だっ‼

(そういえば、レジの前に立ったら足元に50円玉が落ちていた事もあったな。その時も落ちてたよーって若い女性店員に渡したら、同じように困ったような顔をしていた)

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