渋沢栄一暗殺男

作者 田中畔道

[歴史]

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渋沢栄一暗殺を請け負った男の“しくじり”伝。

時は明治。西南戦争が終わりいよいよ武士道精神の火が消えかかった頃、侍崩れの中年・花村幹二朗は「武士として最後の花を咲かせたい」との野望を胸に、元官僚・篠部竜央の依頼を受けて「渋沢栄一暗殺」の使命を帯びる。篠部は渋沢が大なたをふるった人事整理により東京商工会議所の役職の任を解かれ、地位も財産も失った、いわば渋沢に恨みを持つ男であった。

自分の価値を知るもののために命を捨てるのもまた武士。悲壮な決意を胸に刀を抜いた幹二朗だったが、刃先を濡らした血は渋沢ではなく別人のもの。おろかにも人違いで罪のない平民を斬ってしまったのだ!

幹二朗が手にかけたのは、足袋屋を営む商人・豊田銀平。その息子・房之助は父の仇を討たんと下手人の追跡を独自に開始する。彼が頼ったのは、親交のある陰陽師・霞屋雀心。陰陽師の能力を使って父殺しの下手人をあぶりだそうとの狙いだったが、雀心に妖術の力は備わっていなかった。陰陽師とは看板ばかりで、家系図を改ざんして自分たちは由緒ある妖術使いだと偽り、怨霊を怖れる庶民から金を巻き上げる詐欺師であった。

霞屋はお仲間の老探偵を使って銀平殺しの下手人を捜すが、これまた適当な調査で見当違いの人物を下手人にして房之助に報告してしまい、房之助は誤った人物を犯人と思い込み付け狙うようになる。そんなゴタゴタした動きの傍で性懲りもなく渋沢暗殺を狙う幹二朗、彼の前に昔なじみの元芸妓・河島緑が現れ、武士道をとるか愛をとるかで迷うようになり……。

一度もつれた糸はどんどん複雑にもつれてゆき、幹二朗たちをおかしな方向へ連れて行くのだった……。