第117話  入れ替わり体質の敗北 1

エピソード文字数 3,341文字

 ※


 聖奈ん家の旅館に泊まってから、その日の夕方。

よ~し。時間だ。行くぞっ!
うん!

 午後四時。楓蓮と華凛となり今しがた家から出た。やたら気合いが入った二人の行く先はと言うと……


 本日は坂田さん家にわんちゃんを引き取りに行く日だったからだ。




 もちろん白竹家の事は華凛と話し合ったぞ。


 だけどぶっちゃけ言わせて貰うと「これからもっと仲良くなればよい」といったシンプルな提案しか思い浮かばない。


 とにかく。前々からの約束であったわんちゃん引取りデーという重大なイベントをまずクリアせねば。

ああっもう、楽しみ過ぎる
うんうん! ずっと待ってたもんね!

 階段を降りると仲良く手を繋いで坂田さん家に向かう。



 と、同時に周囲にも目を光らせていたが、変に怪しい奴もいなければ、大丈夫っぽい。 

 一度ヤンキーに絡まれてるからな。その辺の警戒は怠ってはならない。



 後は華凛を道路側に立たせては危ない。

 車で拉致りやすくなるし、背後から来る車には十分警戒すること。


 ってかこんな日に絡んできやがったら、通常の三倍くらいで締めてやる。

 などと思いながらニコ顔で坂田さん家に向かうのであった。



 歩いて十分ほどか。わりと紫苑さんの家の近所である。

 同じような一軒屋が並ぶど真ん中に彼女の家はあった。




 やっぱりペットを飼ってるなら一軒屋じゃないと難しいよな。

 インターホンを押すと、坂田さんはすぐに出てきてくれた。

どもです。あれ? その顔どーしたんですか?
あ、これはちょっと……掃除してて、ちょっとドアに当たっちゃって
それはそれは。先輩が聞いたらそのドア破壊しそうですね。気をつけてくださいね
はいっ!
 頬の怪我はまだ消えないが、ここから四時間毎に入れ替わりまくり作戦で、この程度の怪我はすぐに消えるだろう。
はぁい~お待たせしました。名前はモモマロで良かったんですよね?
はい! ありがとぉございます

 俺よりも先に華凛が返事すると、坂田さんの母親がキャリーケースを持って来た。中には俺達が飼うわんちゃんが所狭しと暴れまわっていた。



 顔を近づけると、めっちゃ匂われてるぅ!

 まぁまて。焦るな。ミッション完了はもうすぐだ。


 はやる気持ちを抑え、坂田さんの母親に挨拶する。というか凄く似ている親子であり、遠めに見ても一発で分かるような感じがするぞ。



 わんちゃん達には血統書が付いており、その辺の説明を受けたが、事前にネットで調べていたので大丈夫です。


 そして譲渡手続きなどの書類関係はお母さんがやってくれるという。至れり尽くせりな対応に、頭が下がる思いである。

【坂田ママ】

わんちゃんを見れない時は、遠慮なく家に連れてきてくれていいですからね

はいっ! よろしくお願いします!

 やる気だけは坂田さん家の人に伝えなければ。


 バイトで見せるようなハキハキとした挨拶で受け答えしていると、玄関からもう一人の女の子がペットキャリーケースを持ってくる。

あっ

 そう漏らす華凛の顔色が変わったのを見逃さなかった。

あれ? 坂田さんにも妹さんがいらっしゃったのですか?
はい。そーなんです。ウチのとこも姉妹でして。小学校六年生です
…………
 という事は。華凛が知っている可能性があるな。
そうなんですね。私の従兄弟もそこの小学校に通ってますよ。もしかして知ってるかもしれないですね
というと。ああっ黒澤くんの弟さん?
そそ。蓮の弟で、凛って言うんです
え?

 自己紹介をしていると、坂田さん達に見えない場所で俺の服を引っ張りやがる。

 それはつまり、あんまり言うなと捉えた俺は話題を切る。

じゃあ。そろそろ……頑張ってわんちゃんとフレンドリーになります!

はいっ! 是非よろしくお願いします。

あっ。それと……ウチのママンからもバイトの許可が下りたんで、喫茶店でお世話になるかもです

マジですか? 是非是非来ちゃってくださいね!

 おおっ。これはミユマユちゃん達にも朗報だぜ。

 二人は高校入学時から、喫茶店で毎日バイトしてるからな。人数が増えればミユマユちゃん達も平日に休むことだって出来るだろう。

 


 俺と華凛はペットキャリーケースを受け取ると、坂田家に深くお辞儀をしてから、家に帰るのであった。

華凛。早く家に帰ろうっ! こんな狭い所じゃ可哀想だ
うんっ!

 坂田さん家が見えなくなった曲がり角から一気にダッシュ。華凛の持つキャリーケースまで抱えると、一目散に走り出した。



 ※

ももちゃん。まろちゃん。でておいで
でてきてね。怖くないよ

 ちなみに犬の名前をつけたのは華凛だ。

 クリーム色なのに何故「もも」にしたのか分からないが、ペットを飼うなら、それがいいらしい。


 俺が名づけたのは「まろ」である。

 これはチョコタンと言う犬種に良くある「まゆげ」っぽいのが「まろ」っぽく見えたから、これしかねーだろと思い命名。


 紫苑さんのマジョリーナちゃんみたいなセンスは無いが、自分自身でも当たり障りの無い名前だと思うし「仏滅」と「さんりんぼう」※ よりはマシだろ。


 という訳で。今日一日は……我が家に来た初ペットとの交流の為に使いたい。そして……GW最後の日の祭りまでには、一緒に散歩に連れて行きたい! それが俺が勝手に決めたノルマである。


 キャリーケースから恐る恐る出てきたわんちゃん達に飛び掛った華凛。速攻ももを捕獲してご満悦だった。

こら。お前。ビビっちまうだろ?
だってぇ、抱っこしたいもん!

 一匹が人間に捕獲されたのを見たのか、まろはケースの中に逃げ帰ってしまった。


 ああっもう。もう少しで分かり合えると思ったのに。



 そこから華凛はももを抱っこしながら、リビングを歩き回ると色々とももに言い聞かせている。

 

 華凛! ももちゃんはお前に任せたぞ。

ま~ろちゃ~ん。こっちおいで。怖くないよっ
…………ウゥ

 精一杯のスマイルで歓迎するが、とうとうキャリーケースの中で震えだしているのに気が付いた。


 ううっ……完全に怖がられている。



 こ、ここは持久戦を覚悟せねば。

 俺は絶対に……強引に迫ったりはしない。それをまず理解してもらうのだ。 



 俺はキャリーケースの前で寝そべると、まろは注意深く見ているぞ。たま~に「おいで」と声を掛ける程度にしていると、床をクンクンと匂いながら、少しづつ身体が見えてきた。


 その時、華凛がももを抱えてこちらに向かって来る。

は~やく出ておいでっ!

 その声にビビったまろはまたキャリーケースの奥深くまで潜っていくのであった。


 おい……お前。もう少しだったのによぉ……

 せっかくのチャンスを叩き潰された気分になった。

はい。ももちゃん。おやつ!

 そんな華凛の声に反応したまろ。


 俺からの視線を外し、その後ろに固定されると、俺の身体を飛び越したと思えば、速攻がっついてやがる!

は~い。まろちゃんにもあげる。あっもうっ! 取られちゃった

 嘘だろ? そ、そんな単純でいいのか? 

 簡単におやつに釣られるなんて……


 と、そんな事でヘコんではならない。おやつにがっついているまろの背中から抱っこしようとすると、これがまた楽勝に持ち上がる。

 おやつの力ってすげーと思うのだった。

 はぁうわぁ~~~かわいい。

 めちゃめちゃかわいい。なんだよこれ!


 思わずスリスリすると、わんちゃんの匂いにクラクラしつつ、俺はもう夢見心地となった。


 その間、必死にジャーキーを食らってるまろだったが、ぽろっと口から落とすと、降ろせといわんばかりに抗議されてしまう。


 しょうがないので降ろしてあげると、すぐに食らい付くまろを見ながら、床に顔をつけてニヤけが止まらなくなってしまった。


 やべかわいい。めちゃかわいい。なにこれ。

 わんちゃんに夢中になる人の気持ちが分かりすぎて痛いぜ。


 やがて食べ終わったまろはキャリーケースにも戻らず、クンクンと匂いながら部屋を探索し出すと、俺は部下のように後ろから追い掛け回すのに必死になっていた。

 ダメだこれ。可愛すぎてテンションがおかしくなる。


 警戒しながらちょこちょこ歩く姿に、俺は一瞬で気をやってしまった。


 今日一日は、わんちゃんの為に費やしてもいいだろう。

――――――――――――

「仏滅」と「さんりんぼう」※ 

60話 仏滅とさんりんぼうより。ももとまろの前の名前。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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