駅前でアヘ顔ダブルピース晒して、

作者 HasumiChouji

[ホラー]

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「♪○○○なんて風邪だ♡」
「♪単なる風邪だ♡」
「♪ワクチンはいらない♡」
「♪マスクもいらない♡」
「♪P×Rなんて無駄だ♡」
「♪抗原検査も無駄だ♡」
 日曜の午前中のターミナル駅前に楽しげでリズミカルな歌が響いていた。
 素人っぽさが有るが、下手な歌じゃない。
 ただし、歌詞だけは洒落にならないが。
 しかも歌っている連中は……この御時世なのにマスクをしていない。
 なんなんだ一体……? 目を合わせないようにしよう……。

 用事を終えてた頃には夕方になっていた。
「じゃあ、皆さん、解散しま〜す」
 謎の一団は、まだ、駅前に居た、
「では、最後に記念撮影です……。ハイル・サナート・クマーラ♡」
「ハイル・サナート・クマーラ♡」
 待って……その掛け声は……。
 脳裏に思い出したくない恐怖の一夜の記憶が甦る。
 大学時代に付き合っていた元彼……そいつの実家に行ったら……家族全員があれの信者で……。
 うわああああッ‼
 ヤツらは……カルト宗教「折伏の工学」の連中だ……。

「貴方達、何考えてんのッ⁉」
 恐怖を感じたなら……立ち向かわずに逃げれば良かった……。だが、それは後知恵だ。
 そこに居たのは……それほど危険そうには見えない連中だったのだ。
「あ……午前中にも、お見掛けしましたね♡」
「ボクたちは、真実を皆さんに伝えてるんです♡」
「○○○は、ただの風邪なんです♡」
「どこがよ⁉ 重症化してる人が山程居るでしょ」
「ええ、マスゴミは、そう言ってますね♡」
「でも、マスゴミの言う事なんて信用しちゃいけないのがネット時代の常識ですよ♡」
「な……なにを言ってんの?」
「御存知の通り、ウイルスって言うのは悪霊の一種なんです♡」
 ちっとも御存知じゃね〜よ。
「だから、悪想念を持ってる人しかウイルスに感染しないんです♡」
「そして、重症化するのは……♡」
「やめなさいッ‼それ以上、言うのは……ッ‼」
「大丈夫ですよ♡」
「貴方には、まだ、救われる可能性が残っています♡」
「僕達が貴方を、きっと救います♡」
「やぁ〜めぇ〜てぇ〜ッ‼」

「♪○○○なんて風邪だ♡」
「♪単なる風邪だ♡」
「♪ワクチンはいらない♡」
「♪マスクもいらない♡」
「♪P×Rなんて無駄だ♡」
「♪抗原検査も無駄だ♡」
 そこに居たのは昨日の連中じゃなかった。
 そして、場所も違った。
 会社の最寄り駅だった。
 なんだ……一体、どうなってんだ?

「♪○○○なんて風邪だ♡」
「♪単なる風邪だ♡」
「♪ワクチンはいらない♡」
「♪マスクもいらない♡」
「♪P×Rなんて無駄だ♡」
「♪抗原検査も無駄だ♡」
 昼食時にも、また、別のやつらが居た。
「何なんですかね……あれ?」
「さ……さあ……?」
 一緒に昼食を食べに行った後輩の質問に、そう答えるしか無か……えっ?
「♪子供が間違えば♡」
「♪親も報いを受ける♡」
「♪姉が間違えば♡」
「♪妹も報いを受ける♡」
 な……なんだ……一体? どう云う事?

「あ……あの……そっちで何か変った事無かった?」
 仕事が終った後に実家に電話をかけた。
『う……う〜ん……。別に……』
「本当?」
『ひょっとして……あれ……そっちでも流行っとっとね?』
「へっ?」
『いや、変な新興宗教の人が街宣車で変な歌|を《ば》流しながらね……』
 お……おい待て……。

「♪○○○なんて風邪だ♡」
「♪単なる風邪だ♡」
「♪ワクチンはいらない♡」
「♪マスクもいらない♡」
「♪P×Rなんて無駄だ♡」
「♪抗原検査も無駄だ♡」
 翌日の朝の駅のホームでも、その歌を歌っている連中が……ああ、流石に駅員に注意され……。
「♪S県T市♡」
「♪Y町×番地♡」
「あ……あの……何を……?」
 急に歌詞が更に意味不明なモノに変って……注意していた駅員も戸惑っているようだった……。
「♪東京都E市♡」
「♪N町×番地♡」
「♪□□ハイツ♡」
「♪×××号室♡」
 ちょ……ちょっと待って……一体……どうやって……?
 あいつら……私の実家の住所と……私の妹の住所まで突き止めてやがる……。

 その週の週末を迎える前……私は……奴らに屈服した。
 警察に相談する手も有っただろう……。だが……私の実家の住所と、妹の住所を突き止めてられている上に、たった数日で、私はマトモな判断が出来ない状態になっていた。
 四六時中、頭の中には、あの歌が鳴り響き続け……。

「♪○○○なんて風邪だ♡」
「♪単なる風邪だ♡」
「♪ワクチンはいらない♡」
「♪マスクもいらない♡」
「♪P×Rなんて無駄だ♡」
「♪抗原検査も無駄だ♡」
 今日も駅前で、私はノーマスクで歌い続けていた。
 顔に作り笑顔を貼り付かせたまま……。
 私は仕事をやめ……あの教団に入信した……。
 退職金は全て教団に献金した……。
「あ……そう言えば……古川さん、最近、来ませんね……」
 私は休憩時間中に、先輩信者にそう聞いた。
「ああ……○○○病に罹って……病院のICUに入ってるそうですよ♡」
「えっ?」
「残念ですね。あの人は、せっかく、この教団に入信したのに……御自分の悪想念を払えなかったようですね♡」
「あ……あの……それじゃ……その……」
「注意して下さいね♡ 御自分の悪想念を払えなかったら……貴方も教団から追放ですよ♡」

 仕事も失なった……。
 家族も失なった……。
 洒落にならない事に、私に残されているものは、この教団だけだ……。
 あの伝染病の流行が続く中、人通りの多い所でノーマスクで何時間も過ごさねばならず……それなのに、あの伝染病に感染すれば……ロクデモないモノとは言え、最後に残された「他人との繋り」さえも断ち切られる……。
 ああ……あの時……恐怖に立ち向かわずに……恐怖から逃げてさえいれば……。

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小説情報

駅前でアヘ顔ダブルピース晒して、

HasumiChouji

執筆状況
完結
エピソード
1話
種類
一般小説
ジャンル
ホラー
タグ
サイコホラー, 不条理もの
総文字数
2,292文字
公開日
2021年09月24日 20:05
最終更新日
2021年09月24日 20:15
ファンレター数
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