狐は北に走る

作者 一木隆治

[歴史]

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 奈良時代の末期、この国は残忍、そして淫蕩かつ放埒な女帝に支配され、多くの者が非情に虐殺されていた。そして若き王族、春日王も女帝に殺されかけていた。が、密かに命を助けられ、かつての政敵、藤原仲麻呂と手を組み女帝を倒す謀をする。
 彼はまた、人質として都に送られる途中に酷い暴行を受けた蝦夷の長の姪、美華媛(みけひめ)を仲麻呂に預けられる。
 春日王は美華媛が負った心の深い傷を癒そうと尽力するが、ようやく媛と心が通じ合った頃、仲麻呂は女帝の謀臣吉備真備に先手を打たれ、同志や身内共々惨殺されてしまう。辛くもそれを切り抜けた春日王は、美華媛と共に、出羽の国の蝦夷の里に逃げる。
 しかし執念の鬼と化した女帝は、春日王と美華媛を己の目の前でなぶり殺しにする為に「生きたまま捕らえよ」と命じ、蝦夷の里に軍を送ってくる。
 和人の暴虐に苦しんでいた蝦夷たちも共に立ち上がり、春日王は知謀の限りを尽くして追っ手と戦い、その女帝の大軍を翻弄するのだが……。

 この作品の内容に、特に安倍政権で力を伸ばしている特定の思想信条をお持ちの方は、さぞお怒りになられるでしょう。
 しかし天皇もまた良い方もいれば悪者もいる同じ人間であり、この作品はフィクションではありますが、この時代にこのように残虐な女帝が日本を支配してこの国を恐怖に陥れていたことは、紛れもない史実であります。

登場人物

藤原疾雄……ふじわらのはやお。元の名は春日王で、黄文王の庶子。橘奈良麻呂の変に連座して、残虐な女帝に惨殺されかけるが、藤原仲麻呂により密かに助命され匿われる。そして仲麻呂と共に残虐な女帝を倒す為に働くが、女帝の謀臣吉備真備に先手を打たれ、蝦夷から人質として差し出されていた美華媛と共に、美華媛の故郷、出羽国のリシクマの里に逃げる。そして女帝の命を受けて追って来た大和の軍を、知謀の限りを尽くして討ち破る。その戦いぶりから、蝦夷たちにウェンスマリ(悪い狐)とも呼ばれる。

美華媛……出羽国の蝦夷、リシクマの巫女で媛(ひめ)。恐ろしく美しく、不思議な力を持つ。リシクマから大和の国に人質に差し出されるが、その美しさの為に酷い暴行を受け、心に深い傷を負う。その心の傷が癒えかけた頃、仲麻呂は女帝との権力争いに敗れる。そしてまたも殺されかけた疾雄を伴い、出羽のリシクマの里へと逃れる。

女帝……聖武天皇の唯一の子だが、残虐、かつ淫蕩で放埒。その性を恐れられ、天皇を退位させられ太上天皇に祭り上げられて、政務の実権を母と藤原仲麻呂、そして新帝淳仁天皇に奪われる。だが母である光明皇后の没後、抑える者が無くなり怪僧道鏡を寵愛し、仲麻呂や新帝と激しく対立する。

藤原仲麻呂……光明皇后の甥で、学があり極めて怜悧。光明皇后の信任を得て政治の実権を握っていたが、後ろ盾になっていた光明皇后の没後、女帝と抜き差しならぬ対立に陥る。ある考えがあり、春日王を密かに助命し子飼いとする。

吉備真備……大唐国に留学した大学者で、軍学にも通じている知者。春日王、そして女帝両方の学問の師であり、藤原仲麻呂とは長年の政敵でもある。

ラムアンペ……出羽の蝦夷リシクマの長で、美華媛の叔父。ただ賢いだけでなく、思考は現実的でもある。

ポロセタ……リシクマの勇者。剛勇だが、思慮には少しばかり欠けるところがある。かつては、美華媛に想いを寄せ嫁に欲しいと思ってもいた。

サウレクル……ラムアンペの息子で、ポロセタには無い思慮を補う。蝦夷には少ない平和主義者で、その為、血気盛んな部族の若い者に腰抜けと思われることもある。彼もまた、かつては美しい美華媛に想いを寄せていた。

テケレクル……リシクマの北隣の蝦夷、ペツアウイの長。リシクマのラムアンペとは旧い友でもある。しかし部族が住む地は大和の者の勢力下にあり、リシクマとと大和の間に立ち、部族の長としての行動に苦慮する。

ドマシヌペ……リシクマの西隣の蝦夷、ヤウングルの長。こちらもテケレクル同様、大和の勢力との折衝に苦慮しているが、テケレクルやラムアンペより利に敏く、油断のならぬ面もある。

アテルイ……陸奥国胆沢(岩手県南西部)の蝦夷の長の息子。大和の覇権から蝦夷を独立させることを夢見て、リシクマの里にやって来る。そして疾雄の戦いぶりに、強く影響を受け、後に坂上田村麻呂の率いる大和の大軍と激戦を繰り広げる。

カパチリクル……伊治(宮城県栗原郡)の蝦夷の長の息子。アテルイ同様に蝦夷の独立を望んでリシクマの里に来るが、己の里が大和の勢力に胆沢より食い込まれている故に、アテルイより慎重で懐疑的。そしてアテルイより長くリシクマの戦いを見届けた後、和人から伊治公呰麻呂の名と階位も貰って官人として和人に仕える。しかしアテルイより先に乱を起こし、伊治城と多賀城を陥として焼き払い、按察使兼参議の従四位下紀広純らを殺害した上で、追討軍が来る前に生きるべき新たな土地を求めて北に去る。

坂上熟田麻呂……高名な武人、坂上刈田麻呂の弟で、坂上田村麻呂の叔父。病身で出仕していない為に殆ど知られていないが、博識で恐ろしく切れる頭の持ち主。

秦吉足……橘奈良麻呂に仕えていたばかりに、主人の陰謀には加わっていなかったにもかかわらず連座させられ、罰として女帝に出羽の辺境の雄勝城の一兵士として流される。そこでまた戦で蝦夷に酷い目に遭わされ、蝦夷に対する復讐の念に燃える。

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小説情報

狐は北に走る

一木隆治  hiiraginote1574

執筆状況
完結
エピソード
19話
種類
一般小説
ジャンル
歴史
タグ
奈良時代, 蝦夷, 藤原仲麻呂, 橘奈良麻呂の変, 孝謙・称徳天皇, 道鏡, 坂上刈田麻呂, 吉備真備, アテルイ, シリアス
総文字数
164,733文字
公開日
2021年08月17日 14:49
最終更新日
2022年05月01日 16:45
ファンレター数
0