再会
Bar.という世界観。
「ブビンガーという材質なんですがBar.のカウンターに、どうでしょう」
1998年5月のと或る晴れた日の午後、
Bar.の内装を行う事になった担当者が言いました。
私の発注は、
店内は板張りの床である事、腰板の高さ、カウンターの高さや幅、厚さ、
バックバーのサイズに店内の色、イメージ、昔ながらのバーバーチェアー、ets.。
具体的な数字を言って、設計者に要望を伝えていました。
そして、
「カウンターには、お金をかけてください。無垢の材質でお願いします」
と注文しました。
初めての店づくりで、自分のイメージをどう伝えれば良いか解りませんでした。
20歳代後半になった頃の私は、バーテンダーとして働きながら、
将来の明確な目標に向かって、貪欲に仕事を追い求める姿勢だったと思います。
お酒その物にも魅了された私は、お酒とは何かを知りたくて、お酒の語源を調べたり、
お酒その物を造ってみたりしました。
酒を醸造する事は、自己消費の趣味だとしても、日本国内に於いては、違法行為です。
かつて、『酒造りは食事を作るのと同じで文化だ』と言って、
最高裁まで争った人物が居ました。
当時の若き私は、恐れる事も無く、情熱的に、お酒その物を追及して、
自信と夢を膨らませていきました。
将来の自分の店の『Bar.』のイメージを創っていったのも、この時期です。
想いつくままに、良いと思った事を箇条書きにして、溜め込み、
『Bar.』の世界観を広げていきました。
『バーの世界観とは何だろう?』、『何故、人はバーに行くのだろう?』
と考える日々でした。
理想と毎日の現実の世界とを見詰めていた私は、
将来、自分が経営する「Bar.」を舞台にして、Bar.の世界観を具体的に表現してみようと、
小説らしき物語りを書き始めたのです。
その物語りの中の日付は、当時からすると、未来の日付になっていて、
その物語りの最後の日付の日に、実在の『Bar.』を開店させて、
物語りを現実の世界にしようと、試みたのです。
実際には、計画より少し遅れて、『Bar.』は、開店する事となりました。
20歳代の頃の私の描いたBar.の世界観が、そこにありました。
その物語りの紹介文には、こう書いてありました。
(この紹介文も当時の自分で造った物です)
二十一世紀の夜明け前、二十世紀の面影を残したノスタルジーな酒場を覗いてみた。
そこは、
『永いお別れ』のテリー・レノックスが、昔のテリー自身に戻り、
フィリップ・マーロウに再会しに、ギムレットを飲りに来る酒場。
そして、
何と、天才科学者のアインシュタインと日本野球界の立役者スタルヒンが
酒を酌み交わし、夢を語る酒場。
また、
『酒とバラの日々』のリー・レミックと『グレンミラー物語り』のジョーン・アリスンが涙する場所。
『老人と海』の老人になり切ったヘミングウェイと
フリップ・マーロウに扮したレイモンド・チャンドラーが通う酒場。
それは、やっているはずの無い日曜日の酒場で飲んだ一杯のカクテルから始まった。
やがて、夢は、現実の姿に、、、。
目次
完結 全10話
2020年04月29日 00:05 更新
登場人物
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小説情報
- 執筆状況
- 完結
- エピソード
- 10話
- 種類
- 一般小説
- ジャンル
- ミステリー
- タグ
- #バー, #カウンター, #一人飲み, #六本木, #カクテル, #バーテンダー, #このバーの片隅で, #フィクション, #バー小説, #ハードボイルド
- 総文字数
- 18,550文字
- 公開日
- 2020年04月28日 23:55
- 最終更新日
- 2020年04月29日 00:05
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