ゲームクリア後レベル1の最初の村でラスボスを倒す
中古ショップで昔やり込んだロールプレイングゲームを買った。
昨日、ネットで未プレイの隠しシナリオがあるのを知ったので懐かしさから無性にやりたくなってしまったのだ。
店から出ると、突然頭から強い衝撃があった。
自分に何が起きたのか。通りすがりの人々が奇声のような声を上げる。目も見えず体も動かす事ができなかった。
意識が遠ざかる。
最後に聞こえたのは店の看板が落ちたと言う言葉だった。
「タイ!いつまで寝てるの?今日はレンくんと出かけるんでしょう?」
突然眩しい日差しが差し込みゆっくり目を開けると、女の人がオレを見下ろしていた。
「昨日夜更かししてたんでしょ!起きないからレンくん先に行っちゃたわよ」
そう言いながら布団を剥ぎ取られた。オレは渋々、目を擦りながら立ち上がる。体が軽く感じる。
周りを見渡すと知らない部屋にいた。随分とスッキリとした部屋だった。ベッド、タンス、机、椅子、観覧植物、窓があるだけ。まるで安ホテルの部屋の様だった。余計な物が無い。
「はやくなさい!」
さっきからこの人は何を言っているんだろう?まるで母親の様だ。
「忘れてないと思うけど。レンくん西の森にいるからね」
レンくんと西の森……覚えのある名称が脳裏を過ぎる。
今日買ったゲームに出てくるキャラじゃないか!レンは主人公の幼馴染みで共に旅をする仲間だ。
するとタンと呼ばれているオレは……
壁に架けられている鏡を見ると、いつもの自分の顔じゃない。
これは、グランドスラムと言うゲームの主人公の顔だ!!
なぜ……今日中古で買ったゲームじゃないか。
オレの魂がゲームに移ったとでもいうのか?
それとも夢の中か?オレは確認のために自分の頬をつねった。痛みがある。今度は壁に頭をうちつけて夢が覚めるか確かめた。
壁が揺れるほどの音を立てオレは床に転がった。クソ痛え。
少しわかった。
この夢からは逃げられない。しかもオレはゲームの主人公だ。という事は、ラスボスを倒さなければこの世界は滅びてしまうのではないか?
オレはグランドスラムのストーリーを思い出してみた。
確かこうだ。大昔、世界を揺るがすドラゴンが居た。ドラゴンは村を襲い沢山の人が死んだ。そこに一人の英雄が立ち上がり、そのドラゴンと戦って勝利すると人々は英雄を讃えるためドラゴンの体をバラバラにして13に分けた。そのうちの5個。両眼、爪、牙、尻尾、片翼は神殿を建てて祀ってある。残り8個は火山に落とし無に帰された。
だが、火山のふんかでドラゴンの体の部位はバラバラに飛んで行ってしまう。
ドラゴン崇拝者の魔道士達がドラゴン復活を企て、各部位で合成された古
いにしえ
のドラゴンのレプリカを作り出した。
しかも、この後に西の森へ向かうとドラゴンのレプリカ(失敗作)に襲われて、側に居た魔道士に主人公は誘拐される、体を改造されて人間とドラゴンの狭間となって村に帰れなくなってしまう。
しかも、幼馴染みのレンが拐われた主人公を探して旅に出るとモンスターに襲われてしまう。そんなところを助けられたレンはジョウ(ドラゴンスレイヤー)と仲間になって主人公の前に立ちはだかり戦闘を開始する。
主人公はさんざんな目に会う。
まぁ、その後お姫様やら詐欺師やらが仲間になって世界を一緒に旅をして復活したドラゴンを倒すのだ。
それがこのグランドスラムというゲームの大まかなストーリー。
そして今、主人公タンの旅立ちの朝となる。
オレ村から出ない方がよくね?
ゲームが進まなければ平凡に暮せるし、西の森行ったらドラゴン人間にされちゃうじゃん。
そんな拷問に耐えられる訳ねーだろ。
オレはベッドに戻り眠った。その次の朝まで眠ったのだ。遊ぶ約束をしたであろう親友レンを森でいつまでも待たせながら……
「タイ!いつまで寝てるの?今日はレンくんと出かけるんでしょう?」
突然眩しい日差しが差し込みゆっくり目を開けると、女の人がオレを見下ろしていた。
「昨日夜更かししてたんでしょ!起きないからレンくん先に行っちゃたわよ」
そう言いながら布団を剥ぎ取られた。オレは渋々、目を擦りながら立ち上がる。
昨日と同じ朝だ……
ゲームを進めなければこれが永遠と繰り返されるのか?
知るか!オレはそんなの関係ない。コントローラーを持ってれば別だがな。
オレはふて寝でもするかの様に布団にくるまり、主人公の家に引きこもった。
そして何度も同じ朝を迎えた約数ヶ月。
限界だった。オレは囚人か?毎朝、毎朝同じ事を繰り返す母親。その後の部屋で何もしないオレ。ネットもマンガも無いんだ。このままでは悟りを開くか自殺しかねない。
オレは家を出て、ゲームの村を歩いた。
主人公がレベル1の最初の村。民家が数軒あるだけで殺風景な所だ。村と言うより農場って感じ。村の外には川があり橋を渡るとストーリーが進む。村の出口付近で村人の男がが話しかけてきた。
「村から出るのかい?」
行くか行かないか。それとも同じ朝を繰り返すのか?
どちらにしろストーリーはもう始まっている……
「考えとく」
今はそれしか思い付かなかった。
朝、主人公タンの母親が部屋へ起こしにやって来る。レンが待ってると言うが、やはり行く気にはなれなかった。橋を渡らないとイベントも戦うモンスターも現れないので村には武器も防具も何も無い。
今持っているのはダガーナイフみたいな小さい刃物一本。子供のおもちゃみたいにそれは頼りなかった。
「こんなの木を削るくらいしか使えないだろ」
取り敢えず今日も村を歩き回る事にした。
今日は何をしよう?昨日少し村人と話したのだが挨拶くらいしか話せなかった。
そもそも何が出来るんだ?ゲームの世界と言っても今はその中に居るんだ。例えば村を出るために自分で武器を作ってドラゴンや魔道士を倒してしまえばタン(オレ)は人間のままでいられるじゃないか。
ドラゴンだって一番最初の敵だ多分弱いだろう……
いや……ダメだ……
あれは倒せない。
レンと西の森で合流した後、ドラゴンと戦闘になる。攻撃されてレンとタンが倒れた所に魔道士が現れタンを拐ってしまう。残されたレンはお助けキャラ(ドラゴンスレイヤー)と一緒にドラゴン(失敗作)を倒す。レンは拐われたタンを助け出すため仲間になったお助けキャラと共に、タンを奪還するため魔道士の実験所に向かう。
その時にはもうタンはドラゴン人間になって実験所を脱出しに一人で出口へと向かうのだが……
レンと、合流してもあのドラゴンを倒すのは無理だな。お助けキャラのジョウが居なくては倒せない。戦闘になったらオレは強制的に連れ拐われてしまうだろう。
もうすぐ日が暮れる。1日が終わると外に居てもいつの間にかいつもベッドの上にいる。
まるでリセットされているかの様に。
まてよ?
ゲームはもう始まっているのに、なぜ母親が毎朝タンを起こしに来るんだ?このゲームはオートセーブ。ストーリーを進めなくてもあの台詞が毎日繰り返されるはずはない。
バグか?意図的か?
それに村の出口付近の男、初見では居なかったはずだ。
もし……もしこれが……
ゲームクリア後のニューゲームならこれは隠しシナリオなのでは?あの日買ったのは中古のゲームだから前の持ち主のセーブデータが残っているのもおかしくない。
村に何かが起こっている。
たぶんこの変化は一日目の朝にレンがいる西の森へ向かわなかったからだ。
ネットで見た隠しシナリオはこれではなかったが幾つかある内の一つかも知れない。
だとすれば、何か、何かあるんだ。ここで。始めの村でやらなければならない事が。
早速、村の出口に居る男に会いに行った。
「おい」
オレは出口付近にいる男に話しかける。
「村から出るのかい?」
「出る。と、いったら?」
「出ない方がいいぜ」
「なぜだ?」
「頼まれてんのさ。村人を外に出すなと」
「誰に?」
「クーゴって奴だ。知らないだろ?」
知っている。クーゴとは後に仲間になる詐欺師の事だ。ゴロツキなどに仕事の斡旋もしている。とある組織を裏切って死にかけたりするキャラなのだが……
何が関係してると言うのだ。
村から出るなか……
なら村に何があると言うんだよクーゴ。
そう言やぁ、クーゴの昔の女がこの村の近くに隠れ住んでたな。
彼女はレアアイテムを守る一族の一人でクーゴの組織がそれを狙って彼女に近づくが結局その秘宝は守られたまま彼女は亡くなってしまう。
クーゴを仲間にしてこの村に戻って来た時確か彼女が住んでた家が行けるようになったんだが。
ゲーム二週目の記録ならもしかして行けるのか?
どこにあったっけ?
ストーリーの中盤の話だからなぁ……
村の出口から反対側の見えない場所にあったはず。
村は木の柵や石垣で囲まれている。家があるならキャラが通れる隙間があるはず。
柵を乗り越えて適当に歩き回ろうと思ったのだが、柵を試しに超えてみたところ出たはずがいつの間にか内側に戻っている。つまり、柵を乗り越えて村から出る事は出来なかった。
オレはゲーム通りに村を囲っている柵を辿って村の外に出れそうな隙間を探した。
隙間があるはず。
はず……
はず……
はず……
村を何十周もしたが抜け道は見つからなかった。
夜になっても見つけられず、オレは日の出と共に家に強制送還された。
部屋の窓から外を見てみた。この家にも柵が建っている。その柵の向こうはススキの様な植物が茂りその奥には森になっているではないか。
下に降りて柵をいじると少しぐらついて今にも壊れそうだった。そうだ、ここでイベントが発生してこの家の柵が壊れるんだった。しかも、壊すのはこのオレだ。
人間だった頃の思い出があるこの村を一人で隠れながら仲間の用事が済むのを待っていたタン。そこにタンを殺そうと追って来たアサシンが攻撃してくる。タンは自分家の柵に倒れこんで壊し、草むらの奥の森へ逃げ込む。逃げ込んだその先にクーゴの彼女が昔住んでいた家があるんだ。
別行動をしてたクーゴもその家の中に居たなぁ。
あいつその時こんな事言ってた。
『お前をこんな形で帰すつもりじゃなかった』
あの柵を壊そう。
行けるとしたらそこしか無い。
オレはぐらつく柵を思いっきり押し倒した。柵と一緒に自分も倒れてしまった。
すると草むらの方に何か光る物が落ちていた。
これは、王家の紋章が刻まれた指輪は……キリービル。通称キリーが落とした物じゃないか?
キリーは追放された元お姫様。王族の争いによって命を狙われる。城を出たのは10歳にもならない頃。叔父に殺されかけ、行方不明になるとアサシンの村で命を救われ身分を隠し姿を変えて自分もアサシンとして成長する。タンと初めて出会った時は男のなりをしていた。
タンを殺そうとしたアサシンのキリー。タンが反撃したその時に落としたのかもしれない。
初期に出会ったキリーはタンの事を酷く嫌ってたっけ。
キリーの父親(元国王)がドラゴンを恐れ嫌っていたから仕方ない事だけど。
これがあると言う事はやはり、これはゲーム二周目なんだな。
でも……そうすると村の外と内とで時空が歪んでないか?
そんな考えがめぐる中オレは森の中にある家へと向かった。
森の中にある家は崖をくり抜いて作った様な家だった。家の中は埃っぽく人は誰も居ない。もう人は住んで居ないようだった。テーブルが一つ椅子が二つベッドが二つ……
秘宝を守る一族の娘は父親と二人暮らしだった。
だが、彼らが何を守っていたのか本編では明かされていない。オレが見つけだしていないだけかも知れないが、何を隠しているんだろう。
この小さい家の中を一通り物色したが、それらしい物は出てこなかった。
部屋の奥には階段があり登ると外に出て彼女のお墓が建てられている。
崖の上は草が生え墓石の周りには花が無造作に咲いていた。誰かが花の種を撒いたようだ。墓石には名前が彫られ何かの宝石が埋め込まれている。
「もしかして、これが秘宝なのか?」
「違うな。それはその子の形見さ」
「あんたは……村の出入り口にいた男!!」
いつから背後にいたんだ?人の気配などしなかった。それに村にいた時と雰囲気が違う。
「お前、クーゴを知っているな?でなければここを知っている筈はない」
「知ってる」
「……上を見るがいい。あの空に浮かぶ哀れな幻想の塊を」
そう言われて、空を見上げると空の上に大きな大地、いや城のような物が浮かんでいた。村にいる時は気付かなかったが真上にあんな物があったなんて。
「あれは魔道士達が作り上げた天空の大地、グランドスラム。古のドラゴンを復活させるための祭壇。そこに13のパーツが集結されるドラゴンを復活させる為に」
グランドスラム……ドラゴンと戦うラストステージ。
「教えてくれ!何であんたはクーゴを知っているんだ。彼女が守ってた秘宝って何なんだ?」
「私達は秘宝を守る一族だった。娘を王都へやるんじゃなかった。我々の魔力はそこら辺の魔道士達よりも強い。強すぎる魔力は身体を蝕む。その為、体の何処かに魔力の結晶化が現れる、それを狙われてしまったのだ」
「あんた、彼女の父親だったんだな。墓石の宝石はその魔力の結晶?」
だからドラゴン崇拝者に狙われたのか。
襲われていたところをクーゴに助けられるが、やがてクーゴの組織が彼女の事を知る。
「我々の時間は余りにも短いだからあの子に自由を与えたかった。だがもう私にはそこまでの力が残っていない。だからクーゴの頼みを聞いてやったのさあの子の為に」
「クーゴはあんたに何を頼んだんだ?」
「この村を守ってくれと……」
「クーゴが?何から村を守るんだ?」
「来なさい。」
この男について行くと家の地下に降りて行った。地下は洞窟の様になっており、真っ直ぐ長い距離を歩くと広い空洞に出た。
そこにはラストステージで召喚されるドラゴンの頭部が魔法陣の上に祀られていた。
「これが我等一族の秘宝。そしてこの上には君の村があるのだよ」
そうか!ラスボス戦で魔道士が頭部を召喚して飛んで来たんだ。これが村にあるなら村の人々は……
「だから村の時間軸がずれているんだな。何度も同じ朝を迎えていたのはあんたの力だったのか」
「そうだ。そして村の時間を止めた為にドラゴンの頭部も存在し続ける。グランドスラムが現れた時から村は狙われていたから、時間を進めることが出来なかった。」
「オレにどうしろって言うんだよ」
「倒せ。お前しか居ない。この結晶を使うといい」
そう言って男は墓石に埋め込まれていた魔力の結晶を、オレに渡した。
「お前の仲間達は今、グランドスラムでドラゴンと戦っているだろう。お前とこの村を救う為に」
男の体は光だし透けて見えた。
「……娘の為に残しておいた魔力だったんだがな……」
「お、おい……」
男の体は輝き弾けた。男の体は跡形も無く、周りには魔力の結晶が散らばっている。
オレは男から受け取った魔力の結晶を握り締めた。目の前にあるドラゴンを睨みつける。
こいつさえ、こいつさえいなければ……
「わかったよ。みんな」
オレは持っていたナイフと結晶を重ねて願った。
「ドラゴンを倒す力をーー!!」
ナイフが光だし結晶と一体化となり魔法の力が宿った。
オレはドラゴンの額にナイフを突き立てる。
「ーー消えろ!!」
ドラゴンの叫び声の様な物が聞こえた。
突き刺した場所からヒビ割れの様にドラゴンの頭が壊れボロボロと崩れた。
オレの静かなる戦いは終わった。
村には新しい夜明けを迎えていた。
村の入り口で朝日を眺めて居ると、懐かしい人影が現れた。
「あれ?タン!なんか懐かしい姿だな!」
レン!
「久しぶりだなタン!元気だったか?人の姿バージョンは初めて見たな」
ジョウ!
「バーカ、今では正真正銘初めましてだよ」
クーゴ!
「……」
なんか喋れよ姫さま。
「お帰り、みんな!」
初めましてじゃないさ、小さい頃からオレは君たちとずっと前から一緒に旅をしていたんだから。
そう言えば姫さまに拾った王家の指輪渡さなきゃな。
これってもしかして、次の隠しシナリオ?
目次
完結 全1話
2020年11月08日 13:47 更新
登場人物
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小説情報
ゲームクリア後レベル1の最初の村でラスボスを倒す
- 執筆状況
- 完結
- エピソード
- 1話
- 種類
- 一般小説
- ジャンル
- ファンタジー
- タグ
- 異世界転生, ドラゴン退治, 短編, ゲーム, ハイファンタジー
- 総文字数
- 6,505文字
- 公開日
- 2020年11月08日
- 最終更新日
- 2020年11月08日
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