あの夏の日の、SPブラック
大学受験を控えた高校三年の夏休みに、川村淳は東京から青森県に旅立つ。旅の相棒は、淳が生まれるよりずっと前に作られた古いバイクと古いカメラだ。
たどり着いた津軽の田舎の河原で、淳は四人の地元の女子高生と出合う。戦国武将の姫のようなお嬢様の藍華に、ゆるふわ系の可愛らしい和香奈、大人しいが不思議な存在感のある小夜、そして元気で明るい猫のような美澪……。
地元の女子校の写真部だという彼女らと知り合い、写真という共通の話題もあって仲良くなりかけるのだが、その晩、四人の少女たちのうちの一人がさらわれていなくなる。
翌日から、淳と残る三人の女子高生で、いなくなった少女を捜す日々が始まる。
実は淳の父も、三十年近く前にこの青森県で、失踪した一人の少女を探し回った過去があり、この二つの出来事が微妙に重なってくる……。
山梨県北杜市武川町の一木一族の末裔、一木孝治です。
私は本来、時代小説を書くことが多いのですが、気分を変えて現代の青春小説も書いてみたりしました。
写真を撮ることとカメラに古いレンズ、そして青森県と、私の好きなものをたくさん書けて楽しかったです。
これまで投稿してきた三作は、時代モノで比較的テーマも重く、しかもハッピーエンドとは言えないものばかりでした。ですから以前に公開した拙作をお読みになって下さった方は、作風の違いにさぞ驚ろかれることと思います。
けれど本人としては楽しく書けましたので、よろしければ皆様もお気楽に、空いたお時間の暇つぶしにお読みになって下されば幸いです。
目次
完結 全13話
2022年06月29日 04:29 更新
- 第1話 思い出の写真2021年10月19日
- 第2話 忘れ物を捜す旅2022年04月22日
- 第3話 父の大学ノート①(一九九○年春から夏・河村祐一)2022年04月22日
- 第4話 小夜と麻由子2021年10月26日
- 第5話 和香菜のキモチ2021年11月01日
- 第6話 藍華の想い2022年06月29日
- 第7話 川縁の、緑の屋根の家2022年04月29日
- 第8話 暗い沼2022年04月08日
- 第9話 父の大学ノート②(一九九〇年夏・河村祐一)2021年10月26日
- 第10話 黒い森2022年04月08日
- 第11話 時を越えて2022年05月08日
- 第12話 そして、今2021年10月31日
- 余談 魔法のレンズは実在する!(底の無いレンズ沼の廃人は語る)2022年05月08日
登場人物
河村淳……東京の、それなりの進学校に通っている。元は絵が描きたかったのだが、描く才能の無さに気付いて、高校進学を機に絵筆をカメラに持ち替える。しかし対象を緻密かつ正確に写し過ぎるデジタルカメラの描写にも今一つ違和感を抱き、絵のように美しく写してくれるカメラ(特にレンズ)を探し、父の祐一が三十年も前に使っていた、初期型のスーパータクマー55mmF1.8が付いたペンタックスSPブラックを押し入れの奥から探し出し、それを愛用する。父の祐一はそれで撮った昔の写真は全て焼き捨てたのだが、カメラとそれにまつわる青春時代の思い出を書いたノートを処分するのを忘れていた。そのノートを見付けて読んだ淳は、父のカメラだったSPブラックと共に、父の思い出の地、青森県を旅してみようと思い立つ。それも受験も控えた、高校三年の夏休みに。彼は決して不良ではないが、「良いんだよ、法律では許されてるんだから」と言って、校則など無視してバイクの免許を取り、親戚から譲られたかつての名車カワサキKH二五〇を乗り回すような自由人である。そして高三の夏の旅にも、そのKH二五〇で青森県まで出掛ける。弘前市と南津軽郡田舎館村の境を流れる平川の河原で、彼は工藤美澪ら地元弘前の城西女学院の四人の写真部の少女達に出逢い、彼女らを愛機SPブラックで撮る。しかし翌日、その四人の少女のうちの一人が失踪し、残る三人の少女と共に彼女の行方を捜す淳の夏の冒険の旅が始まる。実は淳の父も同じSPブラックで撮った愛する少女を、突然の失踪で失っていた。この時代を超えた二人の少女の失踪が、一台のカメラと共に次第に重なって行く。藍華に和香奈、そして美澪と、三人のしかも年下の女の子達に振り回されっ放しのような淳だが、彼もやるべき時にはやる……筈。
工藤美澪……城西女学院の二年生で、家は田舎館村で平川の畔。城西女学院には、入試で高校から編入した外部生。小柄で胸も控え目で、ショートの髪が似合う美少年のような女の子。服もお洒落なものより、動きやすいものの方が好き。とにかく明るく元気でノリも良く、平川の河原の土手の道で淳を最初に見付けたのも彼女。淳のバイクのリアシートを、最初から「自分のもの」と思っているらしい。馬鹿正直な彼女の弟に言わせれば、美澪は「ツルペタオトコオンナ」で、淳は「趣味ワリー」とのこと。猫を思わせる容姿と性格と身のこなしから、友達からは「ミケ」または「ミケちん」と呼ばれている。愛機はロシア製のトイカメラ、ロモ。
蠣崎藍華……城西女学院の二年生で、祖先は鎌倉時代まで辿れる地元の名家。淳の印象では、キリリとした戦国大名家のお姫さま。頭が切れ腹も据わり、彼女に言わせれば淳など「体だけ大きな八歳児」らしい。一見クールに見えるが、友達を思い大切にする気持ちはとても強い。中でも幼い頃からの無二の友、佐藤和香奈との絆は特に強い。工藤美澪や葛西小夜も、もちろんとても大切に思っている。一方、初等部からの女子校育ちのゆえか男ギライの傾向があり、友達に近付く淳には最初から冷ややかで、警戒心を持って接する。持っているカメラはライカM3、それも特に評価の高いダブルストロークのモデルで、レンズもノクチルックス50mmF1.2という最高級品だが、本人はそれを何とも思っていない。
佐藤和香奈……城西女学院の二年生で、家は弘前の隣の南津軽郡藤崎町。一言で表現すれば砂糖菓子そのもののような女の子で、声は甘く可愛く髪も天然の栗色でふわりと柔らか、瞳は夢見ようで唇はふっくらとして、絵に描いたようなゆるふわ系のガーリーな女の子。通称、わかニャー。彼女も初等部からの内部生だが、藍華とは正反対に男に対する警戒心が緩い。それだけに、大親友の彼女に悪い虫が付くことを恐れる藍華の心配は尽きない。やがて大学生や社会人になった時には、合コンの撃墜王になりそうだ。しかし意外にも、その彼女の愛機はプロも使うフルサイズ機のキヤノンEOS 1Dの最新型である。
葛西小夜……城西女学院の二年生で、家は田舎館村。工藤美澪と同じく、城西女学院には入試で高校から編入した外部生。小学校と中学校も、美澪と同じ。野に咲く小さな花のような、目立たないが可憐な少女。ただ小夜には、霊や人のオーラや未来などを視る能力があった。それゆえ学校では気味悪く思われ、母親とその愛人には能力を金儲けに使われて苦悩している。そして淳と出逢ったその日に失踪する。彼女は好きな野の花を撮る為に、マクロレンズの付いた小型のミラーレスカメラを愛機にしている。
葛西寿庵……小夜の母親で、かつては東京に住んでいた。青森に来てからはイタコとしての修行もし、今では女性週刊誌などでも紹介され、テレビの心霊番組にも出ていて、地元では「津軽の生き仏」と評判にもなっいる霊能力者。しかし実は霊視の能力は殆ど無く、娘の小夜に視させてただそれを代弁しているだけ。
福士清彦……小夜の母親、葛西寿庵の愛人。早くから小夜の能力に目をつけ、それを金儲けに利用しようと企む。そして先祖御霊供養会なる宗教団体を立ち上げ、寿庵を教祖に祭り上げてその事務長におさまり、会を思いのままにしている。そしてセミナーなるものを開き、信者を集め小夜に視させ、その報酬に高額なお金を取っている。
仁科さん……蠣崎家の使用人で、蠣崎家のベンツのリムジンの運転手。三十くらいのイケメンだが、ただ者とは思えない何かがある。
河村祐一……淳の父親。子供の頃からの憧れは写真家の森山大道で、学生時代には写真家、それも硬派の社会派のカメラマンを目指して頑張ってもいた。レンズは広角、フィルムはモノクロで……と。しかし幼なじみで二つ年下の太田麻由子が同じ高校に入学してから、祐一の人生は少しずつ変わって行く。最初は妹としか思っていなかった麻由子を、少しずつ異性として意識するようになり、彼女をモデルに写真を撮り始める。そしてフィルムもモノクロからカラーへ、レンズも広角からスーパータクマーの55mmF1,8に変える。そしてその“魔法のレンズ”を付けたSPブラックで麻由子を撮り続けるうち、二人は恋人同士になる。しかし親友同士だった筈の互いの両親は何故かそれを喜ばず、それどころかある日、麻由子の一家は忽然と姿を消してしまう。そして祐一は高三の夏休みに、麻由子を捜す旅に出る。
太田麻由子……仲の良い両親同士に育てられ、二つ上の河村祐一と兄妹同然に育つ。しかし祐一と違い、麻由子は幼い頃から祐一に恋心を抱いていた。そして高校も頑張って祐一と同じ学校に合格し、想いがようやく通じた頃、麻由子に思いもよらぬ不幸が襲いかかり、祐一の前から突然に姿を消す。
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小説情報
あの夏の日の、SPブラック
- 執筆状況
- 完結
- エピソード
- 13話
- 種類
- 一般小説
- ジャンル
- 学園・青春
- タグ
- ペンタックスSP, ST55mmF1.8, 高校生・旅, 青森県弘前市・青森市, 南津軽郡田舎館村, 三戸郡南部町・名川町, 猫系お元気美少女, 戦国の姫さま的お嬢様, ゆるふわ系リケジョ, 巫女
- 総文字数
- 144,905文字
- 公開日
- 2021年10月18日 13:22
- 最終更新日
- 2022年06月29日 04:29
- ファンレター数
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